プロローグ ──転生なんて、妄想だと思ってた。
夜更新します!
「なあ神谷、また告られたってマジかよ?放課後、屋上で待ってるってさ」
昼休み、教室の窓際。
野球部のエース・佐伯がニヤニヤしながら肩を組んでくる。
「え、うそだろ?先週も後輩に告白されてたよな?」
「俺らの学校、神谷くんにしか女いないのかよ~」
周囲の男子が騒ぎ、女子たちもこっそりこちらを見ては、ヒソヒソと囁き合う。
──神谷 悠真。
成績上位、運動神経抜群、顔も良くて、性格もさっぱりしてる。
そう、彼は“学校で完璧とされる男子”だ。
「んー、屋上って風強くて髪ボサるからやなんだよなぁ。…誰か代わりに行ってきてよ」
「代わりに振ってこいってか!? なんだその贅沢ぅ!」
教室が笑いに包まれる。
本人はただ苦笑いしながら弁当箱を開けるが──
その頭の片隅では、まったく別の世界が広がっていた。
──もし、俺が異世界に転生して、世界最強の魔王を倒す運命の勇者だったら。
──いや、魔王側に転生して、世界を影から支配する“黒幕”キャラでもアリだな。
──ふっ……神にも抗い、絶望すら従える俺……イイ……!
(……って、あっぶね。口角上がってた。変な奴と思われるとこだった)
悠真は弁当を食べるフリをしながら、心の中で深く嘆息する。
現実では人気者。でも家ではPCの前でラノベ漁り、異世界妄想に浸る毎日。
それが神谷悠真の“裏の顔”だった。
「転生……してぇなぁ……」
誰にも聞こえないように、心の底で呟いたその瞬間。
世界が、光に包まれた。
──瞬間、視界が真っ白になった。
(……え? 今の光、なんだ……?)
気づけば、床も天井もない白銀の空間に立っていた。
目の前には、見たこともない服を着た奇妙な人物がふわふわと浮いている。
「おっほ~! やっと来たな、転生者たちぃぃぃッ!!」
謎の人物が両手を広げて、テンション高く叫んだ。
金髪のロン毛に、サングラス、真っ白なスーツ。
何かの宗教団体か、深夜番組に出てくるインチキ霊能力者か――とにかく神っぽさゼロ。
「……誰?」
「神だよ神!! 見りゃわかんだろ? ザ・ゴッド様っすよォ~~~!!」
フゥ~!と指を鳴らしてポーズを取るその姿に、悠真は思わず引いた。
(……いやいやいや、こんなんで神とか、マジかよ)
「は~い、じゃあ今からキミたち、異世界に転生しま~す!」
神はポンポンと手を叩いて言った。
「え、転生って……マジで? いや俺、さっきちょっと妄想しただけで――」
「うん!その“ちょっと”が良かった! 強く願ったその瞬間、俺のレーダーがビビビっと来ちゃってぇ! で、クラスメイトごと召喚しといたから安心してね!」
「え、勝手に!?」
神谷が叫ぶと、背後からも驚きの声が上がる。
振り返ると、そこには同じく光に包まれたクラスメイトの姿があった。
「なんなんだこの状況……」
「ま、待って神様? 急に言われても困るんだけど?」
「神ってマジでいたのかよ……」
神はそんな困惑を意に介さず、ニコニコ顔で言った。
「さーてさてさてさて、異世界って言ったら、もちろん! チート能力、ですよねェ~!」
「チートは……」
神が指を立てる。
「え~っと、君たちの中からランダムで、適性に応じて配りまーす! 公平でしょ? 神だし!」
「は? ちょっと待って、それマジで――」
「んじゃ! それぞれ個別に転生先へGO! がんばってね~! じゃね~ッ!」
「え、おい待て、神様、話は――」
パァン!とクラッカーでも鳴らすような軽い音がして、視界が再び光に包まれた。
──そして、俺は。
「…………は?」
目を覚ますと、そこは草の匂いが漂う、鬱蒼とした森の中だった。
鳥の鳴き声、風の音、遠くで小川のせせらぎ……見知らぬ空の下、俺は一人で転がっていた。
「……転生……したのか?」
服は異世界風の簡素なチュニックに変わっていた。体は確かに現実世界の高校生とは違う感覚。
全身の感覚が妙に研ぎ澄まされているようで、五感がちょっとだけ強化された気がする。
(……よし、とりあえずステータスとか出すんだよな、こういうとき)
試しに「ステータス」と呟くと、目の前に青白いウィンドウが表示される。
⸻
神谷 悠真
職業:なし
レベル:1
HP:20
MP:10
筋力:9
敏捷:10
知力:11
運:12
特性:なし
スキル:――【選択】のみ
⸻
「……いや、しょっっっっっぼ!!」
叫び声が森にこだました。
どこにも“チート”の文字はない。スキル欄にあるのは、よく分からない【選択】という単語だけ。
「スキル【選択】って……何だよ……まさか“今日の昼ごはんを選ぶ”とかじゃねえだろうな……?」
と、そのとき。
視界の隅に、不意に浮かび上がった。
──【選択肢】
▶ この森を進む
▶ この場に留まる
「…………うわ、マジで出たよ。選択肢。」
だけど、それ以外に何のヒントもない。
何を選んだら正解かもわからない。どこに進むのかも分からない。
だけど──
「……面白えじゃん。」
神谷悠真は口元を歪めて笑った。
「チートもスキルも無いけど……選択肢の先に、何があるのか。見てやろうじゃねぇか。」
そして、彼は一歩を踏み出す。
──これは、選ばれなかった“凡人”が、
選び続けたその先で、世界を変える……かもしれない? 物語。




