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【6/1第二巻発売!&コミカライズ連載開始】意地悪姉と呼ばれた令嬢、実はとても優れた魔法使いでした。  作者: 光子
第二章 ヴァルドール王国

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79話 声が告げるもの



「えへへ。無事に異能ゲットしたよぉー!」


 アイノウが手に持っていたのは、異能の結晶を保管するために造られた特別な箱。その箱の中で静かに息づいている【縁結びの団子】の異能。

 彼はそれを宿屋でノアとハルトに掲げると、誇らしげに報告した。


「それはご苦労様でした。ですが……リネットはどうしたんですか?」


 ノアの視線は、机に突っ伏すように頭を伏せた私へと向けられる。

 肩は小刻みに震え、指先にはまだ魔力を使い果たした余韻が残っていた。まるで全身から力が抜け落ちてしまったかのようで、椅子に座っているのもやっと。


「だ、大丈夫です」

「それでですか?」


 かすれた声で答える。

 けれど、首を振ろうとしただけで頭が痛み、再び机に額を押し付けてしまう。


「僕は休んだほうがいいよって言ったよ? でも『大丈夫!』って聞いてくれないからさぁ」


 頬をふくらませ子供みたいに拗ねた声を上げるアイノウ。

 魔力の総量が少ない私。だからこそ少ない魔力でも扱えるように魔法式を書き換えて、「極彩式魔法」を作り続けた。

 けれど回復魔法は元々苦手で思うように進まず、とどめに異能の力を使ったこともあって、この有様。


「結局、異能の力は何だったんですか?」

「動物と、ほんのひとときですが心を通わせることができる魔法です」


 あの時、頭の奥に響いたのは、紛れもなくあの小さな子犬の声だった。けれど私の魔力の限界もあって、声はすぐに遠ざかってしまった。

 その後、子犬は他の動物達と共に静かに町の片隅へと戻っていったけど、きっとこの町で、これからも穏やかに生きていくのだろう。

 私は机に額を押し付けたまま、疑問に思っていたことをぽつりと呟いた。


「異能って、取り外しできるんですね」

「結論から言うと、それも異能次第です。今回の異能は、それが可能だったというだけです」

「因みに僕の異能は、異能が僕のこと気に入り過ぎちゃって取り外し不可だよ!」


 本当に千差万別なんだ……。

 そんな風に思いながら会話をしていると、不意に、横から冷ややかな声が落ちてきた。


「これくらいでへばって、第0部隊が務まるの?」

「ハルト……」

「そんなに役立たずだと、無駄に死ぬだけ。やっぱり、さっさと元いた部隊に戻った方がいい」


 無表情のまま放たれた言葉に、悪意は感じられなかった。ただ、彼は思ったことをそのまま口にしているだけなのだろう。

 だけどそれが余計に、胸に刺さる。

 実際、魔力不足で一歩も歩けなくなった私をここまで運んでくれたのはアイノウと動物達だ。迷惑をかけているのは間違いようのない事実。


「すみません、でも、次は必ず――」

「足手まといは必要ない」

「っ」


 容赦ない一言が、喉元に鋭く突き刺さった。言い返そうとしても、声はそこでぷつりと途切れる。

 空気が一瞬で冷え込む中、ノアが小さく息を吐いた。


「こら、ハルト。言いすぎです。リネットが第0部隊に配属されたのは、彼女自身の実力があってこそです。騎士にはわからないことかもしれませんが、複数の魔法系統を扱えるというのは並の才能では到底できないこと。彼女が積み重ねてきた努力の証です」


 揺るぎなく私を庇ってくれるノア。

 けれど、ハルトには少しも響かなかったようだ。


「努力とか、結果が出ないなら意味がない」


 冷たく切り捨てられた返答に、場の空気はさらに重く沈む。だが、そんな空気をまるで意に介さないように、場違いなほど明るい声が弾んだ。


「そうかなぁ。僕はリネットこそ、第0部隊に必要な人材だと思うけどなぁ」

「え……」


 思わず顔を上げて、呆けた声が漏れる。

 庇ってくれるのは嬉しいけど……流石に言い過ぎでは? 私だって、自分にそこまでの価値があるとは思っていないのに。


「……アイノウ、歳のせいで判断力でも鈍った?」

「ええー、酷いなぁハルト。僕はいつだって絶好調だよ!」


 いつもの調子で、冗談を交えて軽く言っているだけだと思った。けれどアイノウの瞳に宿っていたのは、意外にも揺るぎない確信だった。


「ねぇ、リネットって――異能の結晶の居場所が分かるんじゃない?」


 アイノウのひと言に、ノアとハルトの動きがぴたりと止まる。まるで時だけが凍りついたような、張り詰めた静寂。

 私はその圧に飲まれそうになりながら、慌てて声を上げた。 


「ま、まさか! 居場所なんて分かりません! もし分かっていたら、すぐに皆さんに伝えています!」


 力を振り絞って首を振り、必死で否定する。頭はくらくらするけど、それどころじゃない!

 この町に来てから、私は誰よりも異能を探していた。それでも見つけられなかったのだ。居場所が分かるなら、迷うはずがない。


「じゃあどうして、祠の奥に結晶があるって分かったの?」

「それは……」


 言葉が喉に詰まり、視線が揺れる。

 アイノウだけじゃない。ノアもハルトも、心の奥を覗き込むような鋭い眼差しを向けてくる。

 彼等の異様な視線に射抜かれながらも、私は必死に言葉を探した。


「……何となく、です。どんな状況で感じるのか、はっきりしているわけではないんですけど……まるで、『声』が届いてくるみたいで」


 それは誰に向けられたものでもない、小さな小さな声。

 耳に届かないこともあるけれど、時に違和感や気配として私に語りかけてくる。

 私にとっては、それが「普通」だった。だからこそ、こんなふうに真剣に問い詰められる理由が分からなかった。


「……異能の声が聞こえる?」

「本当なんですか!? そんな力、聞いたことありません!」

「嘘じゃないよ。だってリネットが案内してくれたから、ちゃんと異能見つかったんだから」


 だけどノアもハルトもアイノウも――その表情は真剣そのものだった。

 張り詰めた空気の中で胸の奥に芽生えた違和感は抑えきれず、つい言葉となってこぼれ落ちる。


「あの、もしかして……皆さんは、異能の『声』が聞こえないんですか?」


 一瞬の沈黙。

 そして、アイノウが私の疑問に静かに答えた。


「僕は一度も聞こえたことないよ。気配だって感じたことない。少なくとも、そういう人間に会ったことはないかなぁ」

「っ……!」


 私が当たり前だと思っていたことは、誰にでも備わっているものではなかった。

 異能の声を感じ取れる力――どうして、私は異能の気配を感じ取れるの?

 そんな疑問を感じながら、第0部隊、私の最初の任務は幕を下ろした。



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