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【改稿版】戦国幻獣物語 〜目指せ、戦国ひきこもりモフモフ生活! 八百万の幻獣をモフって今日も生き抜くぞ、おぉーーっ!〜   作者: 蒼葵美
14XX年 モフってたら生活基盤ができました

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0027. 閑話・【光賀】甲斐の統治者と百の未来

 駿河国の府中。今川家の治めるこの街は、まだ秋の刈り入れ前というのに、相変わらずの賑わいで物が豊富であるな。行き交う人々の顔にも活気がある。今川の治世は盤石ということか。

 まぁ、里見様の領地と直接接している訳ではないので、商い相手としては、丁度良いのかもしれぬ。何事も急いては事を仕損じる。武田様の元へ乗り込む前に、まずは外堀を埋めるのが筋というものだ。わしは富士氏の屋敷に挨拶を済ませると、富士山本宮浅間大社へと向かった。

 寺社との交渉は、骨が折れた。


「里見家による、戦乱で親を失った子供たちの救済事業にございますれば、何卒、御仏の慈悲を…」

 わしは商人としての弁舌を振るい、大義名分を掲げた。結果、浅間大社、そして身延山久遠寺から、買い付けた子供たちを一時的に神領や寺領で預かってもよいとの言質を得ることができた。

 ただし、預かり料として、里見様から預かった額より、多少おおく喜捨をする必要がある。これは想定内の出費だが、このままでは足が出るやもしれぬ。

 手間ではあるが、甲斐へ向かう前に、一度、安房へ戻るべきか。手紙で済ませるのは早いが、金子の話だ。主君の信頼を得るには、手間を惜しんではならぬ。

 駿河での根回しを終えたわしは、一度、安房へと戻る決断をした。


「――里見様。喜捨の額が、当初の見積もりを上回りそうでございます。つきましては、買い付け額の上乗せを、ご検討いただけませぬでしょうか」

 わしの報告と願いに、殿は鷹揚に頷かれた。


「うむ、仁右衛門。よう戻り正直に申した。その働き見事である。そなたの働きに儂も誠意で応えよう。金の心配はするな。事を成すのが肝要ぞ」

 数日後、里見様は一人あたり二百文という、わしの期待を遥かに上回る増額を約束してくださった。その懐の深さに、わしはこの御方のために全力を尽くそうと心に固く誓った。


 改めて武田様への書状を預かり、わしはついに甲斐の国へと足を踏み入れた。豊かな駿河とは打って変わって、甲斐の山道は険しく、村々は痩せている。人々の顔つきもどこか厳しかった。

 案内された躑躅ヶ崎館の広間は、安房のそれとは違う、質実剛健だが、どこか殺伐とした張り詰めた武威に満ちている。

 上座に座す御方――甲斐国の実質的な統治者・武田信長たけだのぶなが様。その双眸は坂東にその名を轟かせる、甲斐源氏そのものの鋭い光を宿していた。


「……婿殿からの書状、読ませてもらった。真里を嫁に出して以降、まともな文のやり取りなぞ無かったが、珍しいこともあるものよな。して、光賀とやら。そなた、この甲斐で何を買い求める」

 試すような鋭い視線。ここで嘘をつけば、首が飛ぶ。

 わしは覚悟を決め、正直に申し上げた。


「はっ。里見様より、この国におわす、親なき子、あるいは口減らしに遭う子らを、一人でも多く買い受けるよう、命じられております」

 わしの言葉に信長様の目がわずかに細められた。


「……ほう。素直に申すではないか。婿殿は我が国の民を兵として使うおつもりか」


「いえ、兵としてではなく、民としてでございます。安房の地で新たな生を得るための手助けと仰せでした」

 わしの答えに信長様は、ふっと、纏う気を和らげた。


「その心根、良しとしよう。我が甲斐の国は貧しい。そなたの言うような子供らが、冬を越せずに命を落とすことも少なくない。それが婿殿の元で生きながらえるというのであれば、この武田が助力せぬ理由はない。好きに買い集めるがよい」


「ははっ! ありがたき幸せにございます!」


「ただし」

 信長様はにやりと笑った。その笑みは狼のそれだった。

「助力への礼は、……そなたの〝気概〟で、示してもらおうか。そなたがこの商いで示す気概は、里見と我が武田を結ぶ、金子より確かな絆となるやもしれぬぞ」

(……試されておる!)

 これは値のつけられぬ、最も高くつく礼だ。

 わしは背中に冷たい汗が流れるのを感じながら、深々と頭を下げた。


「……承知、いたしました。この光賀、身代の限りを尽くし、必ずや」


 数週間後。

 わしは小さな子供たちの手を引き、甲斐の国境を越えていた。

 第一陣の二十六人。どの子も親に売られた悲しみを瞳に宿しながらも、毎日腹一杯の粥が食べられる安堵からか、静かにわしの後をついてくる。

 浅間大社や久遠寺には、まだ六十を超える子供たちがわしを待っている。

 百の小さな手。百の未来。

 それを、わしは金で買った。

 この商いが果たして、どれほどの〝利〟になるのか。もはや、わしには分からなかった。

 ただ一つ分かるのは、この子供たちを無事に安房の地へ送り届けることが、今のわしの唯一にして最大の〝気概〟だということだ。


 里見様。御方様。そして、あの奇妙な姫君。

 あんた達はわしにとんでもないものを買わせてくれた。

 わしは空を見上げ、故郷の津島とは違う、坂東の乾いた風を深く、深く吸い込んだ。もはや、ただの商人ではおれぬ。この百の未来をわしは背負ってしまったのだから。

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