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【改稿版】戦国幻獣物語 〜目指せ、戦国ひきこもりモフモフ生活! 八百万の幻獣をモフって今日も生き抜くぞ、おぉーーっ!〜   作者: 蒼葵美
14XX年 モフってたら生活基盤ができました

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0055. 閑話・【光賀】西へ、未知の湊へ

 三河での綿花の種子の商いを終えたものの、わしの旅はまだ始まったばかりだった。手に入れた小さな麻袋の重みが達成感と同時に、次なる課題の途方もなさをわしに突きつけていた。


 次なる目標は、〝牛〟と〝豚〟。そして、その手がかりがあるという〝オキナハ〟、あるいは〝琉球〟。そのような地なぞ聞いたこともない。里見様から授かった知識はわしの商人としての常識を遥かに超えていたが、それ故に己の無力さを痛感させられる。


 堺や博多の商人ならば知っているやもしれぬが、東国の若輩商人であるわしがあの食えない古狸どもと渡り合うのは、あまりに分が悪い。わしの伝手では西国へのつながりはあまりに細いのだ。「東国の若造が」と侮られ、偽情報を掴まされて無一文になるのが関の山だろう。


 結局、今のわしが頼れるのは父の知恵しかない。わしは再び津島の実家へと戻り、父の前に頭を下げた。父の呆れたような、それでいてどこか誇らしげな顔が目に浮かんだ。


「父上、先日はありがとうございました。おかげさまで無事に商いも出来、先方もお喜びになると思います」


「そうか、それはよかった。ちゃんと商いとして利が得られるのであれば重畳じゃ。さて、今日はいかがした。わざわざ礼のためだけに来るほど殊勝ではあるまい」

 父の言葉にわしは苦笑するしかなかった。


「さすが父上、お見通しで。実は先日と同じように、もしご存知であれば、教えていただきたいことがありまして」

 わしは里見様から与えられた次なる依頼について、慎重に言葉を選びながら説明した。父は黙ってわしの話に耳を傾けていた。


「南の方にあるオキナハ、もしくは琉球という場所をご存知でしょうか。そこにある物を買ってきて欲しいと頼まれまして。ただ、その場所がどこにあるのか、皆目見当もつかぬのです」


「なるほどな。オキナハは知らぬが、琉球は知っておるぞ。薩摩の国のさらに南にそのような地があると聞いたことがある」

 父はこともなげに言った。その一言が暗闇の中に差し込んだ一筋の光のように感じられた。


「堺の連中を頼るのを戸惑っておるのじゃろう。おぬしの顔では、まだあの者たちには相手にされまい。それならば、堺を経由せずとも薩摩の国の坊津ぼうのつへ行け。あそこは南の島々との商いで栄える日ノ本西端の湊。唐や南方とも通じ、琉球と直接商いをしておる者もおるゆえ、そこから渡る船も見つかるであろう」


「坊津……! さすがは父上、そのような湊をご存知でしたか」

 父はどこでそのような話を聞き、仕入れておるのだ。津島とはいえ、堺など西の商いの話はわしが居た頃はそれほど盛んではなかったはず。その情報網の広さにわしは改めて舌を巻いた。


「若い頃にな、一度だけ付き合いのあった堺の商人が自慢げに話しておったわ。唐や南方との交易を夢見る者は皆一度は坊津を目指すのだ、と。まあ、わしには縁のない話じゃったがな」

 父はそう言って遠い目をした。


「貴重なお話、ありがとうございます。早速、坊津へ向かい、琉球に渡る手立てを探してみます」

 父の言葉を頼りにわしは西へ、さらに西へと長い旅を続けた。

 坊津までの道は想像を絶するほど遠かった。伊勢から船に乗り、紀州の湊へ。そこからさらに瀬戸内をゆく船か四国に渡るを探し、結局、阿波、土佐の湊へと渡り歩く。


 途中、各地で安房の干物や三河の塩や各湊で売れそうな物を仕入れて売り、路銀を稼いではおるが、それにしても船旅は骨が折れる。

 昼は灼けつくような日差しに、夜は肌寒い潮風に晒される。幾度も嵐に遭いかけ、木の葉のように揺れる船の中で、ただ無事を祈ることしかできぬ夜もあった。


 旅が長引くにつれ、焦りと孤独感がわしの心を蝕んでいく。故郷や安房を遠く離れ、見知らぬ土地を転々とする日々。本当に目的地にたどり着けるのか。里見様の期待に応えることができるのか。不安に押しつぶされそうになるたび、わしはあの日の殿の鋭くも底知れぬ光を宿した目を思い出した。あの方の期待に応えたい。その一心だけで、わしは前に進み続けた。


 ようやく薩摩の坊津にたどり着いた時には、安房を発ってから、早くもひと月以上が過ぎていた。

 船から降り立ったわしを待っていたのは、これまでの日ノ本のどの湊とも全く違う、混沌とした光景だった。坊津の湊は異様な熱気に満ちていた。日ノ本の言葉に混じり、抑揚の強い聞いたこともない言葉が飛び交っている。


 潮の香りに混じって、嗅いだことのない何かの匂いや獣の匂いが鼻をついた。店先には色鮮やかな珊瑚など、東国ではお目にかかることすらない品々が当たり前のように取引されている。

 肌の色が浅黒い者、目鼻立ちの深い者、見たこともない意匠の衣を纏った者たちが闊歩している。

 東国とはまるで違う空気にわしは完全に気圧されそうになった。己がこれまで生きてきた世界のなんと狭かったことか。


 ここ坊津は日ノ本でありながら日ノ本ではないどこか別の国であるかのようだった。

 ここでわしは一人の男と出会うことになる。この出会いがわしの商いの道を、そして人生を再び大きく変えることになろうとはこの時のわしは知る由もなかった。

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