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【改稿版】戦国幻獣物語 〜目指せ、戦国ひきこもりモフモフ生活! 八百万の幻獣をモフって今日も生き抜くぞ、おぉーーっ!〜   作者: 蒼葵美
14XX年 モフってたら生活基盤ができました

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0049. おねだり大作戦のプレゼンテーション

 計画書(という名のおねだりリスト)を完成させた翌朝。私は夜明けと共に目を覚まし、布団の中でしばらく天井の木目を睨んでいた。

 鳥のさえずりが遠くに聞こえる静寂の中、私の心は決戦を前にした武将のように張り詰めていた。これから行うのは、この国の未来を左右する、一世一代のプレゼンテーション。失敗は許されない。前世で何度も経験した胃がキリキリと痛むようなプレゼン前の緊張感が蘇る。


 だが、あの頃とは決定的に違う。今回は私がプロジェクトの全てを創造し、その価値を誰よりも信じている。そして何より私の言葉が持つ「神聖さ」という最強の武器がある。

 私は昨夜書き上げた「御神託リスト」を改めて頭の中で反芻し、その完璧なロジックと大義名分に一人頷くと覚悟を決めて布団から這い出した。


「たき、おはよう」

 私の声、隣の控えの間で微睡んでいた侍女のたきがすぐさま気配を正す。


「姫様、お目覚めでございますか。今、お支度の湯を……」


「そのまえに、おはなしがあるの」

 私はたきの言葉を遮り、できるだけ真剣な、それでいて幼子らしい響きを保った声で告げた。ここで重要なのはただの子供の寝言だと思わせないこと。

 神聖さと純真さ、その二つを両立させる高度な演技力が求められる。私は息を吸い込み、瞳に意識を集中させた。


「ゆうべ、かみさまが、ゆめにでてきたの。たいせつなおはなしだから、ちちうえとははうえに、すぐつたえたい」

 私の言葉にたきの顔色が一瞬で変わるのが分かった。彼女の黒曜石のような瞳が大きく見開かれ、驚きと畏敬が混じったような表情でその場にハッと膝をついた。

 その動きはあまりに自然で、彼女が日頃から私という存在に人ならざる何かを感じ取っていることの証左だった。


「! お琴様、それはまことでございますか、一大事にございます! すぐに、まつに先触れをさせます。ささ、お支度をいたしましょう」

 たきの動きはいつにも増して機敏で、かつ私に触れる手つきは宝物を扱うかのように丁寧だった。

 冷たい手拭いで私の顔を拭う指先が興奮で微かに震えている。よし、まずは第一関門突破。周囲を固めるのは基本中の基本だ。

 たきという最も身近な存在を完全に味方につけたことで私の「御神託」は客観的な事実としての強度を増した。


 起きてから四半刻(約30分)後。私は万全の態勢で父上と母上の待つ部屋に向かっていた。朝の清々しい光が差し込む廊下を小さな足で一歩一歩進む。

 ひんやりとした木の床の感触が足の裏から伝わってくる。心臓が少しだけ速く脈打っているのを感じながら、私は深呼吸した。大丈夫。

 プレゼンの相手は気難しいクライアントじゃない。私を溺愛する父と母だ。最高の聴衆じゃないか。いや、だからこそ難しい。彼らは私を愛するがゆえに、子供の戯言として聞き流してしまう可能性もある。それを乗り越え国家の事業として認めさせるのだ。


「ちちうえ、ははうえ。ことにございます。かみさまからのゆめのおはなしをしにまいりました」

 襖が開かれると同時に、私は緊急性をアピールするために単刀直入に用件を切り出した。部屋の中央では既に父上と母上が私を待ち構えていた。

 父上は朝餉もまだだというのに、既にきっちりと正装している。母上もまた、凛とした空気を纏って私を見つめている。

 たきからの先触れがこの場の重要性を完璧に演出してくれたようだ。


「おお、琴か! 待っておったぞ! 夢枕に立たれたと! それはまこと、御神託に相違あるまい!」

 案の定、父上が興奮気味に立ち上がり、ずいっと顔を寄せてくる。よし、食いついた! 前世の経験上、こういう前のめりなタイプの攻略はたやすい。 

 期待感を最大限に煽り、それを超える情報を提供すればいい。


「お前様ったら、はしたない。そんなに顔を近づけては、琴が驚いてしまいますでしょう」

 母上が冷静に、しかし威厳のある声で父上を押し留める。完璧なアシストだ。父上が熱くなり、母上が冷静に場を収める。このバランスが里見家夫妻の強みなのだろう。母上の冷静な視線は父上よりも手強いかもしれない。彼女を納得させられてこそ、このプレゼンは成功と言える。


「お、おお、すまぬ、そうじゃったな。儂としたことが、つい……。琴よ、落ち着いて話してくれ。どのような御神託であった?」

 父上が咳払いを一つして座り直す。私は二人の正面にちょこんと座り、二歳児にできる最大限の純真無垢な表情を作り上げた。ここからは私の独壇場だ。


「はい。きのうのゆめは、とてもきれいで、たのしいゆめでした。くさばなや、どうぶつさん、むしさんのおはなしです」

 私は夢の世界を思い出すかのように、少しだけ視線を宙に彷徨わせる。聞き手の想像力を掻き立てるストーリーテリングの基本だ。


「まず、しろくて、ふわふわしたおはなです。ひざしくらい、まぶしくて……かみさまが、みかわ?というところに、さいているめんか?とおしえてくれました。そのふわふわをあつめて、いとにして、ぬのをおりなさい、と。そうすれば、ふゆでもあたたかいおふとんや、おべべをつくれる、と……さむくて、ふるえているこどもがいなくなる、と……」

 最後の言葉に少しだけ悲しげな響きを乗せる。為政者の情に訴えかけるのだ。


「なんと! そのような花があるのか! 三河?、あの三河でそのような花があるとは……、その花があれば、この安房でも……神が直々にそのような事を!」

 父上の目がカッと見開かれる。安房の冬は厳しい。海からの湿った風が容赦なく体温を奪っていく。民が寒さに凍えていることは父上にとっても長年の悩みの種だったはずだ。そこに完璧な解決策を提示する。効果は絶大だ。父上の興奮が部屋の空気を震わせるのが分かった。

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