43話 永遠のライバル
「最近は骨のある魔法使いがおらず退屈しておったから、リネットのような魔法使いがおって久しぶりに腕が鳴ったわ。また気が向いたら何時でもおいで。喜んで迎えよう」
「はい……! 是非、お邪魔させて下さい」
魔法使いと魔女は、互いに切磋琢磨し合う、永遠のライバルだ。あの混沌の魔女にライバルだと認められたのなら、素直に嬉しい。
――――その後、ルルラシカ公爵邸に戻ったセリエ様は、父親であるルルラシカ公爵様に思いの丈をぶつけ、見事、結婚の取りやめと魔女になることを許された。
聞くところによると、ルルラシカ公爵様は、婚約者がセリエ様の意志を無視して家に入れと言っていることを知らず、『必ず幸せにすると誓ったからこそ結婚を許したんだ!』と、婚約者に直接文句を言いに行ったとか。
今は、魔女になるべく混沌の魔女の元に向かうセリエ様を応援しつつ、でも娘の結婚は諦めていないそうで、隙あらば縁談の話をする生活を送っているそう。まぁ、もう無理矢理婚約を結ばせるようなことはしないだろうし、セリエ様も、今度はちゃんと自分で断れるだろう。
一件落着、全てが円満に解決し、私達はまた、いつもの日常に戻った。
「おい! 僕の呪いはいつ解けるんだ!?」
おっと、そう言えばクリフ様のことをすっかり忘れていました。呪い、ありましたね、私の忠告を聞かずに一人だけ嘘をつけない呪いにかかってしまったおまぬけなクリフ様。
雑務の仕事を抜けてきたのか、クリフ様は任務から戻ってきた私の姿を見つけるなり、詰め寄った。
「混沌の魔女によると、時間の経過で解けるそうです。これ、ムグスケ洞窟を出る時にも伝えましたよね?」
「だから、それがいつだと聞いてるんだ!?」
「私に聞かれても知りませんよ」
クリフ様の呪いは思っていたよりも強力なもので、混沌の魔女でも解けない呪いだった。
『放っておけばその内解けるじゃろう、それまで、その余計な口は閉じておいたらいい』と、冷たく言い放ったおばさんの表情が忘れられない。セリエ様に対する酷い態度が許せなかったんだろうな……
「どいつもこいつも役に立たないな!」
役に立っていないのは、どちらかというとクリフ様の方だと思いますけどね!
「クリフ様、全く反省されていないようですが、そのままだといつまで経っても処罰が解かれることはありませんよ」
今回、功績を先走って独断行動し足を引っ張たクリフ様の処罰が撤回されるはずもなく、クリフ様は未だに任務に出られず、雑用仕事のみ。
「五月蠅い! どうして僕がこんな目に……!」
おばあさんの言う通り剣の腕は悪くないのに、性格に難あり過ぎ。もう少し真っ当な性格してれば、良い騎士になれたかもしれないのに。
「事務仕事が出来なくて皆さんの足を引っ張っているそうじゃないですか。この機会ですから、きちんと覚えたらいかがですか? 家門の運営にも役に立ちますよ」
「僕がそんなことをする必要がない!」
「え? ウルと結婚したら、クリフ様が家のことをするんじゃないんですか?」
それとも、誰か頼りになる親戚か誰かにお任せするつもり? 私が婚約者の時は私に任せる気満々だったから、そんな頼れる相手がいるとは知らなかったけど。
因みに、私とアレンは半分ずつ分配して家のことをすることで話がまとまっている。
「何を馬鹿なことを、全てウルに任せるに決まってるだろ」
「いや、無理だと思いますよ」
「はぁ? 何を馬鹿なことを言ってるんだ」
「だってウルは、何も出来ない子ですから」
ラングシャル帝国の貴族として学び働く義務があるのに、ウルは何一つ、学ぶことをしてこなかった。
「そんなわけないだろ! 本当は君がしなければならないメルランディア子爵家の手伝いをウルに全て押し付けていたのは知っているんだぞ!」
「事実無根です、それどころか、途中からメルランディア子爵夫人も私に全て押し付けていましたから、実質私一人でやっていました」
「そんな……僕は信じないぞ! 証拠はあるのか!?」
「証拠はありませんね」
私に仕事を押し付けているのが世間にバレるのが嫌だからか、お義母様から自分の痕跡を残すなと口酸っぱく言われていたので、名前を記入する欄などは全て空白にしていた。だから、私がメルランディア子爵家の運営をしていた明確な証拠はない。
「ほら見ろ! 嘘つきは君だ!」
「そうですか、それで結構ですよ」
別にクリフ様に信じて頂きたいとは思わない。勝手にウルを信じて、勝手に後悔すればいい。私はもう、貴方に未練なんてこれっぽちもないんだから。
「クリフ様、私と婚約破棄して下さってありがとうございました。クリフ様なんかと結婚しなくて、私、幸せです。おかげさまで、クリフ様よりも素敵で、お互いを尊重し合える素晴らしい方と婚約出来ました。自由に生きることが出来て、まるで人生をやり直しているように幸せです」
嫌味たっぷりで本心を告げると、クリフ様の顔はタコみたいに真っ赤に染まった。
いつも馬鹿にされているんですから、これくらいいいでしょう? 私、意地悪姉ですしね。
私はそのまま、悔しそうにその場に立ち尽くすクリフ様を置き去りにして、魔法使いの棟に足を進めた。




