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戦闘舞踏 第一部 ―封印された島国―  作者: 真北理奈
謎の島の中の大迷宮
4/13

Strategy3:抹殺命令は暗暗裏と進行する

 ルイズから指示された目的地『ジュピター』へ向かうレイザとディール。

「遺跡まで、あとどの位で着くんだ」

 やはり短気なレイザは苛立ちを露わにしてディールに問いかける。

「せっかちだよー! 怒りながら言われたって分かんないよー!」

 ディールの言わんとしていることは最もである。彼もフィリカには初めて行くのだから分かるはずはない。

「いや、お前の事情は分かっている。しかしだな、よく見ろ」

 レイザは周りを見ろと半ば命令するようにディールに向かって言った。

「どうかしたの?」

 レイザが何をそんなに怒っているのか。さっぱり分からないといった表情でディールは首を傾げる。

「大体お前のせいで俺は散々振り回されたんだよ」

 どうやらレイザが苛立っている理由はエミュータウンでの一件にあるようだ。

 深刻な表情を浮かべるレイザに対してディールはかなり楽しそうだった。

「まあレイザの言わんとしてることは分かるよ。スリルがないから退屈と言えば退屈だよねー!」

「お前なあ……。万が一を考えられないのかよ。例えば敵に襲われたら、とか」

 あまりにもお気楽な様子でいるディールにレイザは何度か目の溜め息をついた。しかし、ディールは先程のレイザの言葉を受け、益々目を輝かせて言った。

「燃えるじゃないか。追い詰められながらも漸く敵を振り切り、目的地に到達。ドラマあっていいし、そう思わない?」

 ディールは目を輝かせながらそんな事を言っている。

「ディール、寝言は真夜中にぐっすり寝てから言えよ」

 何故、ディールは此処までお気楽でいられるのかと目を見開くレイザ。

 そういったやり取りをしながらフィリカを歩くこと数十分が経ったように思うが、一向に遺跡らしいものは見つからない。頂点に登った太陽の光が二人を照りつけ、生い茂る草木が揺れ、二人の足に触れた。足に纏わりつくような感触がとても不快になり、顔を歪める。そもそも、フィリカに入った時から魔法はおろか剣も使えないということを聞かされ、対抗する手段がほとんどないのだ。

 こんな状態で敵に襲われたらほとんど抵抗出来ない。

 アイーダやルイズからその話を聞いた時、最初は内心疑っていたが、フィリカの島を歩いていると、彼女達の言っていることが何となく理解できた。

 この島は、外部の人間からの侵入を防ぐためなのか、何かが張り巡らされているような感じがした。しっかりと気を持っていなければこの島全体に流れる『何か』に弾き出されそうな気がした。

(いったい何なんだ……糸がピンと張りつめたような、何とも言えない緊張感は)

 この島に流れる『何か』の正体はバリアなのだろうか。

 一般的にバリアというものは基本的に対象物を守る事に重点を置いている。しかし、フィリカに流れる『何か』はバリアとは大きく異なっていた。

 守備的な役割を果たすバリアに比べて、フィリカに流れる『何か』は此処に侵入した者を容赦なく切り裂くという、どこか攻撃的な雰囲気があった。

(こんな重くて鋭いものが流れている……。その正体は何か、いったいフィリカで何が起こっているのか)

 レイザは辺りに流れるものの正体が気になってしまい、言葉一つ発さなくなってしまった。

「レイザ、何かあったのかー?」

 流石のディールもレイザの様子がおかしいと思ったのか、レイザに問いかける彼の声はどこか気遣うようなものだった。

「あ……いいや、何でもない」

 ディールに気遣われ、レイザは咄嗟に首を振って答えたが、その声には堅さが滲んでおり完全に取り繕えなかったことを少し恥じていた。

 レイザは口にこそ出さないが、年下であるディールを守らなければならないと内心強く思っていた。

(ゼーウェル卿)

 ふと、あの時のことを思い出した。


 ――そう、ディールと初めて会った時のこと。


****

 いつものように、ゼーウェルの帰りを待っていたレイザ。 ゼーウェルは今まで出会って来た人物と違い、自分に対して何の恐れもなく手を差し伸べてくれた。

 確か、ゼーウェルとの出会いは三年前だった。家もなく、様々なところに雇われた彼は主の言うとおりに従い、報酬を得るために働いた。勿論怪しい仕事は一切引き受けていないが、それに近いことはやっていた。しかし、働いて得た報酬はとてもちっぽけなもので、主は用無しと言わんはがりに彼を冷たく追い出した。

 時には命懸けの仕事を引き受けたこともあった。内容はそこに雇われ、いつの間にかその兵隊に加わっていた。今でこそ、兵隊を束ねていた国の名前が『ハイブライト』であることが分かるが、それだけだった。その時のことは断片的にしか覚えていない。

(同級生に、メーデル、ラルク、ルディアス、ルキリスっていう奴の名前があったな)

 特にラルクは自分にかなりの因縁をつけていたため、嫌でも覚えていた。

 ラルクのことを思い出し、ゼーウェルに拾われたこととディールを紹介された時のことを思い出した。

「レイザ、お前に会わせたい子がいるのだが、時間はあるか?」

 ゼーウェルの問い掛けから始まり、彼にディールを紹介された。

「よろしくっ!」

 ゼーウェルの話が一通り終わると、ディールから発せられた軽い返事に呆れたのを覚えている。しかし、何故か悪い気はしなかった。(思えば、こいつとの出会いが全ての始まりかも知れないなあ)

 レイザは苦笑し、隣を歩いているディールを見た。

「俺の顔に何かついてるのー?」

 ディールはポカンとした様子でレイザを見ていた。

「いいや、お前には関係ないよ」

 わけが分からないといったディールに、レイザはそう言って再び歩き始めた。

「ジュピターはどんな場所なのかなあ。とっても楽しみ!」

 今から敵地に乗り込むかもしれないのにディールは相変わらず呑気なものだった。

「おいおい……」

 そんなディールの言動にレイザはますます呆れずにはいられなかった。これから、何かが起こるのかも知れないのに警戒心も慎重さも彼には全くない。

(……案外、この呑気さと前向きな性格に救われる事も多いかも知れないな)

 その前向きさがディールの魅力でもあり、短所でもあると常々思っていた。その前向きさが短所となった時、サポートするのが自分の役割だとレイザは思っていた。

 聖なる遺跡と呼ばれるジュピターへ行くため、二人はひたすらフィリカの島を歩いていた。


****

 フィリカをひたすら歩いていたレイザとディール。いったいどのくらい歩いていたのだろうか。

 漸く、雰囲気が少し変わったとも言っていい。

 ルビーやサファイアなどの宝石が埋め込まれた女神像がちらほらと見えてきた。

「うわー……宝石が嵌め込まれているよ。綺麗だねレイザ。さて、お宝ないかなあ」

(……頭が痛い)

 先程考えたことは間違っていたのだろうか。この様子を見る限り、やはり前途多難である。

「レイザ、見てみろよ。綺麗だよね」

 女神像を指差し、ディールは目を輝かせた。

 段々と女神像の数が多くなっていき、はしゃぎ回るディールに苦笑いせずにはいられないレイザだが、少なからずこの女神像に嵌め込まれている宝石が気になっていたのも事実である。

「まあ、確かに綺麗だよなあ。流石、聖なる遺跡というべきか」

「だろ? お宝もついでに見つけるよ!」

「……」

 ディールの言葉に同調こそしなかったが、あわよくばお宝も頂こうと思い始めたレイザである。 そんなやり取りをしながら歩いていると、一際大きい女神像が左右に二つに並んでいた。

「どうやら、ジュピターに突入したらしい」

「そうみたいだね!」

 左右にある女神像を見たレイザとディールは互いに頷いた。恐らく、この先がジュピターなのだろう。

 周りに敵はいないかと警戒しながら、ゆっくりと歩き始めた。


****

 左右にあった二つの女神像を越えると、形状のよく分からない甲冑を身に纏った兵士の銅像が一直線に並べられている。どちらかと言うと古代の遺跡の跡地というべきか。外部の人間を遮断している島の中にある遺跡からなのか、どこか神秘的な雰囲気が漂っていた。

「……何か異様な力が(ほとばし)っているような気がする」

 ある程度まで歩いたレイザはどこか禍々しい雰囲気が漂っていると感じた。勿論、直感でそう感じるだけであり、根拠はどこにもないのだが。

 隣を歩いていたディールもレイザと同じく異様な雰囲気に気付いたようで、どこか落ち着きがなかった。

「エミューでアイーダが言っていた連中のものなのか?」

 どことなく漂う邪悪なエネルギーが流れているような気がしてならないと、レイザは顔がひきつる。

「……魔術師か。ディール、さっさと歩け」

「……わかった」

 レイザの表情から、ディールも何かを感じ取ったのか、足音を忍ばせて進み始めた。

 足を忍ばせ歩く二人。ある程度のところまで来ると、レイザの言う通り敵が潜んでいた。

 漆黒のローブを身に付けた者達がこの辺りを行き来しているようだ。恐らく、今ここにいる者達は見張りを任されているのだろうが、何故漆黒のローブを身に付ける者達がこんなところにいるのだろうと疑問を感じた。よく分からないが、見つかればかなり危ういことになるとレイザは判断し、見つからないように息を潜め、進んで行く。

 見張りを務める者達の姿が見えなくなってきたのを確認した二人は一気に駆け抜けようとしたその時だった。

「誰だ!」

 見張りの一人が声を上げる。

(ディール、逃げるぞ!)

 見張りの一人はまだ辺りを見回しており、自分達の姿を特定していないことが分かる。 見つからないよう障害物を利用しながら一気に駆け抜け、兵士の銅像を見つけた二人はそこに身を隠した。

「……ラルク様に報告しなくては」

 暫く二人を探していたが、ラルクに報告することに留まり、持ち場に再び戻っていた。


*****

 辺り一面は雪で覆われており、白銀の世界と表現するに相応しい。その白い道を歩く一人の男がいた。

「……行かなければ、早く行かなければ……」

 何かに苛まされたように繰り返す言葉。いったい何処へ行くと言うのだろうか。

「……ゼーウェルを逃がすな、必ず捕らえ、魔鏡(デスロック・ミラー)に放り込むのだ!」

 突如、鋭い号令が響き渡る。

「……見つかったか」

 白い道を歩く人こそ、フィリカに行くと言ったきり行方を眩ましたゼーウェルその人である。

「……悪いがここで止まるわけにはいかないのでな」

 その言葉とともに彼は黒く輝く刃を自ら生み出し、立ち向かって来る者達を切り裂いた。

「……血が……」

 足元に視線を落とすと、先程まで真っ白だったその場所は赤黒くなっている。ふと、ゼーウェルは後ろを振り向いた。

「……?」

 そこには誰もいないが、辺りに漂い始める禍々しい気は今まで感じたものとは違う。


 ――もっと邪悪で、この空間を歪ませることが出来るほどの何か。


(逃げた方がいい)

 ゼーウェルは直感でそう感じた。別の道を探そうと辺りを見回した途端、先程よりも強い力が働き始めているような気がした。

 足元には赤と黒が交わった血飛沫の跡と身体に感じる疲労感が彼の体を容赦なく蝕んでいく。それでも先に進まなければならないが、体が鉛のように重く、足が言うとおりに動いてくれなかった。

(此処で負けたらレイザに矛先が向いてしまう……!)

 それだけは何としても避けたいと思ったゼーウェルは、動かない体に鞭を打って動こうとした。

 この先に行ってしまえばこちらのものだと、ゼーウェルは確かに思っていた。

(このまま、このまま進めば)

レイザには何も知らせていない、レイザに矛先が向いてしまったら単身で此処まで来た意味もなくなる。

「何としても、行かなければ」

 ただ純粋に目的の為に歩く、それだけだった。

「……!?」

 背後からの気配にゼーウェルは驚愕した。突如、彼の目の前が暗闇で覆われ、身動きが取れなくなる。

「……悪足掻きもこれまでだよ、ゼーウェル」

 背後から響くのは気味の悪い程静かな声。声の主は誰なのか、いったい何故ここにいるのか、ゼーウェルは理解出来ずにいた。

「俺から逃げることが出来ないのはお前がよく分かっているじゃないか」

「自分の状態を確認しろよ」

 ゼーウェルが戸惑っているのを見透かすような声とともに、視界が急に開けた。

「下だ、お前の足下を見ろ」

 酷く不快な声の筈なのに何故か彼はもう一度足元を見る。

「……!?」

 先程よりも(おびただ)しい量の血が流れ落ちていた。それも、彼の足を伝ってまた一つ、赤い雫が白い雪を染め上げていく。

「……っ!」

 今更になって激痛が走り顔を歪めた。

「あまりにも必死になりすぎて感覚が鈍っていたのか?恐ろしい奴だ」

 嘲笑うような、纏わりつくような声。聞くだけで吐き気を催すようなものだった。

「よくもやってくれたな、ゼーウェル。まさか、俺を破れる人間が他にもいたとはね……」

 背後で何かが動いているような気がして、ゼーウェルは振り返ろうとするが、それは出来なかった。

「……来い。俺自らお前を始末してやる」

「……お前は……!」

 その先を言おうとした途端、背後から感じた主の気配が消えたことに気付く。

「ゼーウェル、早く行って!こいつらは私が止めるわ!」

 彼を庇うようにして出て来たのは短髪の少女。フードを被っているために少女の髪色や表情はよく見えない。

「……すまない」

「そんなこと言ってる隙があったら逃げてちょうだい……っ!」

 少女を一人置いて逃げようと戸惑うゼーウェルに叱咤する声が響く。

「何が何でも、行きなさいよ……っ! ハーディストタワーに!!」

 少女の必死の声が迷うゼーウェルの背中を押した。少女のためにも、ハーディストタワーに向かうのが一番だと、彼は思い直し、走り出した。

「くそっ! 女一人に何手こずっている……さっさと始末しろ!」

 後ろからはまた別の者が声を荒げる。

 少女によって何とか危機を乗り越えたゼーウェルは自身の身体の状態にも顧みず、ひたすら白銀の雪山を走って行く。


****

 一方、レイザ達が歩いている遺跡『ジュピター』を抜ける手前では、赤と茶色が入り混じり、癖のある髪の毛が特徴的な男が大剣を持って待ち構えていた。

「とうとうレイザをこの手で……このラルク様の手で倒せるわけか!」

 ラルクと名乗った男は、遺跡を歩くレイザ達を倒さんと待ち構えていた。しかし、彼は相当短気な性格なのか、レイザ達の到着を待ちきれず、勢い余って剣を振り下ろしていた。

「……ラルク様」

「お前達もよく見てろよ? このラルク様が美しい剣技を見せてやるんだからなっ!」

 ラルクに仕える部下は半ば呆れながら、彼の気が収まるのをずっと待っていた。待っていなければ、彼の武勇伝を延々と聞かされることになる。何としてでもそれだけは避けたいと、誰一人としてラルクに突っ込みを入れる者はいなかった。

 毎日のように響き渡る、大剣が振り下ろす音。その凄まじい音からも、遺跡の床に刻まれる跡は相当深いものであることが容易に想像出来る。

「……また床の修理しなきゃいけないんですかねぇ」

 彼の様子と遺跡の床をじっと見ていた部下の一人があまりにも呆れ果てたのか、ぽつりと呟いた。

「おい、誰か俺に言いたいことでもあるのか?」

 どうやら部下の独り言が聞こえていたらしく、ラルクはそばにいた部下をギロリと睨み付けた。

「まあいいさ! ゼーウェルはともかくレイザは俺が潰してやるんだからな!」

 どうやら、ラルクはレイザを倒すことにかなり拘っているようだ。勿論、レイザを倒すことは彼自身に課せられた使命でもあるが、彼の言動からは個人的な理由も含まれているようだ。

「さて、サッグに楯突いたらどうなるか、しかと見るがいい」

 そう言ってラルクは自身が普段から愛用している剣を床に向かって勢いよく振り下ろした。

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