17話 サイラス様と任務
◇◇◇
私の初任務は、近隣の公道に出没している魔物の確認と退治だ。
場所的にも遠くないし、魔物が出没していると情報があっただけの、まだ被害も出ていない魔物の任務は、新人に任せるには丁度良いと判断されたんだろう。
アレンが私に任務を任せてくれたのは、素直に嬉しかった。嬉しかったけど――
「おい、いつ帝国騎士団を辞めるんだ!? いつまでも未練がましくしがみつくな! こっちは迷惑してるんだぞ!」
――やっぱり、サイラス様と一緒じゃない方が良かった。
もう、五月蝿い! 何なの、少しは黙って歩けないの? 喋ってないと死んじゃう病気なの!? 最初にサイラス様に絡まれて以降、顔を見る度にウザ絡みされているから、本当に飽き飽きしてるんだけど!
「アレン殿下だって一時の感情でお前に騙されているだけだ! アレン殿下はお前なんかには勿体ないほど、優秀で素晴らしい人なんだぞ!」
アレンを認めてくれるのは嬉しいけど、余計なお世話です! 私だって、私なんかがアレンの婚約者でいいのかって、未だに思ってます!
「あの、私とクリフ様が婚約破棄した後、妹はクリフ様と新しく婚約を結び直したんですよ? その後に私が妹からアレンを奪ったなんて、辻褄が合わないとは思わないんですか?」
普通に考えて、ウルが二股してた最低な女ってことにならない? いや、そもそもアレンとウルは初対面でしたけど。
「五月蝿い! 俺はお前みたいな最低女の言い訳には惑わされないぞ!」
やっばり駄目か。無駄だとは思いつつ、何度か誤解が解けないか説得を試みてみたけど、見事に全敗だもんね。
「……サイラス様が私を嫌いなのは充分伝わりました。ですが、今は帝国騎士団の任務中です。任務を失敗するわけにはいかないことは分かりますよね?」
「当たり前だろ! 馬鹿にすんな! 俺はワードナ侯爵家の長男だぞ!」
「わー、凄いですね、安心しました。では、我慢してお付き合い下さい」
もうこうなったら、いち早く任務を終わらせよう。それしかない。
「お前に指図されるまでもないわ!」
まだ文句は言い足りなさそうだったけど、任務に対しての責任感は一応お持ちのようで、そこからは真面目に魔物の捜索を始めた。
「おい、さっさとしろよ!」
「わ、分かってます」
帝国騎士団の騎士なだけあって、体力はピカ一。公道から離れた足場の悪い道でもスタスタと進んでいく。それに比べ、学校を卒業して七年、実践からほぼ遠いところで暮らしていた私に体力はない。
「魔物の目撃証言があったのは、ここら辺か」
「はぁっはぁっ」
私と違って息一つ切らさずに余裕そうにしてるところがムカつく。
木々に囲まれた幾つも穴が開いている凹凸のある足場の悪い地面。パッと見た感じ、何か異常があるようには見えなかった。
「何もありませんね」
動物の影を魔物と間違えたりと、情報が間違っているのはよくあることだ。だから私は、今回も情報が間違っているんだと思った。
油断していた。
「おい、馬鹿!」
「きゃあ!」
目の前に飛んできた物体にぶつかる前に、サイラス様が手を引いてくれたから避けることが出来た。
「ボケっとすんな」
「ご、ごめんなさい」
「魔物だな」
卵ほどの大きさしかない羽の生えた小さな魔物が、地面の穴の中から大量に出て来た。
「お前、戦えるんだよな?」
「……戦えます」
魔物が目の前に現れたことで、意識がハッキリした。
「助けて頂いてありがとうござます、サイラス様。足手まといにならないよう――――最善を尽くします」
遠慮なく、全ての魔物を殲滅する。
無詠唱で魔法を唱えて次々に魔物を退治していく私の姿に、サイラス様は隠れて息を飲んだ。
――魔物と遭遇して二時間。
数が多くて時間がかかってしまったが、魔物自体の実力は大したことは無く、全てを殲滅し終えた私とサイラス様は、同時に、剣と魔法をしまった。
(つ、疲れた!)
一匹一匹が大したことなくても、この数は二人で対処するやつじゃない!
体力に自信があるサイラス様も流石に疲れたようで、息が上がっていた。
「! サイラス様、怪我したんですか?」
ふと、サイラス様の腕から血が流れていることに気付いた。
「ああ? 別にこれくらい、かすり傷だ」
そうは言ってもダラダラ血が流れているし、私から見たら全然かすり傷に見えない。
「……もしかして、私を庇った時ですか?」
もしそうなら、ずっと、怪我を負って戦っていたことになる。
「私のことがお嫌いなのに、助けて下さったんですね」
「仕方ねーだろ! 俺だって助けたくなかったけど、新人に怪我させたら俺の責任になるんだよ!」
「仕事としてでも、助けて下さってありがとうございました、サイラス様」
口は悪いし五月蠅いし噂話を鵜呑みにして私を責めてくるしで大の苦手だったけど、一緒に戦って実力は本物だと分かったし、私のことが嫌いなのに助けてくれた。
どれだけ嫌いな相手だとしても、仕事と割り切って助け合うことが出来る人だと分かったので、ほんの少しだけ、苦手が薄まった。
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