23話 ウルと再会
◇◇◇
「コット兄さんと会って下さりありがとうございました、リネット」
「こちらこそ、凄く優しくて……素敵なお兄様ですね」
「ええ、自慢の兄です」
コット殿下と別れた私とアレンは、帝国騎士団の任務に向かうために会場となる大ホールへ向かった。
もうパーティーが始まる時刻は迫っていて、窓から見えるシルマニア宮の入り口には、既に持ち場に配置されている騎士や魔法使いの姿が見えた。
招待客も続々と集まって来ているようで、大ホールに近付くほど人が増えた。
「リネットには事前に説明した通り、それぞれ配置されている帝国騎士団の補佐に回ってもらいますので、そのつもりでお願いします」
「分かりました」
仕事モードに入り、集中しようとした矢先だった。
「あ、お姉様ぁ!」
耳につく不愉快な甘えた声。
「会えて良かったぁ、私、お姉様に会えるのを楽しみにしていたんだよぉ」
「……ウル」
大ホールに一歩足を踏み入れた私は、早速、ウルに声をかけられた。なんてタイミング、まるで待ち伏せされていたみたい。
「アレン殿下も、お久しぶりですぅ。私、すっごくアレン殿下に会いたかったんですよぉ」
「……どうも」
「やっぱり、アレン殿下も私と同じ気持ちだったんですねぇ!」
アレンは少しも同意してないけどね。どこをどう捉えたら、そう受け取れるのかが謎です。
ウルの近くにはお父様とお義母様の姿もあって、私を親の敵でも見るみたいに、睨み付けていた。
「何か用? 私、忙しいんだけど」
「忙しい? やだ、お姉様ったら、折角のパーティーなのに出席させてもらえないの!? えー、可哀想」
……うん、やっぱり馬鹿なのね。
「帝国騎士団の任務が可哀想? ラングシャル帝国で最も誇り高き仕事を? それは、正気で言ってるの?」
帝国騎士団は、貴族にとって最も憧れる働き場だ。
親や婚約者、親族は、帝国騎士団で働く息子、娘、夫、妻は家の誇りであり、こういったパーティーの場で姿を現わせば、強い優越感を味わえる。それを可哀想だなんて、神経を疑う。
「恥ずかしいから、もう少し常識を学んだ方が良いよウル」
「ひ、酷い……! やっぱりお姉様はそうやって、私を虐めるのね……」
私の言葉に、まるで周りにアピールするように大粒の涙を流して悲しむウル。
「リネット! いい加減にしなさい! 家を勘当されてまで妹を虐めるなんて、どれだけ最低で意地悪な姉なの!」
「そうだ! やっぱりお前なんかが帝国騎士団の魔法使いなのも、アレン殿下の婚約者なのも、全てがおかしいんだ! お前はアレン殿下に相応しくない! 帝国騎士団も今すぐ辞めろ!」
お義母様とお父様も、ここぞとばかりにウルに追随する。
勝手に皇子の婚約者に相応しくない、とか、帝国騎士団を辞めろ、とか、一体、どの立場でものを言ってるんだか。もう私とは何の関係も無い赤の他人のクセに。
正常に物事を判断出来ないなんて、娘可愛さもここまでくると病気ね。
私はここまでの暴言なんて慣れたもので、黙って受け流していたんだけど、アレンはそうはいかなかったみたい。
「メルランディア子爵、夫人――俺の婚約者に向かって酷い言いようですね。誰が、俺の婚約者に相応しくないと? 帝国騎士団を辞めろ、と?」
アレンが怒っているのは、明白だった。
「い、いえ、私達は、アレン殿下を想って……!」
「実力で帝国騎士団の魔法使いになった彼女に、辞めろという権利が貴方達にあるとでも? 俺の婚約者を判断する資格があるとでも?」
「そ、それは」
「リネットはもうメルランディア子爵家の人間ではありません。コトアリカ伯爵令嬢であり、俺の婚約者です。彼女を傷付けることは許しません、言葉を謹んで下さい」
私の腰を抱き寄せ、親密さを見せつけるアレン。
三人には効果的だったようで、見事に眉間に皺が寄っていた。
「で、でも! 私に酷いことを言ったのは事実じゃないですか! 私、とっても傷付いたんです! アレン殿下も、お姉様が酷いって思いませんか?」
「常識を学んだ方が良いと言ったことですか? その通りじゃありませんか」
「――へ?」
「リネットは何も間違ったことは言っていません。口の利き方からお勉強された方がいいのでは? リネットはもう貴女の姉ではありませんし、俺の婚約者なんですから」
普段、帝国騎士団内でも口の利き方をあまり気にしない私だけど、そうだね、ウルには改めてもらおうかな。伯爵令嬢であり、第三皇子の婚約者である、私の口の利き方。
「……っ」
悔しそうに顔を真っ赤にして黙り込むウル。
良かったね、ウルが望み通り、意地悪な姉に虐められる可哀想な妹になれたじゃない。まぁ、ウルが思い描くような可哀想って皆に優しくされるものじゃなくて、本当に惨めで可哀想な妹になったけど。いい気味。
「アレン、もう行きましょう」
これ以上こんなくだらないことで時間を潰すわけにはいかない。私達はこんな人達に構っているほど、暇じゃないんだから。
そのまま立ち尽くしている三人を無視して、私とアレンは大ホールを進んだ。