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【改稿版】戦国幻獣物語 〜目指せ、戦国ひきこもりモフモフ生活! 八百万の幻獣をモフって今日も生き抜くぞ、おぉーーっ!〜   作者: 蒼葵美
14XX年 モフってたら生活基盤ができました

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0059. 革命の第一歩は、道具の発明から

 先日、光賀が持ち帰った綿花の種とは別に、見本用として確保されていた真綿まわたの塊を、叔父上の氏兼さんが直々に届けてくれた。


「姫様、こちらが光賀殿が持ち帰った綿花の種から取れたという真綿にございます。これが、かの南蛮の地で衣や寝具に使われるものだとか……。しかし、どうにも硬く、これをどう使うものか、我らには皆目見当もつきませぬ」0

 私は、生まれて初めて見る「本物の綿」に、目を輝かせた。


(おお……これが!)

 指でつまんでみると、想像以上に繊維が強く、そして固い。ぎゅっと圧縮されており、中にはまだ黒い種のようなものや、葉っぱの欠片も混じっている。匂いを嗅いでみると、少し青臭く、油分を含んだような独特の香りがした。


(……なるほど。これを、このまま布団に詰めても、ただのゴワゴワした植物繊維の塊になるだけだわ)

 ふかふかの令和式布団への道は、想像以上に険しいらしい。前世で当たり前に享受していた快適な寝具が、どれほどの技術の結晶であったかを痛感する。課題は山積みだ。まず、この中から種やゴミを取り除き、次に、固く絡み合った繊維を一本一本丁寧にほぐして、そして、それを均一な厚みのシート状に整える必要がある。

 私は、その真綿の塊を宝物のように抱えると、すぐに父上と母上の元へと向かった。


「ちちうえ、ははうえ! たいへんです! おねがいがあるの!」

 私のただならぬ剣幕に、二人で何やら話し込んでいた父上と母上は、驚いたように顔を見合わせる。


「どうしたのだ、琴。そんなに慌てて。何かあったのか」

 父上が心配そうに眉を寄せる。今がチャンスだ。私は、お決まりの「神託」カードを切ることにした。

(またこの手を使うのは、少し気が引けるけど……このふかふか布団のためなら、神様の名を売るくらい安いものよ!)


「この、しろくてふわふわのことで、かみさまが、またゆめにおたちになりました……」

 私がそう切り出すと、二人の顔色が変わった。効果は抜群だ。


「なんと!して、どのような御神託であった?」

 ぐいっと身を乗り出して食いついてきた父上に、私は抱えていた真綿を掲げて見せる。


「このふわふわを、もっと、もーっと、ふわっふわにするための〝どうぐ〟が、ある、と……」

 私は、脳内の記憶――前世で見たテレビのドキュメンタリー番組や、博物館の展示――を探りながら、一生懸命に説明を始めた。


「ひとつは、『わたゆみ』?です。ちいさな、ゆみのようなかたちで、うしのすじ?みたいなつるを、ぱんぱんにはるのです。それを、べんべん、ってゆびではじくと、そのつるがわたを〝ばいーん、ばいーん〟とたたいて、わたがぶわーって、くもみたいにふわぁ、ふわぁになる、と……」

 身振り手振りを交え、効果音を多用して説明する私に、父上は「ふむ、綿弓か……。弓で綿を打つと申すか。なるほど、その衝撃で繊維がほぐれると……理にはかなっておるな」と、武人らしい視点で納得しようと腕を組むが、やはり心当たりはないようだ。


「もうひとつは……ええと、なまえがよくわからないです。たしか、『はんどかーだー』?と、いってました……」


「はんどかーだー?」

 私の言葉に、両親は怪訝な顔で首を傾げる。その反応に、私は内心でガッツポーズを決めた。

(よし、完璧なネイティブ発音だ!)


「はい、たきがつかってくれる、くしみたいです。きのいたに、きのほそーいハリみたいなトゲトゲがいっぱいついてるの。

 それを、りょうてにもって、わたをこう……あいだにはさんで、しゃっしゃっ、て! けずりあうみたいに、しゃっしゃっしゃっしゃっ、てすると、ゴミがとれて、わたがきれいな、いちまいのかみみたいになる、と……」

 私は空中で、ペットの毛をブラッシングするような、あるいは二枚の板で何かを梳きとるような、複雑な仕草を必死でやってみせた。


「……真里よ、聞いたことがあるか?」

 私の必死のジェスチャーに、父上が困惑した顔で母上に尋ねる。


「いえ、わらわも初耳にございます。綿弓に、はんどかーだー……。やはり、神々の国の、我らの知らぬ道具なのでしょう」

 母上の言葉に、父上が「そうか」と大きく頷いた。彼の瞳には、未知の技術への好奇心と、それを授かった娘への誇らしさが宿っている。


「……琴よ。そなた、その〝わたゆみ〟とやらと、〝はんどかーだー〟の形を、絵図に描けるか? そなたの絵図があれば、叔父の氏兼に命じ、腕利きの木地師きじしや鍛冶師に作らせることができる」

(よし、計画通り!)

 全ては、この言葉を引き出すための、私の壮大なプレゼンテーションだったのだ。父上の権力と、この国の職人たちの技術。それさえあれば、私の知識は形になる。


「はい、ちちうえ! こと、がんばって、えをかきます!」


「うむ、頼んだぞ! これが成れば、里見の民の暮らしも、より豊かになるやもしれぬな!」

 やっぱり、この時代には綿を加工する専門の道具はまだ無かったか。まあ、綿花自体がほとんど流通していないのだから、当然かもしれない。でも、それでいい。なければ、作ればいい。ゼロからイチを生み出す、これこそが革命だ。


 私は早速、自室に戻ると、大きな和紙を広げた。

 まずはアイテムボックスから、前世の知識が詰まった書庫データを取り出す。「うろ覚えの知識だけじゃなく、ちゃんと裏付けを取らないとね」。私は『繊維工学基礎』と『世界の道具史』の項目を検索し、綿弓とハンドカーダーの構造を再確認する。


 ふかふかの布団。温かいちゃんちゃんこ。そして、いつかはこの国の誰もが、軽くて暖かい綿の衣を当たり前に着られる日を夢見て。

 これはただの布団作りにあらず。生活の質(QOL)を向上させ、人々の暮らしを根底から豊かにする革命なのだ。安らかな眠りは、明日の活力。活力ある民は、国を強くする。そう、全ては私の安眠と、ついでに国富増強のため!

 私の、小さな手による「ものづくり革命」が、今、始まった。


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