16話 初任務
◇◇◇
「――リネット、予定より少し早いですが、帝国騎士団の任務をお任せしてもいいですか?」
帝国騎士団に入隊して更に数週間が経った頃、いつものように新人の仕事をこなしていた私は、唐突に告げられたアレンの言葉に、動きが止まった。
「おー、早いね、流石は優秀で可愛いリネットちゃん」
部屋にはマルチダ先輩の姿もあって、マルチダ先輩は手を叩いて、(可愛いは関係ないと思うけど!)私を褒めた。
「帝国騎士団の任務……ですか? 私が?」
「そんなに難しいことではありません、最近、近隣の公道近くに魔物が出没しているとの情報があったので、情報の確認と、実在すれば退治を――」
「やります!」
アレンが最後まで言い切る前に大きく手を上げて承諾する。
「では、お任せします」
「はい、頑張ります!」
「やる気満々ね、リネットちゃん」
それもそのはず、私が雑務以外の仕事を任されるのは、これが初めて。任務を任されるのは帝国騎士団の一員として認めてもらった証なので、張り切らないワケがない!
「ああ、一人同行者がいるので、その方と一緒に向かって下さい」
「同行者?」
「ええ、帝国騎士団では滅多に単独行動はさせません」
――帝国騎士団では、基本は二人以上でパーティーで組み、複数行動で任務を行う。
理由は様々だが、一番の理由は単純に生存確率の上昇だろう。一人よりも二人の方が、何か問題があった時の対処がスムーズに行える。それ以外にも、任務によっての特性で組まれたパーティーだったり、今回のように、新人に付き添うためという理由もある。
「同行者はどなたですか?」
私も一人は不安だし、誰かと一緒なら心強い。
「騎士のサイラスです」
前言撤回、一人で行きたい!
「…………そうですか」
同行者を変更して欲しい、と、喉まで言葉が出て来たが、飲み込んだ。
考えてみれば、魔法使いと騎士でパーティーを組まされるのが通常だし、クリフ様と組まされるよりは遥かにマシ。それに、他の誰と組んでも、私と一緒は嫌だろうな、と思うと、口をつぐむしかなかった。
(仕事だしね)
好き嫌いで仕事相手を選ぶのは、私のポリシーにも反する。
相手でも誰でも真面目に働いてくれるなら、どれだけ苦手な相手でも、仕事相手として割り切ります!
「早速ですが、今から向かって頂けますか?」
「はい、分かりました。では、行って参ります」
なんにせよ、私の初めての任務で失敗は許されません! 精一杯、頑張ります!
◆◆◆
「……アレン隊長、リネットちゃんをサイラス様と一緒に行かせて良かったんですか?」
リネットが部屋から出て行った後、マルチダは睨み付けるように俺に尋ねた。
「何がですか?」
「白々しい、知っていますよね? サイラス様がリネットちゃんに酷いこと言ってるの」
『リネットは可愛くて優しい誰からも愛される妹に嫉妬し、階段から突き落としたことが引き金でメルランディア子爵家を勘当された』と、帝国騎士団の中で噂になっているのは知っていた。噂話に尾びれが付き、俺の婚約者の座を妹から奪ったことになっているのには、流石に呆れ果てた。
実際は、俺が長年の片思いからリネットに求婚したというのに。
「私達はリネットちゃんがそんなことする子じゃないって分かってますけど、騎士は違いますよ。リネットちゃんは言わないけど、ずっと、無視されてるんです」
一度、マルチダが『騎士の棟に行くのを代わろうか?』と、聞いたが、リネットは『大丈夫です』と断ったらしい。
戻る度に平然を装っているが、リネットが傷付いているのは明白だった。
「それなのにアレン隊長は何もしないし、挙げ句、サイラス様とパーティーを組ませるし、何考えてるんですか? 幾らアレン隊長でも、リネットちゃんを蔑ろにするなら許しませんよ!」
「リネットを大切に思ってくれているんですね」
「勿論ですわ! リネットちゃん、超絶的に可愛いんですもの! 私だけじゃなくて、魔法使いの皆、リネットちゃんが大好きなんですよ!」
帝国騎士団の魔法使いは、真面目に仕事に取り組み、努力家で優しいリネットのことをあっという間に好きになっていた。だからこそ、リネットに対する騎士の不当な扱いが許せないのだろう。
「俺が手を出すことは出来ますが、それをしても根本的な解決にはならないでしょう」
「どういう意味ですか?」
第三皇子であり、帝国騎士団魔法使い隊長である俺なら、やろうと思えば、サイラスを帝国騎士団から除隊することも出来る。表だって俺が守ることで、リネットを攻撃する者はいなくなるだろう。だが、彼女の評価は変わらない。逆に、俺の権力を使っていると更に非難されるかもしれない。
何より、リネット自身がそれを望まないだろう。
「リネットなら大丈夫ですよ、彼女は、俺が好きになった相手ですから」
「……アレン隊長って、そういうこと平気で言う人だったんですね」
本当は、俺の力で守ってあげたい。
でも、それをしないのは、彼女の意志を尊重するため――俺が、リネットを好きだからだ。
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