0008. モフモフライフのための職業選択
「やっと決まったのね。あと体感で10時間くらいよ。次、さっさと決めるわよ。残るはあなたの〝初期職業〟と〝初期スキル〟の2つね」
卑弥呼様は扇子をぱちんと閉じ、次の議題へと移る。
「初期職業は、いわゆる、ジョブよ。ホントは種族もあるけど、あなたが行くところは、日本の戦国時代だから、違和感無いように、人族で黒目黒髪の日本人タイプよ。
身長や見た目は、赤ちゃんからの転生だから、栄養次第ね。一応、今と同じくらいまで伸びるように調整はしておいたわ」
(まずはジョブね。これは慎重に考えなければ。狐火ちゃんをゲットし、穏やかな生活を送るための最重要選択肢だわ。
種族と見た目は、特にこだわりはないから、勝手に決めてくれて良かった。無駄な時間が取られなくて済む。
身長と見た目は今までどおりかぁ、ちょっとは優遇してくれてもいいんだけどなぁ〜。まぁ、慣れた体になると思えば、ストレスは少ないか)
「ジョブは大きく3系統があるわ。攻撃が得意な前線で戦う【武人】系統、戦国時代なら、武将や侍ってところかしら。
それから物を作る生産が得意な【職人】系統、農家や商人、鍛冶師などもこの系統よ。
そして特殊な技を持つ【術師】系統。僧侶、陰陽師や忍者、マタギ等がこの系統ね。分からなければ、聞いてちょうだい」
空中に浮かぶ家紋が消え、代わりに新たな光の文字がカテゴリー分けされていく。その光景は、まさにゲームのキャラクタークリエイト画面そのものだった。
(攻撃系の武人は論外。私は前に出て血を流して戦う柄じゃない。それに、女性が武将なんて、目立ちすぎて絶対面倒なことになる。となると、生産系の職人か、特殊系の術師……)
私の目的は、あくまで狐火ちゃんと穏やかに暮らすこと。そして、そのためには自分の身を守る最低限の力も必要だ。
(モフモフするためには、やはり動物のことがわかりそうな畜産家とか、山を知り尽くしたマタギかしら。それ以外だと、忍者もなんか犬とか鷹とか使うイメージがある。
チートをもらうにしても、自衛ぐらいできる攻撃手段は欲しいわね。そうすると、忍者かマタギが有力候補かな)
「卑弥呼様。動物をモフれて、相棒として共に生きられて、なおかつ攻められても自衛程度の力も持てる……そんな都合のいい職業はありますか?」
私の切実な問いに、卑弥呼様は待ってましたとばかりにニヤリと笑った。
「欲張りね。まあ、なくはないわ。動物との相性で言えば、畜産家、マタギ、忍者。そして……陰陽師、ね」
彼女はわざとらしく間を置いて、最後の名前を告げた。
「マタギ、忍者は、あなたのイメージするテイマーに近いわ。動物を使役し、自然の中で生きる術を持つ。
でも、〝テイマー兼サモナー〟として、あらゆる可能性を求めるなら、断然、陰陽師よ。自衛どころか、やりようによっては一国を相手にできるほどの力を秘めているわ」
「陰陽師……」
予想通り、マタギと忍者は候補に入っていた。でも、陰陽師がオススメとは。予想外の選択肢、そしてその圧倒的なポテンシャル。
だが、卑弥呼様の勧め方が、どうにも引っかかる。甘い話には裏がある。ブラック企業で学んだ数少ない教訓の一つだ。
昔、陰陽師を題材にした映画があったって、おじいちゃんに聞いたことがあるけど、どんな話だったか思い出せないし、どうしようかな〜。
「なぜ、そこまで陰陽師を?」
「そうねぇ。かなりいろいろとできる万能職だからよ。私が生きていた頃の〝術〟が、その源流に近いものだから。いわば、私の後継者のようなものかしら」
彼女は楽しそうに目を細める。その瞳の奥に、何か企んでいるような光が宿っているのを私は見逃さなかった。
「……それに、かの地で膨大な〝エネルギー〟を効率よく扱うには、その素養があった方が、何かと都合がいいのよ」
(やっぱり、何か裏がある)
彼女の目的は、あくまでエネルギーの消費。そのために最も効率的なのが陰陽師だというわけだ。
だが、その提案はあまりに魅力的だった。一国を相手にできる力。それは、狐火ちゃんとの穏やかな生活を守るための、最高の保険になるかもしれない。
「陰陽師になると、具体的に何ができるようになるんですか? 名前は知っていますが、正直、イメージが曖昧で……」
私の問いに、卑弥呼様はもったいぶるように扇子で口元を隠した。
「いろいろよ。陰陽五行思想に仏教や道教、神道、修験道が混ざったうえに、天文学や暦学、易学を用いて祈祷や占術で厄祓いや怨霊退治などをしていた人たちよ。
極めれば、森羅万象の理を読み解き、式神を使役し、時には呪詛さえも操る。……でも、一番大切なのは、〝縁〟を見極め、それを結び、手繰り寄せる力」
彼女の目が、私を射抜くように細められる。
「――その力の神髄を詳しく知りたければ、まず、あなたが〝陰陽師〟になる覚悟を示しなさい。中途半端な覚悟の者には、本当の力は扱えないわ」
卑弥呼様が似たようなジョブについていたし、ここまでオススメするということは、断ったら、何かされそうで怖い。でも、もう少し聞かないと、狐火ちゃんとの生活ができるかわからない。
「もう少しだけ、詳しく何が出来るか、教えて下さい。覚悟を決めるための、判断材料が欲しいんです」
私は一歩も引かずに、彼女の目を見つめ返した。この交渉、主導権は渡さない。




