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【改稿版】戦国幻獣物語 〜目指せ、戦国ひきこもりモフモフ生活! 八百万の幻獣をモフって今日も生き抜くぞ、おぉーーっ!〜   作者: 蒼葵美
14XX年 モフってたら生活基盤ができました

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0039. 閑話・【氏兼】西へ東へ!影を求めて

 座敷牢から出された翌日。

 共に捕らえられた若様(二郎太郎様)とたき殿は、まだ沙汰を待つ身のままだ。奥方様が殿にお取りなしくださり、まずは儂一人が覚悟を示すべく、こうして赦されたのだろう。

 おれは改めて、殿の前に平伏していた。牢の中の冷気とは違う、身の引き締まるような緊張感が書院を満たしている。


「氏兼。その方の覚悟、しかと見届けた。だが、これからそなたに託す宮司の任、決して生易しいものではないと心得よ。一度なったからには替えは効かぬゆえ、努々(ゆめゆめ)、気を抜くことは許さぬぞ」


「はっ。御方様よりお話をお聞かせいただき、今回の事の重大さ、宮司の役割の重さを理解致しました。この身、粉骨砕身、姫御子様のため、里見家のために尽くす所存にございます」

 その言葉に殿は静かに頷いた。


「そうか、その心持ちありがたいことだ。では、最初の任を申し渡す」

 殿が語り始めたのは姫御子様の社を守る新たな護衛衆の構想だった。


「まず、表向きの宮司の役割は儂らとの文のやり取りと社、門前町の統括になる。だが、裏の役目こそが肝要。琴の護衛衆の取りまとめと御神託の実現に向けての動き、その全てをそなたに一任する」


「はっ」


「そして、その護衛衆……社の神官たる禰宜、権禰宜には、ただの武士では務まらん。影を歩き、影を討つ者……すなわち、透破すっぱ乱破らっぱの技を持つ者が必要じゃ」


「……忍びの者をでございますか」

 儂の問いに殿は頷く。


「左様。だが、ただの金雇いではない。神領の土地を与え、一族ごと移住させ、我ら里見家の正式な家臣として迎える。姫御子様の最初の民としてな」

 あまりに壮大な構想に儂は息を呑んだ。忍びの一族を家臣として召し抱える。それは諸刃の剣となりかねぬ危険な賭けだ。


「殿、恐れながら申し上げます。透破、乱破に忠誠を求めるのは至難の業。名の知れた伊賀や甲賀、ましてや目と鼻の先の風魔衆が一族を挙げてこの安房の地に移り住むとは到底思えませぬが……」

 すると、殿は「それよ」と口の端を吊り上げた。


「名のある一族ではない。我らが招くのは世に知られず、あるいは、その出自故に疎まれてきた、不遇なる影の一族よ」

 殿は声を潜めて、二つの名を告げた。


「――鞍馬衆くらましゅう飯母呂いぼろ一族」


「鞍馬衆と飯母呂一族……? 不勉強で申し訳ございませぬ、寡聞にしてその名を知りませぬ。いかなる一族でございましょうか」


「皆に知られていては、先ほどの条件に当てはまらぬゆえ、そなたが知らぬのも当然じゃ」

 殿は静かに説明を始めた。


「鞍馬衆は、かの九郎義経様の師匠と言われる鞍馬天狗の末裔と謳われ、古くは朝廷の陰働きも務めた一族。だが、その出自と力を疎まれ、今は京の鞍馬寺周辺で逼塞しておる。

 飯母呂一族はさらに古い。将門公の叛乱に加担した一族で、かの風魔衆も元はこの一族の出だと言われておる。逆賊の汚名を着せられ、今もって筑波の山中に潜むと言われておる、忘れられた者たちよ」

 なんと深きお考えか。


「……どちらも、喉から手が出るほど、安住の地と、己の技を正当に評価する主を求めているはずじゃ」

 不遇なる者にこそ、最大の恩を売る。これ以上ない、確かな忠誠を得るための策。


「なるほど……その二つの一族であれば、朝廷や公方様を含め、積極的に利用しようとする者は居ないでしょう。一族で住める場所を用意すれば、来るかもしれませぬな。ただ、飯母呂一族はよろしいのですか。風魔衆との繋がりが、もし残っておれば……」

 儂の懸念に殿は頷いた。


「そなたの懸念もその通りじゃが、風魔衆は飯母呂一族から離れて伊豆に移り住んだと聞いておる。一族の境遇に耐えられなかった者、不満を抱えた者たちが今の風魔衆であろう。ゆえに、彼らの間でそこまでのやり取りがあるとは思えぬ。むしろ、互いを牽制させる良い駒となろう」

 殿の深謀遠慮に儂はただただ感服するしかなかった。


「……御意。その者らであれば、殿の、そして姫御子様の御恩に命を懸けて応えましょう。この氏兼、必ずや説き伏せ、御前に連れてまいります!」


「うむ、頼んだぞ。鞍馬衆は、京の鞍馬寺が本貫地。まずは鞍馬寺やその周辺で事情を確認するが良い。飯母呂一族は、常陸の筑波山近辺におるはずじゃ。だが、筑波山は近いゆえ、噂が流れると厄介だ。まずは遠き京の鞍馬衆から探すがよい。事をくれぐれも内密に進めよ」


「ははっ!」

 儂は深々と頭を下げると広間を後にした。

 外に出ると突き抜けるような青空が広がっていた。

 我が主君の深謀遠慮。そして、その中心におわす、あの日、そのか細きお声で我らの命を救ってくださった姫御子様。

 里見家の未来は、この先にとてつもなく大きく、そして面白きものとなるに違いない。

 その礎を築くための最初の使い。これ以上の誉れはない。


 儂は旅の支度を整えるため、自邸へと向かう。もはや武士の甲冑は不要。必要なのは、影に溶け込むための旅の僧の装束か、あるいは物売りの衣装か。

 これから始まるのは、いくさ場とは違う、人の心を読み、動かす戦だ。

 儂は西の空――京の都の方角を睨み据えると、故郷の土を力強く踏みしめた。

 西へ、東へ。

 姫御子様のため、影を求める、長い、長い旅が始まる。

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