0003. ???からの業務命令
少し余裕が出てきたので、再開しようと思い、思い出すために読み直したら、いろいろと気になったので、改稿することにしました。心機一転、新しい作品として、読んでもらえればと思います。
ブックマークと☆、「いいね」で評価をしてもらえると嬉しいです。
視界から色彩が抜け落ち、世界は古いモノクロ映画のように変貌した。耳を圧するほどの完全な静寂。自分の呼吸の音すら聞こえない空間は、脳がバグを起こしそうなほどの違和感に満ちている。
けれど不思議なことにやっと話をしてもらえると思うと、私の心は落ち着いて、気持ちが凪いでくる。
パニックを通り越すと、人はこうも冷静になれるものらしい。目の前の彼女が、人知を超えた人外の力を持つ人にあらざるモノ、「何か」であることは、もう疑いようもなかった。神か、悪魔か、あるいは宇宙人か。何をしても叶わぬ存在、常識で測れない相手を前にして、ジタバタしても無意味だと、本能が理解していた。
(それにしても、なんでこうなったのかなぁ〜。しがない陰キャモブキャOLの私に、一体なんの用事だろう……)
感情の読めない瞳が、私を面白そうに見つめている。
「あら、意外とビックリしないで、冷静なのね。もっと取り乱すかと思ったわ。……さすが、〝彼女〟の並行存在なだけあるわね」
「ん?〝彼女〟? 私がどこかで有名人だったりするんですか?」
「あぁ〜、あなた本人が、というわけじゃないわ。あなたの〝並行存在〟が、ね。……ふふ、まあ順を追ってちゃんと説明してあげるわよ。じゃないと、あなたも納得できないでしょう?」
不意に、彼女の古風な〝のじゃ〟口調が滑らかな現代語に変わる(こっちが素の口調か……? ツッコんだら話がそれて長くなりそうだから、今はスルーしよう)
ちゃんと説明する気があるなんて、良心的ね。って、不法侵入してる人に向かって、好感持ってどうするんだ。詐欺師の使う人心掌握術か、あるいは極限状態が生む吊り橋効果か。不法侵入者であるはずの彼女に、奇妙な信頼感を抱き始めている自分に気づき、内心で首を振る。
「まずは自己紹介から。私の名は、倭迹迹日百襲媛命。もっとも、この名を聞いてもピンとこないでしょうけど」
「やまとととひももそひめのみこと……」
思わず、その名を反芻する。日本書紀に記された、古代の女王。
「それって、一説では邪馬台国の女王、卑弥呼様の正体とされてた方ですよね……」
私の言葉に、彼女は初めて少しだけ目を見開いた。
「あら。私の真名を知っているの? しかも、巷で言われる〝卑弥呼〟という俗称からではなく。大したものね、なかなか知的好奇心が旺盛じゃない」
卑弥呼様が誰だったかについては、色々な諸説があるので割りと興味があって各諸説を読んでいたのだ。
どの説が正しいかは、まったく分からないが、古代宇宙飛行士説並みに突拍子もない説など色々な説があって面白いと思っていたんだよね。
何でこんなに落ち着いてられているのか、自分でも分からないが、プライベートを過ごしている有名人を見かけて、声をかけたときと一緒の感覚があるんだよね。
「あっ、ありがとうございます。それで倭迹迹日百襲媛命様は、なんで私なんかに用事があったのですか?自分で言ってはなんですが、そのへんにいる陰キャモブOLの一人だと思いますが」
クトゥルフ、並行世界というキーワードで、何となくイヤな予感しかしない。ここでイヤな予感が働かないほどの鈍感のほうがこの先に見えているショックを感じないから、そっちのほうが良いんだけどな。
とはいえ、もう気づいてしまったんだから、ここはキチッと話を聞いて、出来る限り、不利に変にならないように良い条件を勝ち取らなければと、キリッと口を結び、下から倭迹迹日百襲媛命様の顔を見る。
「卑弥呼でいいわよ。それで、あなたに頼みたいことだけど……勘が良さそうだから、もう何となく察しているんじゃない?そういうところは、あっちの世界のあなたソックリね。それと、そんなに気合いを入れた顔をしなくても、大丈夫よ」
彼女の言葉に、私はゴクリと喉を鳴らした。クトゥルフ、並行世界、転生。嫌な予感しかしない単語のパズルが、頭の中で一つの形を結ぼうとしている。
「転生は確定事項よ。でも安心して、こっちとしてもやってもらいたいこともあるから、記憶はそのまま、それに簡単に死なない程度の加護は付けてあげる。あなたたちの言葉で言う〝チート〟ってやつね。それと特別にチートの内容は話しながら決めてあげるから、それなりに使い勝手は良いと思うわよ。まぁ、当然ある程度の制限はあるけどね」
「……あっ、ありがとうございます。卑弥呼様。それで、私にしてほしい事とは何でしょうか。それと、やはり、私はすぐに転生させられるのでしょうか」
「簡単な方から答えると、転生はこの話が終わったらすぐね。今回のことは他の神々の協力も仰いでいるから、もう後戻りはできないの」
(はぁ〜、やっぱりすぐなのかぁ。狐火ちゃん……限定イベントの衣装、着せてあげたかったな……もうお別れかぁ……)
卑弥呼様の非情な宣告に、気分がグンと落ち、胸がずしりと重くなる。
「そして本題。あなたに行ってもらうのは、並行世界の戦国時代よ。実は、並行世界の〝令和のあなた〟がとんでもない技術を開発して、とんでもないことをやらかしてしまってね。このままだと、その世界の時間軸そのものが崩壊しようとしているのよ」
(並行世界の私、何やらかしてるの!? しかもスケールがでかい!どうしたら、世界が崩壊するの?私が、わたしを止めるの?
「普通、1つの世界に並行世界は、1つ、多くても2つなんだけどね。ところが、並行世界のあなたが偶然、異世界からエネルギーを抽出出来る技術を発見してしまって、並行世界以外からエネルギーの移動が起こってしまったのよ。
ただ、技術が不完全で、自分たちの時間線には持って来れず、自分の世界の過去にエネルギーを送り込んでるのよ」
「ただ、1つあっちのあなたが誤算だったのは、戦国時代の技術では送り込まれたエネルギーを消費する事ができず、どんどん膨れ上がって溜まってしまったことね。
あっちのあなたは、少しエネルギーを消費されながら、自分の時代で溜まったエネルギーをガッツリ使う気でいたようなのだけど、このまま行くと溜まり過ぎたエネルギーであっちの世界は崩壊してしまって、並行世界は消滅。
その影響であなたの世界も崩壊して、消滅してしまうのよ」




