バズーカ!
森の中を歩き出して、すでに一時間が経過していた。
「……思ってた異世界と、違ぇなあ……」
木々の間をかき分けながら、神谷悠真はぼやいた。
モンスターがバンバン出てくるRPG感とか、村で勇者扱いされる展開とか、そういうのを想像していたのに。
現実の異世界は、普通に足元ぬかるむし、虫はうざいし、腹は減る。
「ステータスも微妙だし……スキルも“選択”だけって……」
──と、思ったそのとき。
足元に「コロコロコロ」と、何かが転がってくる音がした。
「……ん?」
見下ろすと、そこには小柄なゴブリンが転がっていた。
何かに追われているわけでもなく、特に攻撃的でもない。完全に自分の意志で転がっているだけだ。
「……いや、なんで転がってんの?」
コロコロゴブリンは止まることなく、ぐるぐると悠真の足元を回り続ける。まるで転がることが目的で生きているかのように、ひたすら転がる。
その姿があまりにも可愛くて、悠真は思わず笑ってしまった。
「……これって、もしかして、仲間になる?」
【選択肢】
▶ コロコロゴブリンを無視して進む
▶ コロコロゴブリンと友好関係を結ぶ
▶ コロコロゴブリンに手を振ってみる
▶ そのまま転がってみる(ギャグ)
▶ コロコロゴブリンに向かって、「バズーカ!」って叫ぶ(ギャグ)
悠真は迷わず、五番目を選んだ。
「バズーカ!」
──思いっきり叫んでみたが。
コロコロゴブリンは一瞬、その転がるペースを止め、悠真を見上げた。
その目には、ほんの少しだけ「呆れ」という色が浮かんでいた。
「……えっ」
しかし、すぐにその呆れ顔を無視して、ゴブリンは何事もなかったかのように、また転がり始めた。
悠真は一瞬、沈黙。
「お、おう……」
(やっぱり通じなかったか)
コロコロゴブリンは、無言のままぐるぐると転がり続けていく。
それから少しして、悠真はもう一度手を差し出してみた。
「……よっしゃ、気を取り直して、友達になってやろう。」
そう言って、今度こそ本当に優しく手を差し出すと、ゴブリンはピタリと転がるのをやめ、悠真の手を見上げた。
その瞬間、ゴブリンはにっこりと笑い、悠真の手を軽く握った。
「おお……仲良くなった!」
ゴブリンは嬉しそうに転がりながら、悠真の周りをぐるぐると回り始める。
「よし、これからよろしくな、コロコロゴブリン!」
コロコロゴブリンは、にこやかな笑顔を返しながら、また転がり続けるのだった。