21話 馬鹿なウル
「招待状の返信はある程度終わりましたか?」
「はい、殆どを欠席で返信しましたが……良かったんですか?」
「構いませんよ、俺が帝国騎士団を選んだ理由の一つが、煩わしい社交活動をしなくて済むことですからね」
ここでも帝国騎士団の肩書きは凄くて、『仕事が忙しい』の名目で、お茶会やパーティの誘いを断ることが可能だった。帝国騎士団の仕事は大切だし、一刻を争うものあるので、参加出来なくても仕方ない、というのが認識なのだろう。
アレンに聞いたら、アレンも同じように理由を付けて殆どのパーティを欠席しているみたいで、ウルと違ってパーティーとか賑やかな場所が苦手な私は、一気に肩の荷が下りた。
メルランディア子爵家にいた頃は、お父様の教育方針の名のウルとの差別の一つとして、社交活動を制限されていたけど、実は私にとって、願ったり叶ったりだったんだよね。
「ですが、今度《シルマニア宮》で開かれるパーティーには、帝国騎士団として参加しなくてはなりません」
「シルマニア宮……第二皇子主催のものですか?」
シルマニア宮は、ラングシャル帝国第二皇子である、アレンのお兄様《コット殿下》が住まう宮だ。
「ええ、リネットにも参加して頂くつもりなので、準備していて下さい」
「分かりました」
「……パーティーにはメルランディア子爵家も参加すると思いますが、大丈夫ですか?」
皇族の護衛は、帝国騎士団として避けて通れない重要な仕事だ。
だからこそ、またウル達に会うことになる、と、ずっと前から覚悟していた。賑やかな場所が好きなウルが、皇族主催のパーティに参加しないワケがない。
「大丈夫ですよ。私にはもう関係のない人達ですし……それに、私にはアレンがいますから」
ウルに呼び出されて会うのは御免だけど、仕事としてなら割り切れるし、今の私には、私を信じて見守ってくれる人がいる。
私を信じて見守ってくれる存在がいることが、こんなに心強いものだと思わなかった。
「リネットにそう思われているなら、光栄です」
こんな台詞一つで、とても嬉しそうに微笑んでくれるから、こっちが照れてしまう。
「メルランディア子爵家ですが、リネットを勘当したことが知れ渡り、『優秀な娘を溝に捨てた愚かな家』と社交界で馬鹿にされているようですよ」
「そうなんですか?」
私を悪者にすることで、家を追い出す口実を作っていたお父様達。
妹を虐め、階段まで突き落とした意地悪な姉から可哀想な妹を守るために勘当して修道院に送るはずだったのに、そんな意地悪な姉は、ラングシャル帝国の第三皇子と婚約し、帝国騎士団にまで入隊した。
「貴族によっては、可哀想な妹より、意地悪でも優秀な姉の方を擁護するべきだった、と、言っている者もいます」
優秀な人材を重要視する貴族からすれば、帝国騎士団に入隊して皇族に見初められた私は、例え意地悪姉だとしても、自分達なら絶対に手放さない自慢の娘になるのでしょう。
いや、私は妹を虐めてなんていませんけどね!
「まだ社交界では、リネットが意地悪な姉と誤解されているようですが、騎士の間では、『リネットが妹を虐めるとは思えない』っと、噂が払拭されつつあります。きっとリネットなら、いつか完璧に汚名を晴らすことが出来るでしょう」
「……はい、そうなれば嬉しいです」
弱き者を救う正義の騎士だからこそ、妹を虐めるような意地悪姉を許せなかったのでしょう。
騎士の中には、噂話を信じて冷たい態度を取ってしまったことを直接、謝罪してくれた人達もいて、私を信じてくれるようになったことが嬉しかった。
「俺としては、少しは頼って欲しかったところではありますが」
「え?」
「リネットをますます好きになりました」
「も、もう、アレン……!」
「リネットはすぐに照れてしまうところが可愛いですね」
「か、からかうのは止めて下さい!」
「本心ですよ」
涼しい顔で甘い言葉を紡ぐアレン。
うう、こうやって言われたら、いつも何も言えなくなって、負けてしまう。
「安心して下さい、リネット。貴女はもうメルランディア子爵家の意地悪姉ではありません。俺の婚約者であり、帝国騎士団の一員です。俺が支えるので、貴女は貴女が思うように、好きに生きて下さい」
「……はい、分かりました」
――ウルは、自分が一番可愛い。
特に、今まで思い通りに自分の引き立て役だった私が、ウルよりも注目されていることに、クリフ様よりも良い結婚相手を見つけたことに、強い苛立ちを感じているのだろう。
きっと、また私をいつものように利用する気でいる。
でも、誤解しないで。今の私は、ウルに都合のいいように扱われていた私じゃない。
あの頃の私は、クリフ様との結婚のためにメルランディア子爵家に無意識にしがみついていただけで、今の私は、もうウルの自分本位なお芝居に巻き込まれる必要がないの。
(私に勝てる気でいるなんて、馬鹿なウル)
また好きなように私を陥れようとすればいい。
今度はウルの望み通り、意地悪姉として徹底的に虐めてあげるから――
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