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6話 アレン=フォン=バレット

 


 ◇◇◇


「ようこそいらっしゃいました!」


 今まで見たことないくらい腰を低くしたお父様が、応接室でアレンを迎える。

 隣には、今からパーティーにも出掛けるのかってくらい着飾ったお義母様とウルもいた。身だしなみを整えろとは言ったけど、誰がそこまでしろと言いました?


「リネット、お前が何故ここにいるんだ!? もうお前はこの家とは無関係なんだから、さっさと出て行きなさい!」


 私の姿を捉えるや否や、怒鳴りつけるお父様。

 文句を言われるだろうな、っとは思っていたけど、お父様はどこまでもテンプレ通りな人ですね。言っておきますけど、こうして無事にアレンを招き入れることが出来たのは、私のおかげですからね!?


「お姉様……昨日、お見送りに行きたいって言った私のお願いを聞いてくれずに怒鳴りつけたのに……まだ私を虐めるつもりなんですね……!」


 アレンの前で可哀想な自分を演出したいからか、これみよがしに、私に虐められたアピールをするウル。


「私、怒鳴ってなんか……」


「嘘! 私がお姉様と仲良くしたい、最後に仲直りしたいって言ったら、『くだらない』って、『私よりも皆に愛される可愛い妹なんて大嫌い』って言ったじゃない!」


 脚色が酷い! 誰もそんな話していませんけど!?


「私は……どれだけお姉様に虐められても、お姉様のことが大好きなのに……」


 本当は少しも悲しくないクセに、そうやって涙を流せるなんて、まるで役者みたい。


「アレン殿下、お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ございません。このリネットは、可愛い妹に嫉妬して虐めをするような意地悪な姉でして、丁度、今日、修道院に送ろうとしていたところだったんです」


「同じ娘なのに、姉がこれだけ不出来なんて、お恥ずかしい話ですわ」


 いつものようにウルの話を鵜呑みにして、私を非難するお父様とお義母様。


 やっぱり戻ってくるんじゃなかった。こんな風に、家族に蔑ろにされている姿をアレンに見られたくなかった。


(アレンの顔を見るのが怖い。アレンまで、妹の話を信じて冷たくされたら……)


 大切な学生時代の思い出だけは、綺麗なまま残しておきたかったのに、それすら失われると思ったら、酷く、胸が痛んだ。


「リネット、お前はもう私達の娘じゃない。二度とこの家に戻ってくることは許さん。分かったな?」


「……はい、分かりました」


 私だって、こんな家族の元に戻って来る気は無い。

 私を利用して自分を可哀想な妹に仕立てた妹も、それを鵜呑みにして、私の話を一切聞いてくれなかったお父様もお義母様も、婚約者だったクリフ様も、皆――大嫌い。一生、恨んであげる。


 そのまま応接室を出ようとした私の腕を、アレンはすぐに掴んだ。


「待って下さい、リネット、俺の話が終わっていませんよ?」

「え……でも」


 家族の中でこんな扱いをされている私を見ても、まだ話を聞いて欲しいの? 私はもう、メルランディア子爵家とは無関係になるのに。


「俺は、リネットに用があるので」

「私に?」


「あ……の、まさかアレン殿下は、リネットと顔見知りなんでしょうか?」


 私とアレンが会話をしているのを見て、驚いたように声をかけるお父様。その隣では、お義母様もウルも同じように驚いた表情を浮かべていた。


「ええ、学生時代のクラスメイトですから」


「クラスメイト!? リネットとアレン殿下が!?」


「知らないんですか? 俺とリネットは同じ、ラングシャル帝国で一番の難関校《トルターン学校》の出身です」


「トルターン学校!? リネットが!?」


 私に興味の無いお父様。

 私が学生時代、どこの学校に通って、誰とクラスメイトで、誰と仲が良くて、どんな成績で、どんな風に過ごしていたのか、何も知らないんでしょうね。


「リネットはとても優秀で、常に学年二位の順位を取っていましたよ」


「……一度だけ、アレンに勝って一位になりましたけど?」


「入学して最初の一度だけでしょう? それ以降は、全て俺が勝ちました」


 そう、悔しいけど、学生時代どれだけ頑張っても、最後までアレンに勝つことが出来なかった。寝る間も惜しんで頑張ったのに!

 向こうは私をどう思っていたか知らないけど、私は勝手にアレンのことをライバル認定していた。


「リネット! アレン殿下を呼び捨てにするなんて……!」


 おっと、確かにお父様の指摘通り、学生時代の名残で名前で呼んでしまってましたね。トルターン学校では、身分関係なく学生生活を送ると校則で記されていたので、甘えていました。本来、皇子であるアレンを呼び捨てにするなんて、以ての外だ。


「失礼しました、アレン殿下」


「リネットに改められると悪寒がするので、止めて下さい」


 言い方は悪いけど、そのまま名前を呼ぶことを許す、と、言っているんだろう。

 アレンの意図はお父様には伝わったようで、親密そうな私達の様子に、顔色を真っ青に染めていた。


「可哀想なアレン殿下……! お姉様の我儘に振り回されているんですね」


 何も分かっていない妹が一人。場が乱れるので、喋らないで欲しい。


「リネットの同席を認めてもらえますよね? それとも、何か異論がありますか?」


「い、いえ、ありません」


 権力に恐ろしいほど弱いお父様。まぁ、皇子様が目の前に現れたら仕方ないですよね。

 第三皇子とはいえ、アレンはラングシャル帝国の要である、帝国騎士団の上に立つことが在学中から決まっていた。

 国民を魔物などの脅威から守る役目を帝国騎士団は、この国では大きな役割を待ち、上昇志向の強い貴族令息・令嬢は皆、帝国騎士団を目指すとされている。


「帝国の騎士団を統べる存在だなんて、流石はアレン殿下、凄いです、格好良い……!」


 熱い視線をアレンに送るウル。

 妹が格好良い男性や権力のある人に夢中になるのは昔からだけど、今の貴女は、クリフ様という婚約者がいる身なのを忘れてない?



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