20話 婚約発表
◇◇◇◇◇
――暫くして、アレンと私の婚約発表は、予定通りに行われた。
ラングシャル帝国第三皇子であり、帝国騎士団魔法使い隊長アレンの婚約は、瞬く間に、ラングシャル帝国中を駆け巡った。
そのアレンの婚約者が私なんかだったら、帝国中から反発が出る! と、身構えていたけど、帝国騎士団の魔法使いの称号は大きく、伯爵令嬢の地位も手伝って、予想外に好意的に受け取られた。今まで私に見向きもしなかった貴族からパーティやお茶会の招待状も山のように届くようになり、私室に届いた手紙の量を見て、肩を落とした。
(これを全部読むのに、どれくらい時間かかるんだろ……)
好意的に受け止められたのを喜ぶべきなのに、素直に喜べない。原因の一環は、単純に時間がかかることへの辟易と、望まない人達からの便りだろう。
「《グイルグ子爵》……あれだけ私をウルを虐めた意地悪姉と罵っておきながら、よく招待状が出せますね」
この人のことはよく覚えてる。
普段、社交界に出ない私がウルの一声で出席することになったパーティ。嫌な予感はしていたけど、そのパーティでグイルグ子爵は、大きな声で私を罵倒してお腹を蹴り付けた。
尤も、隠れて防御魔法を使ってたから痛くは無かったけど、魔法をぶっぱなさなかったことを褒めて欲しい。
(どうせウルが仕組んだんでしょうけど)
お腹を押さえて倒れ込んでいる私を見て、ご満悦そうなウルの顔を思い出したら、余計に苛苛してきた。
「欠席します。忙しいので、これから先も出席することはないでしょう、と」
暗に、『お前のパーティに参加する気はないから、二度と送って来るな』と、書いた。
「アレンの婚約者になったからって擦り寄られても、誰が相手にするか」
まさに、寝言は寝て言え、だ。
その後も招待状や手紙の選別をしていると、より一層、不快な文字が目に付いた。
差出人を見なくても分かる特徴的な丸い文字。
「ウル……」
可愛らしいピンクの封筒に入った封筒の宛名には、『親愛なるお姉様へ』と書かれていた。
読みたくない、が、正直な気持ちだが、読まないのは読まないで動向が確認出来なくて怖い気もする。読まずに捨てようかギリギリまで迷ったけど、封を切った。
『親愛なるお姉様
お姉様、お元気ですか? 私は、お姉様がいなくなって毎日寂しくて泣いて過ごしてるの。
お姉様には、私の大切な物を壊されたり、大きな声で怒鳴られたり、階段から突き落とされたり、沢山酷いことをされたけど……私は、今でもお姉様と仲良しの姉妹になりたい、って、心から思ってるよ。
仲直りの意味を込めて、可愛い妹の顔を見に一度帰ってきてくれると嬉しいなぁ』
「…………」
言葉を無くすとは、この事か。
私を追い出したのはそっちなのに、帰って来て欲しい? 仲良しの姉妹になりたい? 誰が可愛い妹? 馬鹿にするのも大概にして。どうせ、私が帝国騎士団に入って、アレンと正式に婚約したのが気に食わないだけでしょ。
引き立て役だった私が、自分よりも目立って注目されるのが嫌なだけ。自分の方が特別じゃないのが、可愛がられていないのが、嫌なだけ。
こんな下らない内容なら、読むんじゃなかった。
「もう家族の縁を切り他人になりましたので、その家を訪れることは一生ありません、と」
迷うこと無く筆を走らせ、新しくなったリネット=コトアリカの名前を添えて返信する。
「リネット、そろそろ休憩しませんか?」
「アレン」
扉をノックして部屋に入って来たアレンは、机に置いていたウルの手紙に気付くと、呆れた表情で手に取った。
「妹からの手紙ですか?」
「はい、とても、くだらない内容でした」
「中を見ても?」
「どうぞ」
もうこんな時間か、と、時計を見て確認する。
折角のお休みだったけど、手紙と招待状の返事だけでお昼を大幅に回ってしまった。
「頭の悪そうな内容ですね」
「気が合いますね、私も同じことを思っていました」
本日のお休みは、アレンと一緒。
どうやらアレンは、私と一緒に昼食を食べようと待っていたようで、『言ってくれれば早く切り上げたのに』っと不満を口にしたら、『貴女を待つ時間も好きなので』と返された。そう言われれば何も言えなくて、黙るしかない。
ラロッカ宮のダイニングルーム――
(今日も相変わらず美味しそう)
ここでお世話になってから毎回出て来る豪華な食事に、いつも感動してしまう。
「リネットはいつも美味しそうに食べますね」
「だって本当に美味しいんですから、仕方ないじゃないですか」
メルランディア子爵家では何かとウルと差別されていたけど、食事でも同様に差別されていた。流石に腐ったパンとかは出てこなかったけど、酷い時には、妹を虐めた罰だ! って、食事抜きにされたこともあった。
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