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戦闘舞踏 第一部 ―封印された島国―  作者: 真北理奈
謎の島の中の大迷宮
6/13

Strategy5:幻惑と恐怖の先に

 ラルクから貰った黒いメガネをつけて歩いてみると黒や白の物体が見え隠れしていた。

 レイザとディールは自然の遺跡とも言えるジュピターと繋がっている幻惑の森『リーフグリーン』を歩いていた。

 元々ジュピターとリーフグリーンは一帯であったことが容易に伺えるが、何故わざわざジュピターとリーフグリーンという二つの名称を用いるのか、二人には謎であった。

「それにしてもさ……」

 蚊の鳴くような声がレイザの耳に入る。そこで彼はディールがこういった物体が苦手であることを認識し、密かに笑った。

「お前、そんな根性じゃこの先しんどいぞ」

「……笑うなよう……」

 レイザの勝ち誇ったような笑顔を見たディールは恨めしそうに彼を見上げる。

「……何だよ、その勝ち誇った顔……」

「え、そんな顔してたか?」

 白々しい返事にディールは悔しさのあまり顔を真っ赤にしてレイザを睨んだが、彼には全く効果がないことも知っている。

「さて、まだまだ道は長いぞー」

 どうやらディールをやり込めたことに対してかなり気分が良いようだったらしく、レイザは弾んだような声で先を急いだ。

(あいつ、絶対に、)

 究極の負けず嫌いであり、それから……と、考え続けたがディールでは上手く表現出来ない。

 何故『それから』に繋がる何かを考え出したのは、あることを思い出した為である。

(ゼーウェルさんの前では、何か取り繕ってる気がするんだよなあ)

 本当のレイザは負けず嫌いで、勝ったらこんな風に喜んで、まるで子どもみたいだった。

「ねえ、レイザ」

 周りの景色も忘れてディールはレイザに話し掛ける。

「お、どうしたんだよ?」

 ディールとは対照的に幽霊や暗闇には全く恐怖心がないレイザ。そんな彼にこんなことを聞いてもよいかと一瞬考えたが、最終的にはレイザだからいいかと思って聞いてみた。

「ゼーウェルさんって、かなりミステリアスだよね」

 それはディールらしい率直な感想だった。

 どこか取っつき難い雰囲気を纏うゼーウェルに、ディールはどこか戸惑っているような、少しばかり情けない声を上げた。

「うーん、そうだなあ」

 ディールの感想にレイザも同意せざるを得なかった。

 確かに――そう、確かにゼーウェルは取っつき難い。

 彼の物言いや行動が取っつき難さを更に加速させているのだろう。彼を冷徹だと言う者の声もよく聞く。

「ところで、お前さ」

 今度はレイザがディールに疑問を投げ掛ける番だった。

「なあに?」

 情けない声を上げた後は何も考えていないことが分かる間抜けな声。

 レイザは苦笑しながらディールに聞いた。

「あれ、見ろよ」

 何時の間にか黒いメガネを外していたディールにもう一度黒いメガネを装着させる。

「あそこ、あそこ」

 レイザが指差したのはディールから右斜め前。

 鬱蒼と並ぶ木々が邪魔で生き物は見えないが森の中とは明らかに似付かわしくないものがいる。

「能面みたいなのが浮いてないか?」

 レイザはクククと笑いながら指差した。

「……っ!」

 その後、レイザの隣を歩くディールから思い切り足を踏まれたのであった。


****


 自然の遺跡であるジュピターよりも尚色濃い緑の色。

 本来、緑色は目に癒やしの効果があるようだが、リーフグリーンと呼ばれるこの森の色はあまりにも濃く、気分が落ち込む。

「……森って癒やしの効果があったんじゃなかったの……?」

 時折聞こえる悲鳴と物体が蠢く音がして、ディールの顔から血の気が引いていた。

「ジュピターが遺跡だからな。仕方ないんじゃないか?」

 ディールの疑問にレイザはあっさりと答えた。

 どうやらレイザは遺跡を古代からの廃墟と思っているようだ。

 木々の間から見える浮遊物――俗に言う幽霊というものなのだが。

 しかし、レイザにはこの浮遊物が人畜無害であることを何故か知っている。

 どこでそんな情報を得たのか分からないが、確信に近いものを持っている。

「……何で分かるんだよ?」

 理由の分からない決めつけから浮遊物を怖がっていることも相まって、ディールは疑わしそうな視線をレイザに向けて聞き返した。「俺にもよく分からないんだが、今のところあいつらが俺らに手を出すつもりはないらしい」

 そう言われてみればその通りだった。

 如何にも悪霊と言える存在も、レイザ達の姿を見て襲いかかろうとはしなかった。

「ただ、奴らはかなり警戒しているな」

 まるで何かを守るように。

 どうやら彼らが牙を剥くには何らかの切っ掛けがないといけないらしく、その切っ掛けはリーフグリーンを突破する上で必要なものであることが分かる。

 それがアイテムなのか、自分達に降りかかってくる災いなのかは定かではないが。

「闇雲に進んでいても行き詰まるだろうな」

 レイザの言っていることは道なりに進んでいても打破出来ないということだ。

「えっ?」

「浮遊物を見てみろ」

「ええっ?」

 いきなり言われてディールは恐る恐る木々の間から浮かぶ浮遊物を見つめる。

「あいつらがいるところは、もしかしたら」

 レイザが何かを思いついたように言ったので、ディールは抗議の視線を向ける。

「そう言えば、ディールは気にならなかったか?」

「えっ、いったい何を?」

 突然の問いにディールは戸惑いを隠せなかった。

 レイザは自分のペースで話や行動を進める傾向があるため、こういったことに遭遇すると対応出来ない。

「だからさ、さっきから同じところをぐるぐる回ってないかって言いたかったんだよ」

「そんなこと一言も聞いてないよ!? さっきまでミステリアスなゼーウェルさんについて話していたじゃないか!」

「少しは考えろよ」

 レイザは溜め息をつき、呆れたような視線を向けるが、何故こうなるのか。

(意味分かんないよーっ!!)

 挙げ句の果てにはレイザから深々とした溜め息をお見舞いされ、ディールは恨めしそうに彼を見つめた。

(あれがゴーイングマイウェイって言うんだ、絶対)

 レイザのペースに振り回されながらリーフグリーンを進んでいくディールである。

 それから数分後、取り敢えずレイザに説明を求めるために、少し立ち止まってもらうことにした。

「あの、木々の間にいた……ゆ、幽霊? あ、あれが、どうかしたの?」

 そこを聞かないとこの先とても苦労してしまいそうな気がしてディールはレイザに問う。

 それはそれは滅多に見られない切羽詰まった顔で、レイザは大きく頷いた。

「ああ。だがな、聞いたらお前、気絶するんじゃないかと思って言わなかった」

 とってつけたようなレイザの物言いにディールは冷たい視線を送る。

(面白がってる。絶対、面白がってる)

 後から思えば浮遊物についてレイザがちらほら言っていたことを少し思い出したディール。

 別に悪くはないが、レイザのペースで何もかも進みすぎて頭が上手く回らない。

「まあ、とにかくだ。あいつらをどうにかすれば先に進めるって俺は思うわけだ」

「ど、どうにかすれば……」

 嫌な汗が流れるのを感じたディールだが、もしかしたら違うと思い、黙って聞くことにした。

「まあ、あいつらを刺激したりすることかな。戦うとか戦うとか」

「ちょ、ちょっと」

「つまり、思い切って茂みの中に入ってしまおうぜってことだよ」


 ――何言ってるんだ?


 ディールは完全に頭が真っ白になってしまった。

「もう、どうにでも、してくれよ……」

「わあっと……おい、ディール?」

「あははは…………」

 どうやら完全に違う方へ飛ばされたようだ。

 いくら揺さぶってもディールの意識は彼方へ飛んでいったまま、暫く戻ることはなかった。


****


 レイザの話を分かり易く纏めると、この無限ループを終わらせるためには、浮遊物に何らかのアクションを仕掛けなければならないということなのだが、頭が酷く痛みがするのは苦手なものに嫌でも直面しなければならないという苦しみからなのか。

「レイザー……」

 ディールは顔を真っ青にしながらレイザの後を追う。

「お前なあ、そんなに幽霊嫌いなのか」

「だってー……取り憑かれるし、最悪の場合呪い殺されそうだよー」

「でも、そういうやつがうようよいる場所だからな? まあ、そんなに怖いなら俺の後ろから離れるなよ」

「うん! こういう時にレイザは心強いねー」

「急に顔色よくなってるじゃないか」

 初めからディールに振り回されていたレイザだが、どうやらここでも振り回される羽目になるようだ。

 しかも、態度や気持ちがコロコロ変わるから相手にする側からするとたまったものではない。

(はあ、疲れる)

 甘く見ていたのが運の尽きなのか、リーフグリーンを彷徨い歩いたことも相まって相当な疲労感が溜まっていたことに気付く。

(はあ……)

 ディールに気付かれないよう溜め息をついたところ。


 ザワザワ……。


 弱く拭く風の音が聞こえる。

 ジュピター以上に木の葉が密集していて何時でも暗いリーフグリーンには少し不気味な感じがした。


 ザワザワ……。


(……ん?)


 レイザは立ち止まって上を見上げた。しかし、彼が急に立ち止まったので、ぴったりとくっついていたディールは危うくぶつかりそうになった。

「わっ……れ、レイザ」

「静かに」

 抗議の声を上げようとしたディールの口にレイザは人差し指を当てる。


“……イデ”


 ザワザワと木の葉が揺れる音に混じって微かな声が聞こえる。

「あ……」

 漸くレイザの意図を察したディールもじっと意識を集中させた。


“……オイデ……ソ……キ……タ……”


(何かを伝えようとしている)

 意識を集中させると、今度は明確に聞き取れた。


“ソノキヲツタッテ、アルイテオイデ”


 注意しなければ風にかき消されそうだ。

 二人は声の言う通り、近くにあった木の幹に触れながら歩いた。

 一本の大木のゴツゴツとした質感は不思議なもので、二人に安心感をもたらした。

 そうやって木の幹に触れながら歩いていくと、手にゴツゴツとした感触がなくなったことに気付いた。

「きっとこの先を進めば」

 曲がり角を曲がった瞬間、二人の背に戦慄が走る。


“キィィィ!”


 急ブレーキを掛けたような鋭い悲鳴が耳に入った。それもずっと悲鳴が響いている。


“ガタガタガタ”


 鋭い悲鳴を聞いた数分後、今度は何かが揺れている音も響き出した。

「……ちょ、ちょっと……」

 これには流石のレイザも頭が真っ白になり、その次の瞬間。

「ぎゃああああ!」

 いけないことだと分かっていても湧き上がる恐怖感から悲鳴を上げる二人。

 揺れるような謎の音とどこから聞こえているのか分からない悲鳴。

 更に二人を恐怖に陥れたのは四方八方から出てくる細い手首。

「あっちに入るぞ!」

 次の曲がり角を見つけた二人は素早くそこに飛び込んだ。

 それでも悲鳴と揺れるような音は消えず、二人は一心不乱に走り続けた。

 幽霊なのか、それとも別のものなのか。

 走り続けた結果、漸く音から逃れた二人は最早ヘトヘトだった。

「……もう、だめ……」

「……実際に見ると……」

 途切れ途切れにしか話せない様子が、今までどれだけ走ったのかが分かる。

 謎だらけの深き闇の森、リーフグリーンを突破するのにはまだまだ時間が掛かりそうだ。

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