14話 騎士団の日常
◇◇◇◇◇
帝国騎士団は、ラングシャル帝国を支える機関であり、この国の要ともいえる。
各地にも騎士団はいるが、手に負えない魔物や侵略者に応じて派遣されたり、災害の救助活動、皇族の護衛、場合によっては他国との戦争にも駆り出されたりと、帝国の指示により活動する。
これだけ聞くと毎日忙しく各地を飛び回っているように聞こえるが、実際は、何もなければ何もない。
今のところ大きな災害は起きてないし、戦争なんてここ何年も起きてない。魔物退治の要請はちょこちょこあるみたいだけど、全員が派遣されるわけではなく、力量や戦いの特性で選ばれた人達のみで向かうから、残された人達は帝国騎士団本部で待機となる。
ただ、待機だからといって何もしないわけではない。
帝国騎士団本部、魔法使いの棟の部屋の机と椅子が並んだ部屋の一室で、慣れ親しんだ書類仕事をこなした私は、先輩に当たる人物に確認の意味で終わった書類を手渡した。
「これでいいですか?」
「うん、完璧よ! ありがとう、リネットちゃん」
帝国騎士団に入隊してから数週間。
新品の帝国騎士団の魔法使いの制服に袖を通し、私は新人として、日々の雑務をこなしていた。
「魔法も凄いし、事務関係の仕事も完璧だし、今までどうしてリネットちゃんみたいな優秀な子が表に出てこなかったのか不思議だわ」
「あ、ありがとう……ございます」
褒められることに慣れていなくて、照れてしまう。
私の頬が赤く染まったのを見た騎士団の《マルチダ》先輩は、口元を緩ませ、笑顔を見せた。
「やぁん、可愛いー! さっすがアレン隊長の心を射止めただけあるわぁ」
「い、射止めた、わけ、では……」
「真っ赤ぁ! ますます可愛い!」
「もう! マルチダ先輩!」
「あははは!」
私とアレンの正式な婚約発表はまだだけど、帝国騎士団の中では入隊試験以降、周知されていて、何度、こんな風にマルチダ先輩にからかわれているか……!
帝国騎士団での仕事は楽しい。
帝国騎士団では爵位の上下関係が薄くて、マルチダ先輩は伯爵令嬢だったが、元子爵令嬢の私にも気さくに話しかけてくれるし、皇子の婚約者だからって、一線を引いたりもしない。
まだ現場には立たせてもらっていないけど、こんな風に気さくに話せる先輩も出来て、まるで学生時代に戻った気分だった。
「ねぇねぇ、アレン隊長って、ちゃんと愛情表現してくれるの? 今までどれだけ女の子に声かけられても塩対応だったから、そんな姿、想像がつかないんだけど!」
「え、えーーっと」
困ったことにハッキリと伝えてくれるんですよね。だから恥ずかしくて、いつも戸惑ってしまうんだけど。
「た、たまには?」
「えー! なんて愛を囁いてくれるの!?」
「な、なんてって……」
あ、あれ? 学生時代も、婚約者だったクリフ様のことを聞かれて普通に答えていたはずなのに、アレンのことになると凄い恥ずかしい! 何で!?
「さ、流石は俺が好きになっただけある、とか、惚れ直してる、とか……」
「何それ! もっと詳しく!」
どこの世界も時代も、女同士で恋バナは花が咲くものだ。夢中で話していたら、部屋の中に誰かが入って来たことにも気付かなかった。
「楽しそうな話をしていますね、リネット」
「あ、アレン!?」
いつからそこに!? てか、どこから聞いてたの!?
隣を振り向くと、さっきまで話していたはずのマルチダ先輩は、いつの間にか、どこかに行ってしまっていた。
マルチダ先輩、逃げましたね!
「俺のことを話していたんですか?」
「は、はい」
本人に聞かれるのが一番恥ずかしい上に、勝手にあれこれ話してしまったことへの罪悪感が……!
「ごめんなさい」
「謝る必要はありません。学生の時も、リネットは婚約者のことを聞かれれば必ず答えていましたからね」
……そう言えば、アレンに聞かれた時も、普通に答えていた気がする。私のことが好きだったのに……どんな気持ちで聞いてたんだろう。
「……ごめんなさい」
「謝る必要はありません、今、リネットが話すのは俺のことですから」
「っ!」
ほら、こうやってハッキリと好意を伝えてくれる。
だから私はいつも恥ずかしくて動揺してるのに、アレンは平然としているから、振り回されている気がして悔しい。
「愛情表現が足りなければ、いつでも言って下さいね?」
「や、やっぱり聞いてたんですね!」
帝国騎士団の魔法使いの皆さんは親切だし優しい。
アレンも私が帝国騎士団で働くことを応援してくれて、誰にも邪魔されることなく、好きなだけ自分がしたいことが出来るのが嬉しかった。
(結局、あれから戻って来たマルチダ先輩にあれこれ聞かれちゃったし……恥ずかし過ぎる!)
まとめた書類を持って魔法使いの棟を抜け、白を基調とした騎士の塔へと進む。
魔法使いの棟と騎士の塔の構造は鏡越しのように同じなので、あまり足を踏み入れたことがなくても迷わずにすむ。
「失礼します、魔法使いでまとめた書類を持って来ました」
新人の仕事は、掃除であったり、日々の必要部品の買い出し、後は、任務で生じた経費等をまとめたりと、事務仕事が主。
中には、騎士と連携して書類を作成することもあって、必要に応じて二つの棟を行き来している。
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