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【改稿版】戦国幻獣物語 〜目指せ、戦国ひきこもりモフモフ生活! 八百万の幻獣をモフって今日も生き抜くぞ、おぉーーっ!〜   作者: 蒼葵美
14XX年 モフってたら生活基盤ができました

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0046. 閑話・【氏兼】戦乱の都より希望の船出

 鞍馬寺で沙門殿との作戦会議を終え、我らは二手に分かれた。沙門殿率いる鞍馬衆は彼らの庭とも言える京の都へ。そしておれは鞍馬寺の副貫主殿がしたためてくれた紹介状を懐に、ただ一人、大和の国・奈良へと向かった。

 目的は南都六宗の筆頭、法相宗の大本山・興福寺。この地に古くから根を張る、巨大な宗教勢力との交渉だ。同じ仏門とはいえ、鞍馬寺とは宗派が違う。下手にこちらの内情が分かれば、何をされるか分からぬ。背筋に走る緊張を武士の務めと押し隠し、おれはその巨大な寺門をくぐった。


「――初めてお目にかかります。安房里見家が家臣、堀内兵部少輔氏兼と申します。本日は京の鞍馬寺よりの手紙を持参してまいりました」

 通された一室でおれを迎えたのは僧正位にあるという、老獪な目をした高僧だった。その視線は値踏みするように厳しく坂東から来た田舎武士の肚の底まで見透かそうとしているかのようだ。


「ほう、あそこの寺はまだあったのか。我らとは宗派が違うゆえ、何用で参ったのか、気になっておったところじゃ。まずは文を読ませてもらおう」

 文を読み終えた僧正は何やら目を閉じて深く考え込んでいる。穏やかな文面にしたつもりだが、悪手であったか。長い沈黙がおれの額に汗を滲ませる。


「……文に書かれていることを確認させてもらいたい。里見家では鞍馬寺の寺領より人を安房に移住させておるとのこと。安房にある鞍馬寺の末寺にでも連れて行っておるのかな」


「いえ、安房に鞍馬寺に連なる末寺はありませぬ。今後、末寺を建てるやもしれませぬが、まだこれからの事。寺領を用意するにもまずは建立に携わる民がおりませぬと、生活が出来ませぬゆえ」


「なるほどな。して、この興福寺の寺領でも人集めをして安房に移住させたいとのことか。なにゆえ、鞍馬寺の寺領だけですまぬのかな」

 来たか。最も厳しい詰問だ。おれは覚悟を決め、用意していた答えを口にした。


「鞍馬寺様からは、すでに荒れ果てた一つの村を丸ごと譲り受けるという、望外のご配慮を賜りました。鋳物師の方など、我らが求める職人衆があまりおられなんだ事情もございますが、これ以上、彼らの懐を寂しくさせるは我らの本意ではございませぬ」

 おれは一度、言葉を切り、僧正の目を真っ直ぐに見据えた。

「……そして、何より。安房に築くはただの寺社ではございませぬ。多くの民が寄り添う、新たな町の中心。その礎を築く職人衆が一つの寺の縁者ばかりではよろしくない。南都六宗の筆頭たる、この興福寺様のお力添えも賜り、西国の優れた技を広く安房の地に根付かせたい。我らはそう願っております」

 おれの言葉に僧正の厳しい目がわずかに和らいだ。


「……面白いことを言う。つまり、当寺にまず敬意を払いに来たと、そういうことか」


「御意にございます」


「……よかろう。話の真偽はいずれ分かること。せっかく鞍馬寺からの手紙を携え、少なからずの寄進もしてもらったのじゃ。寺領の村々で人を集めることを特別に許可しよう。ただし、村一つを根こそぎ、というような真似は許さぬぞ」


「はっ! ありがたき幸せにございます!」

 許可を得たおれは、早速、寺領の中でも先の戦乱で特に疲弊したという村へ向かった。

 そこでおれは腕は良いが、仕事を失い燻っていた一人の若き宮大工に声をかけた。


「――そなたの腕を、安房の国で試す気はないか」


「……あんた、誰だ」

 若者の疑念に満ちた目におれは誠意を込めて語りかけた。


「里見家の者だ。我らは今、東の果てに新しい都を築いておる」


「都、だと……? この乱れた世の中によ」


「そうだ。戦乱に怯えることなく、ただ己の技を存分に振るえる場所。家族が腹一杯、飯を食える場所。……おれたちはそういう国を本気で創ろうとしておる。そなたの力を貸してはくれまいか」

 若者の目が揺れていた。数日後、彼は同じように行き場をなくしていた仲間とその家族、四十数名と共に、おれの前に深々と頭を下げた。


 その頃、京の都では沙門殿が動いていた。

 彼が向かったのは、先の戦乱で見る影もなく荒廃した、都の西側、右京の一角。打ち捨てられた家々、活気のない通り。安房へ行く前の自分たちの暮らしを思い出すような光景の中、彼は一軒の工房の戸を叩いた。

 そこにいたのはかつては名を馳せたものの、今は埃をかぶった工房でただ日干しになっていた老いた鋳物師いもじだった。

「――老師。その神業の如き腕をこのような場所で朽ちさせるおつもりか」


「……何者だ、お主」


「安房の里見家に仕える者。我らが主君は〝本物〟の技を正当な値で求めておいでだ。金子も名誉もそして、何よりその腕を存分に振るえる〝場〟も全てお約束しよう」

 沙門殿の静かな、しかし確信に満ちた言葉に老人は、久しぶりにその目に職人としての鋭い光を宿したという。

 彼の一声で、同じように燻っていた多くの番匠、石工衆、瓦師たちが、その家族と共に安房へ行くことを決めた。その数、五十余名。


 全ての勧誘を終えた後、おれは京の都の外れにある、鞍馬寺の隠れ家で先に務めを終えていた沙門殿と合流した。互いの労をねぎらい、酒を酌み交わしながら、今回の成果を報告し合う。

「――おれの方は、宮大工の若き弟子を中心に四十数名。上々の成果だ。沙門殿の方は、どうであった」


「氏兼殿。こちらも五十を超えるかと。都の西側、右京の荒れ果てた様はひどいものでした。腕はあるのに仕事がない。皆、安住の地を求め、喜んで安房へ行くと申しております」

 番匠、石工、瓦師、鋳物師……。おれたち二人の働きで、姫御子様の都を創るための最初の「民」がおよそ百名集まったのだ。


「……助かった、沙門殿。お主がおれば百人力よ」

 おれが素直な気持ちを口にすると、沙門殿は静かに首を横に振った。


「いえ。我らは、姫御子様と殿のために、我らの技を使ったのみ。……それにあなたのあの若き職人に語った言葉、我が配下より聞き及んでおります。『都を創る』という、その熱意こそが人の心を動かすのでしょう」


 その言葉が少しだけ面映ゆかった。おれは照れ隠しに杯に残っていた酒を一気に呷った。

 数週間後。おれは摂津の国の湊で里見水軍の船団に人々が乗り込んでいくのを見守っていた。

 戦乱に疲れ、痩せこけた顔。だが、その目には新天地へのかすかな希望の光が宿っている。彼らこそ、姫御子様の都を創る最初の民。

 この移住は、鞍馬衆の時よりも乳飲み子や年寄りが少なかったこともあり、二月とかからず無事に完了するだろう。


「――氏兼殿」

 隣に立つ沙門殿が静かに呟いた。


「我らはとんでもないお役目を授かったものかもしれませぬな」


「ああ、全くだ」

 おれは潮風に吹かれながら、力強く頷いた。

 これからも鞍馬寺と、そして興福寺にも、折を見て寄進を続けねばなるまい。この大事業には彼らの協力が不可欠だ。

 船団が東へ、安房の国へと、ゆっくりと動き出す。

 姫御子様の都を創る者たちを乗せて。

 おれはその光景を、ただ黙って見つめていた。

 この先に待つ、長く、しかし、やり甲斐のある未来を確かに感じながら。

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