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戦闘舞踏 第一部 ―封印された島国―  作者: 真北理奈
謎の島の中の大迷宮
3/13

Strategy2:いざ、フィリカへ!

 アイーダとともにエミュータウンへ向かっていたレイザ達はフィリカについて説明を受けていた。

「フィリカは死の島とも呼ばれていて、重役でもあまり行くことがないのよ。ゼーウェル様は何故あのような島に行ったのかしら」

 アイーダの言うとおりだった。

 そもそも、何故ゼーウェルがフィリカに向かったのかという疑問から湧き、最終的にはフィリカには一体何があるのだろうかと考える。

 そう、レイザやディールが聞いた限りではあの島に行った人間の名前は聞いたことがないのだ。

「ゼーウェル様が行ったということは余程の事かも知れませんわ」

「アイーダ殿もそう考えるのですか?」

「ええ、あの方がフィリカに単身で行くなんて考えられないもの」

 アイーダの言うとおりだった。ゼーウェルのように先のことまであれこれ考えている人がフィリカに行くなどと突拍子な事を言うわけがない。

 まだフィリカにも行かないうちから分からないことが多すぎて頭を抱えるレイザ。それを見たディールはニヤリと笑みを浮かべ小声で言った。

「レーザがそんな面してたら辺りが辛気臭くなるぜ」

 確かに言われてみたらそうかもしれないが、レイザは真剣に悩んでいる。

「お前、今何て言った?」

 声を震わせながらディールに問いかけるレイザ。アイーダは顔を引きつらせたが、ディールはレイザの様子に構わず続ける。

「普段はガミガミ言うだけなのに、こういう時だけ考え事をしていたら変だって言ったんだよー」

(ああ、ディールったら……)

 ディールの隣を歩くレイザの様子からして明らかに怒っている。

 ゴゴゴゴゴ……と、火が吹き出す寸前といったところだろう。こうなってしまったらどうなるかは火を見るより明らかである。

「……成る程、お前が俺をどう思っているのかよーく分かったよ……」

(ひぃぃ……ディールのバカ!)

 アイーダがディールを睨みつけるが時すでに遅し。

「いだだだだだだだっ!」

 ディールの頭を容赦なくグリグリとし始めたレイザ。普段から剣技や体術の威力を上げるために訓練しているレイザの攻撃は凄まじいものである。

(あーあ……)

 その二人を見て、呆れたように溜め息をつくアイーダ。

 どうやら、この先かなり苦戦を強いられそうだ。そんな彼女にも構わず、レイザは手を放し、いつもの小言をディールにぶつける。

「大体お前は悩まねえのかよ! 少しは悩めって言ってるだろ!」

 ちっとも緊張感を感じないディールにレイザは苛立ちを隠せないでいた。しかし、そんなレイザの心配などまるで気にとめないのがディールである。

「悩む訳ないじゃないか! 今からゼーウェルさんを助けるっていう素晴らしい冒険の始まりだからさ。それに、未開の地に死の島っていう異名があるんだぜ!行きたくなるよそりゃあ」

 ディールはまだ見ぬ冒険に期待を募らせていたのか、目をぎらつかせてレイザに向かって延々と語る。

(嗚呼……真剣な話をした俺が間違っていたよ……)

 もうここまで来ると溜め息しか出ない。レイザは肩を落とし、きらきらと目を輝かせるディールを見ていた。未開の地で謎の島フィリカに行く事にひたすら喜び、跳び跳ねるディールにアイーダは更に溜め息をついた。

(バカだわ……)

と呟いた…ディールはアイーダの呟きなど全く耳にも入らないらしく、

ディールがこの様子では先行きが不安であると考えるレイザとアイーダ。しかし、そんなことを気にしないのがディールである。

「レーザ、何悩んでんだよー」

 当の本人であるディールはアイーダとレイザの溜め息の意味を全く分かっていないらしい。

(これから、右も左も分からず、いつ何が襲い掛かってくるかも分からないのに、どうしてこいつはこんなにも明るいんだ……)

 もうレイザとアイーダではディールのこの様子に理解が出来ないようだ。

「二人とも陰気臭いなあ」

 ディールのペースに地味に振り回されながら歩いていると、目的地であるエミュータウンが直ぐ近くまで見えてきた。


****


 アエタイトとルキアを繋ぐ唯一の港町エミュー。

「さて、アイーダ殿。私達はどうしたらよろしいでしょうか」

 待ちきれないと言わんばかりにレイザはアイーダに話すよう迫った。先程までにこやかに話していたディールも真剣な様子でアイーダの話を待つ。

「そうね、確かに事は急を要するわ。でも、少し注意してほしいことがあるの」

 そう言ってアイーダはフィリカについて話し始めた。

「フィリカは死の島と言われてる場所で有名なの。此処からルイズ姉さんのところに行くけど、まず最初に待ち受けるのが、今まで使えていた能力が使えなくなるということよね」

「ええっ!?」

 これには流石のレイザもディールも驚きを隠せない。衝撃を受けた二人を尻目にアイーダは話を続ける。

「あと、魔力を使うものは基本的に使えないわよ。フィリカではどうも体内に流れるエネルギーの流れが変わってしまうからなのでしょうね。まあ、その変わりに『物理的な力』は強化されるけど」

 そこまで言うとアイーダはレイザとディールを見た。先程のアイーダの話だけでも多くの疑問が湧いてくるのか、レイザはアイーダに問いかける。

「体に流れるエネルギーが変わる……それは、何故なんだ?」

 レイザはどうしても納得がいかないのだ。

 魔力が周りの環境に左右されるということは聞いたことがない。魔力は元々、本人が持つべきして持った能力であり、本人の心理や状態、相手の持つ魔力には左右されるが周りに左右されることはない。

「レイザ殿が納得いかないのも当然ですわ。私もどうしてそうなったのか分からないもの」

「ええっ!?」

 アイーダの発言にまたしてもレイザとディールは驚きの声を上げる。

「……まあまあ。確信が持てないけど、何故そうなったのかは分かるわ」

「え、何なんだ。それは」

 アイーダの言葉に僅かな希望を得たレイザは彼女に問う。彼女の話を聞けば、フィリカに行って、どのような手段を取れば良いかが分かるからだ。期待と不安に満ちた表情でアイーダの言葉を待つ二人。

「……サッグが、あの空気を流しているのかもしれない」

「サッグ?」

 レイザとディールはアイーダの口から出た『サッグ』という言葉を反芻した。

「そう、サッグ。私の予想が間違い無ければ、ゼーウェルさんもサッグにいるわ」

「!!」

 ゼーウェルの名前が出た途端、二人の身体は強ばる。

「な、何故そんなところに……」

 そう、サッグという名前はレイザもディールもよく知っているからだ。

「……アルディの……暗殺集団じゃないか……」

 いつものディールとは違う、蚊の鳴くような声だった。

「あら、フィリカには興味なくてもサッグは知っているのね。正解よ、アルディの邪魔になる奴は全て殺す。その任務を請け負うのがサッグなの。その本拠地が『ハーディストタワー』よ……あら?」

 ハーディストタワーについて話をしていたアイーダだが、ふと中心にある時計台を見る。

「あら、もうこんな時間ね。早く行かないとルイズ姉さんが眠ってしまうわ」

「え!?」

 レイザとディールはまたしても素っ頓狂な声を上げる。重要な話なのに途中で切られると余計気になってしまうのだ。

「もっと話を聞きたいぜ!」

 これにはディールも反論し、もっと話が聞きたいとアイーダに向かって喚く。いつもならいい加減にしろと言うレイザだが、今回は彼と同じ意見なので何も言わなかった。

「ルイズ姉さんがいないとフィリカには行けないの。ルイズ姉さんから詳しい説明があるから、今はさっさと準備しなさい」

「そんなあ……」

 アイーダに一蹴されてしまいディールは落ち込むが、もう仕方ないと思うより他はない。しかし、何故そこまで彼女は急ぐのか。それがレイザにはよく分からない。

(アイーダ殿は何か知っている)

 そう、ディールはもしかしたら気付いていないのかもしれないが彼女は肝心な事を一つも自分達に言っていないような気がしてならない。親切に振る舞っているが、迂闊に彼女を信用すれば此方が痛い目を見るだろう。ディールには悪いと思うのだが今回は誰一人として簡単に信用してはいけない。

(何となく、嫌な予感がする)

「レイザー早く行くよー」

 陽気なディールの声がレイザを呼んでいる。

(まあ、あいつがいるからいいか)

 そう、ディールがいるのだ。

「ああ、行くよ」

 既にアイーダとディールは歩き出していた。考えに耽るあまり遅れを取った形となったレイザは慌てて二人の後を追った。


****

 辺りを見回す暇もなくエミュータウンを歩く三人。目的は分からないが今はアイーダについて行くしかないようだ。

 いったい彼女は自分達を何処へ連れて行こうとしているのか。ただでさえ謎が多いのに、更に謎を増やす気なのかとレイザは内心憤りを隠せないでいた。

(彼女は何かを隠してる。さっきの話だって途中で切ったし……。何か、他人には話したくないっていう空気が流れているんだよな。ディールは気付いていないみたいだが)

 アイーダの隣を歩くディールは相変わらずご機嫌なようでスキップしながら歩いている。隣にいるアイーダもディールに対して笑いながらツッコミを入れている。

 前を歩く彼女の様子からはそんなに突っぱねた態度は見せない。

(じゃあ、俺だからなのか? でも、別に彼女が俺を突っぱねる理由はないよな)

 出来れば考えたくないが、アイーダは自分を避けている。いや、正しく言えば自分の口からフィリカの事が出るのを避けている。

「つきましたわ」

 レイザが考え事に耽る間にもう辿り着いたようだ。アイーダが二人を連れてきたのはとある小さな小屋だった。

「此処の人に頼めばフィリカに繋がる場所まで行けるの。ちょっと待ってて」

 アイーダはレイザ達を制止し、一人小屋の中へ入って行く。

(いったい何があるんだ)

 アイーダが入って行った小屋の中に何があるのかが気になって仕方ない二人。またしても彼女に上手くかわされたような気がしてならないが、そのことを彼女に問い掛けても答えることはないだろう。

(はあ……最初からこんな調子じゃあこの先どうなるんだろう)

 そう、出だしから躓いていることを忘れてはいけない。ハーディストタワーについて聞こうとしたらいきなり話を逸らされたのだから。

 二人の苛立ちは募り、段々とアイーダに対して文句を言いたくなった時である。


 ――ガチャリ。


「アイーダ!」

 先程小屋に入って行ったアイーダである。

 小屋から出て来た彼女の表情はとても晴れやかなものだった。

「二人とも、ルイズ姉さんのところに行くわよ! さあこっちこっち」

「あ、ああ……」

 アイーダのペースは本当に掴みづらいと思わずにはいられない二人。しかし、いったい彼女は小屋の中で何をしていたのだろう。そう思い、首を傾げる二人に対してアイーダは説明をする。

「ああ、船に乗るための準備をしていたの。ルイズ姉さんのところからはもうフィリカに行けるけど、そこまで行くのにも時間が掛かるから。あ、心配しないでね。此処からフィリカまであっという間につくから。さあこっちこっち」

 アイーダに手招きされるまま二人は歩いていく。相変わらず港町にしては静かだと感じずにはいられない。アエタイトは兎も角、エミュータウンにしてももう少し活気があっても良いのだが、それもサッグが活動しているせいなのだろうか。

「さあさあ、早く早く」

 先程までは重要なことはなかなか話さないアイーダに焦れったさを感じた二人だが、今度はその彼女に急かされ、二人のペースは乱れっ放しである。

 彼女に言われるがままに歩いていたら他の建物よりも少しだけ高く白い塔のような建物が目に入る。

(……ちらほら見えていたけど、何かなあ……よく分からない建物だよなあ)

 展望台なのだろうと思ったが、どうも違うらしい。

 首を傾げながら歩いていると、アイーダが塔の中に入って行く。

「さて、レイザ……行こうか」

「あ、ああ」

 首を傾げるレイザに問いかけるディール。きっとディールは戸惑っているレイザに気を使っているのだろう。それに気付いたレイザは「悪いな」と言った。

「気にしないでよ。レイザの気持ちはよーく分かるけど今はアイーダに頼るしかないし」

 ディールは苦笑しながらそう言って中に入って行った。


****

「な、何なんだ!?」

 白い塔の中に入った瞬間、ディールは驚きの声を上げた。レイザは声こそ発しなかったが、驚きを隠せないでいる。

「此処にある船からフィリカに行くのよ。私たちルキアの人間はフィリカに向かうまでの道を案内する役目を担っているの」

 戸惑う二人に対し、説明を行うアイーダ。のどかで静かな港町とは違い、白い塔の中に広がる空気はとても厳かなものだった。

「……どうやって、フィリカまで……」

 周りに圧倒されながらもレイザはアイーダに尋ねる。

「こっちです」

 淡々と告げるアイーダの後ろをついていく二人。

 中を歩いていると、船のようなものが見えてくる。

「これでフィリカに行くのか?」

 見えてきた船を指差してディールはアイーダに問いかける。

「ええ、ただしこの船に乗る前にやってもらうことがあるの。さあついてきて!」

 またしても二人を連れ回すアイーダ。もうここまで来ると彼女に全てを任せてしまおうと思い、後について行く。

 暫く歩いていると、この建物の真ん中に船があり、左右に扉が一つずつあった。彼女が二人を連れて来たのは左側の方だった。

「ルイズ姉さん、連れて来たわよ」

 アイーダは乱暴に扉を叩き、ルイズという名前を何度も口にする。

「あ、レイザには話したかどうか分からないけど、ルイズって言うのはアイーダのお姉さんなんだぜ。一番上の姉がルイズ、真ん中にミディア、一番下がアイーダなんだよ」

「へえ、そうなのか。三姉妹の下がアイーダ殿なのか……」

 先程から驚かされることが多いと思ったが、一番の驚きはアイーダが末っ子という事実である。

(ちょっと、気が強すぎないか?)

 どう考えてもアイーダの態度は強気そのものである。見た目だけを見れば、清楚なお嬢様と言えるが。

「あら、レイザ様。何か言いました?」

「……!」

 アイーダに図星をつかれるレイザ。

(アイーダ殿は超能力者か何かか!?)

 自分の心がアイーダによって全て見透かされているような気がしてならない。

(……警戒しないとな……)

 まだアイーダの怒りに触れたことがないレイザだが、彼女の逆鱗に触れたら最後とても恐ろしい目に遭いそうな気がする。

「何でもないですよ、いやだなあ……はははは……」

 ぎこちない笑いで何とかその場を凌ごうとするレイザ。それを見ていたディールは顔を引きつらせていた。

(今、アイーダから物凄く黒いオーラが……)

 ディールはアイーダの身体から発せられるオーラに唖然とした。レイザはいったい何を言ったのか、それともルイズがなかなか出て来ないから待ちくたびれたのか。

(ルイズー! 早く出てきてよー!)

 祈るような心地でルイズが出て来るのを待っているディール。


 ――ガチャリ。


「ああ、もう……人がせっかく気持ち良く寝ていたと言うのに……」

 その言葉とともに扉から出て来たのは橙色のボブヘアが特徴的な女性――ルイズである。

「アイーダ……相変わらずあんたの声は五月蝿い……あたしはもっと寝たいんだよ……」

 腕を組むアイーダを煩わしいそうに手で追い払うルイズ。

「姉さん……」

 静かにルイズの名前を呼ぶアイーダからは黒いオーラが出ている。

 今の彼女はどす黒いという表現に相応しい様子である。

「……いい加減にしないと、どうなるか分かってる?」

 レイザとディールの間では、アイーダを怒らせてはいけないということが暗黙のルールになっていた。アイーダの様子を見ていたルイズも例外ではないようだ。

「わ、分かったわよ。後ろにいる奴のことは私に任せて、アイーダは船の手配をしてくれ」

「ありがとう、姉さん。後は任せたわ」

 うって変わったようにふわりと微笑みながらひらひらと手を振って去っていくアイーダ。

(怖いなあ……)

(逆らわない方が身のためだ……)

 レイザとディールはアイーダの恐ろしさを垣間見たような気がした。

「さあ、早く来なさい。時間に遅れたらアイーダに怒られてしまうわ」

 そう言われたらかなわない。アイーダの逆鱗に触れることは何としても避けたい二人はルイズの後に続き、部屋の中に入った。


****

「フィリカに行った時に注意することは、武器は一切使えないことだ。どうもフィリカから流れる気というものが、武器を粉々に破壊しているらしいからな……」

「そんな!」

 ルイズのいる部屋に入った途端、彼女からこのようなことを言い放たれる。

「得体の知れないエネルギーがフィリカに流れ込んでいて、全てがおかしくなっているって言うのは間違いない。それが何なのかは私じゃあさっぱり特定出来ないけど」

 お手上げだと言わんばかりの表情を浮かべたルイズに二人は何も言えなかった。フィリカについて詳しいことを知っているルイズがこれではどうしようもない。

「……まあまあ、そういうわけだから。そんなむさ苦しい格好じゃなくてこういう身軽な格好にしておきな」

 そう言ってルイズが手渡してきたのは薄いTシャツとズボン一式だった。それは確かに動きやすいとは思うが、防御面で不安が残る。

「まあそんな顔をするな。それに、フィリカに行ったら身軽な格好をしておかないとかなり苦労するよ」

「あ、ああ」

 ルイズの話に頷き、装備品一式を受け取ると隅の方に行って着替え始めた。

「あたしはアイーダのところに行くから終わったら船のところに来るんだよ」

「はーい……」

 一気に色々な話を聞かせられて、レイザとディールは疲れ切っていた。

 バタン!と、やや乱暴に扉を閉める音が響くだけだった。


****

 着替えが終わった後、レイザとディールは外に出た。

 やや厚着だったレイザの様子は赤くて薄いシャツに膝上くらいのズボンと言ったラフで身軽な格好に変わっている。恐らく髪が邪魔なのか、上で一つに結んでいる。

「やっぱり動きやすいなあ」

 最初はあまり気が乗らなかったレイザだが、今はすっかりこの格好が気に入っているようだ。

「さっきのレイザの格好は暑苦しくて仕方なかったもんなあ」

 そう言ったディールも橙色のシャツに膝下までの長さがあるズボンを履いていた。因みに、先程のディールの格好は寝間着であることを忘れてはいけない。

「お前、いくら見れるからって寝間着はだめだろ。あっ、早く行かないとアイーダに怒られるぞ」

「はっ!」

 先程の姉に向けたアイーダの様子を思い出したレイザとディールはダッシュで船に向かった。

「レイザーもういやだよー」

「そんな泣き言言っている場合か! 命が惜しかったら走れ!」

 ダッシュするのは徹夜明けのあまりランチタイムが来ても睡眠をとったあまり、急いで乗船券を買いに行く羽目になったというあの日以来である。

必死に走り、漸く船に乗る所まで辿り着いた。

「あんたたち、物凄い勢いだねえ」

 必死に走る二人を見たルイズは目を見開きながら言った。それに対して「時間に遅れたら後々良くないだろ……」と反論するディール。彼らの言わんとしていることが分かるルイズは苦笑するに留まった。

「アイーダ、二人が来たよー。船を動かしてちょうだい」

 準備が整ったと把握したルイズはアイーダに向かって指示をする。

「分かったわ!」

 アイーダの返答が聞こえた途端、ルイズは二人に言った。

「さあ、一気に下るわよ。フィリカまで一直線だからね」

 ニヤリと笑いながらルイズはそう言った。

「!?」


 ガタンッ!


 何かが降りたような音が響き、二人は目を見開いた。

「死を誘う小さな孤島――フィリカへ出発だよ」

 ルイズの言葉とともに船は急速に下っていく。

「うわああああ!」

 あまりの速さにレイザとディールは悲鳴をあげた。いったいどうなっているか、それすらもよく分からない。

 何かが轟くような音だけがするが、それは何なのかがよく分からない。

「しっかり捕まってなさい。もう直ぐ着くわよ」

 あまりの速さに目も開けられない二人を尻目にルイズは平然とそう言ってのけた。

「やめろおおおお!」

 何でこんなにも平然としてるんだと言わんばかりのレイザとディール。最早この姉妹についていく事が出来ない。


 ガタンッ!


「うわああああ!」

 息つく暇もなく大きな音が響いたとともに船のスピードが遅くなっていき、やがて完全に停止した。

「情けないなあ、あんたたち」

 しゃがみ込み、ぐったりとしている二人を見て、溜め息をついたルイズ。

「姉さん、フィリカについたけど……あら?」

 数分後にはアイーダもルイズの元へ駆け付け、二人を見下ろした。

「アイーダ、こいつらを介抱するわよ」

「はーい。まあ、初めてだから慣れなくても当然よ。姉さんにはかなわないわ」

 二人の会話を聞いたレイザは頭を抱えていた。

(……フィリカに行く前からこんな目に遭うとは思わなかった……)

 レイザは独り心の中で呟いた。


****

「はあ……死ぬかと思った……」

「ねえ……もう少し何とかならないの……あれ……」

 ルイズとアイーダに介抱を受け、漸く復帰したレイザとディールは歩く気にならず休息をとっていた。

「あ、気がついたのね」

 カタカタという軽快な音とともに駆けつけたのはアイーダである。

「アイーダ! な、何で俺達があんな目に……」

 アイーダを見るなりディールはわなわなと震えながら彼女に抗議する。しかし、彼女は「仕方ない」と言うだけであった。

 最初から最後まで散々な目にあったと思わずにはいられない二人にアイーダは言った。

「もうフィリカについたわよ。此処から歩いていくと『ジュピター』に入るはずよ」

「ジュピター?」

 先程までの疲れも忘れ、レイザとディールは口を揃えてアイーダに聞いた。

「そう、聖なる遺跡とも平和の象徴とも言われているわ」

 アイーダはそう言った後、続けてこう言った。

「まずはジュピターに行くことね。そうすれば道が開けるわ」

「なるほどー」

 アイーダによって次の目的地が決まった二人はスッと立ち上がった。

「そうと決まれば! まずはジュピターに行くぜ」

「おい、ディール!」

 パタパタと船を降りていくディールに、彼の姿を追うレイザ。

「やれやれ……」

 遠目で二人を見送るアイーダはため息をついた。この様子では先が思いやられる。

「でも、大丈夫よね」

 あの二人ならフィリカに行っても大丈夫だともアイーダは思い、ルイズのいる方へ向かって走って行った。

 フィリカに辿り着いたレイザとディールの冒険が此処で幕を開けた。

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