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7話 突然の告白

 


「コホン、では気を取り直しまして、アレン殿下、この度は娘に縁談を、ということでしたが、お気持ちは変わりませんでしょうか?」


(縁談?)


 アレンに残るように言われ、お父様達と向かい合うようにテーブルを挟んでアレンの隣に座った私は、何を考えているか分からない彼の横顔を見た。


「ええ、是非、貴方の娘を俺の婚約者に欲しいと思い、こうしてお願いに来ました」


(ラングシャル帝国の皇子が、何の特色も無い、下位貴族のメルランディア子爵家の娘を?)


 私の疑問なんて頭にも思い浮かばないのか、アレンの言葉に、お父様もお義母様もウルも喜びを噛み締めるように、三人で抱き合った。


「流石は自慢の娘だ! まさか皇子様に縁談を申し込まれるとは!」


「ああ、やっぱりウルは私の自慢の娘だわ!」


「お父様、お母様……ありがとう! 嬉しい……私、アレン殿下と、幸せになります!」


 帝国の皇子様に縁談を申し込まれて有頂天になる気持ちは分かるけど、クリフ様は? 私から奪ったクリフ様のことは? つい数日前に婚約を交わしておきながら、無かったことにしようとしてるの?


(ずっとクリフ様が好きだったんじゃないの? だから、私に虐められたと嘘を付いてまで、私から奪ったんじゃないの?)


 目の前で無邪気に喜んでいる三人が、吐き気がするくらい気持ち悪かった。


「――何か誤解されているようですが、俺が婚約者に欲しいのは妹の方では無く、リネットです」


「――え?」


 すぐ隣に座るアレンの視線が、気付けば、私に向けられていた。

 その目は学生時代に見たことがないくらい優しく微笑んでいて、不覚にも、心臓の音が高鳴った。


「リ、リネットを!? ご冗談ですよね?」


「冗談ではありませんよ、リネットが婚約破棄されたと聞いて、こうして婚約のお願いに来たんです」


「私……?」


「ええ、俺の婚約者になって下さい、リネット」


 お父様も驚いているけど、私も驚いてる。まさか第三皇子のアレンが、私に婚約を申し込むなんて!


「う、うわーん! 酷いわ、お姉様!」


 何故か急に名指しで私を指し、泣き出すウル。


「酷いって……私、何もしていないけど」


「私がアレン殿下の婚約者になるはずだったのに、きっとお姉様が何か汚い手を使って私からアレン殿下を奪ったんだわ! 私に恥をかかせて、楽しい!?」


 いや、ただ三人で勝手に盛り上がって、あてが外れただけでしょ。何でそれが私の所為になるのよ。何でもかんでも私の所為にしないでくれる?


「まぁ、可哀想なウル! アレン殿下、考え直して下さいませ! リネットが婚約者だなんて、そんな意地悪な姉、アレン殿下に相応しくありませんわ!」


「そうですアレン殿下! リネットは可愛い妹を虐める性格の悪い最低な姉です! それが原因で婚約破棄されたような女ですよ!? アレン殿下には、妹のウルの方がお似合いです!」


「その妹のどこが、俺に相応しいんですか?」


 好き勝手に私を悪く言って熱弁する両親とは違い、アレンは一切、動じていないようだった。ただ、冷笑を浮かべ、疑問を口にした。


「それは勿論、ウルの方がどこからどう見ても可愛い娘ですわ!」


 可愛くない娘で悪かったですね。ウルはお義母様の血を引いているだけあって、お義母様に髪色や目の色が同じでそっくりですもんね。

 確かに、ウルは可愛いと思う。庇護欲がそそる、可憐な顔をしてる。


「それ以外は?」

「え?」


 だけど、私が男でも、ウルは選ばない。


「可愛いのは魅力的だと思いますが、それ以外に何があるんですか? 何か得意なものはありますか? 学生時代に専攻していた授業は? その成績は? 貴女に、何が出来るんですか?」


「え? え?」


 矢継ぎ早に質問され、戸惑うお義母様にウル。


「可愛いだけで他に何の取り柄も無い女性に、魅力は感じません」


 お父様にもお義母様にも甘やかされて育ったウルは、何も出来ない。何の努力もしてこなかった。

 貴族だからって着飾って暮らせばいい国とは違い、ラングシャル帝国では品格も能力も重要視されるのに、国の代表となる皇子が、ウルなんかを婚約者に選ぶはずがない。


「ひ、酷いです! 愛さえあれば、そんなのどうにでもなるじゃないですか!」


「では、愛のない俺と貴女では無理ですね。何せ、貴女とは初対面です。それなのに愛を盾に語るなんて、愚かしいことです」


「それは……これから、お互いを知っていけば!」


「残念ですが、貴女に微塵も興味がありません」


 容赦なく妹を拒むアレン。

 まだウルは何か言いたそうにしていたけど、アレンは妹を無視し、また私の方に向き直した。


「返事は?」


「……っ、何で、私なんですか? 学生の時はそんなこと、微塵も……」


「俺は何事にもひたむきに努力するリネットがずっと好きでした。だけど、婚約者がいたので、諦めていたんです。婚約者がいなくなったのなら、遠慮はしません」


 数日前、ここで婚約破棄を告げられたばかりなのに、まさか、すぐに婚約を申し込まれることになるなんて……しかも、アレンに! 信じられない!


 あの時とは真逆で、アレンからプロポーズを受けている私を、お父様やお義母様、ウルは、歯を食いしばりながら、悔しそうにこちらを見つめていた。


「こ、断った方がいいよ、お姉様」


「ウル?」


「お姉様がアレン殿下の婚約者だなんて、似合わないもの。私、お姉様のために言ってあげてるんだよ? だから、ね?」


 ――私のため? 嘘つき、ウルは嘘ばかりね。

 私が第三皇子の婚約者になることが、アレンの婚約者になることが、気に入らないだけでしょ。


「私……は、アレンの婚約をお受けします」


「お姉様! 何で私の言うことを聞かないの!?」


「意地悪な姉が、妹の言うことを素直に聞くと思う?」


「っ!」


 ウルが決めた設定なんだから、忘れないでよね。私はちゃんと、ウルの望み通り意地悪な姉になることにしたの。私に虐められてたんでしょう? いいよ、これからもずっと、虐めてあげる。


「では、婚約成立ですね。ああ、そう言えば、リネットはこの家から追い出される予定だったんですよね? 新しく住む場所を用意しますので、行きましょうか」


 私の手を優しく引き、ソファから立ち上がらせたアレンは、嬉しそうに肩を抱き、そのまま部屋の外へと誘導した。


「お待ち下さい、アレン殿下!」


「話は終わりました。リネットは俺が責任を持って幸せにするので、ご安心下さい。ああ、もう貴方達の娘ではないので、関係ありませんでしたね」


「いや、それは……」


「では、失礼します」


 固く閉められた扉の向こう、大きなウルの泣き声が聞こえて、何やら騒いでいる大きなお義母様の声が聞こえて、それらを宥めるお父様の声が聞こえた。可哀想、でももう、私には関係ない。だって私は、とっくの昔に家族じゃなかったんだもの。


 物語通り、私が不幸にならなくてお生憎様。私はもう、ウルの物語に出てくる、ウルに都合のいい意地悪姉には、ならない。



 では、今度こそさようなら、赤の他人のメルランディア子爵家の皆様。




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