13話 引き立て役のお姉様
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ラングシャル帝国の貴族、《コンダクト侯爵》家で開かれた、とあるパーティ―――
「メルランディア子爵、ノートリダム伯爵と御息女とのご婚約おめでとうございます」
「確か次女の方でしたかしら、おめでたいですわ」
「ありがとうございます」
リネットの父親、義母、妹のウルは、招かれたパーティーで、ウルとクリフの婚約を祝福されていた。
「ノートリダム伯爵と言えば、まだ若いのに亡き父親の跡を継ぎ帝国騎士団の騎士になった優秀な人材だと聞いています。そんなお相手が娘の婚約者だなんて、さぞかし、父親としても鼻が高いでしょう」
「あはは! 私の可愛い娘ウルなら当然のことですよ! 実はここだけの話、まだまだウルには良い縁談の話が来ていたんですが、姉のリネットが邪魔をしましてね」
「ああ、話に聞く意地悪な姉でしたかな。社交界ではお目にかかったことがありませんが」
「あんな娘を連れて来ては、私が恥をかきますよ。何せ、妹を虐めることしか能がありませんでしたからね」
「まぁ、酷いお姉様ですわね」
――皆が皆、お姉様のことを意地悪な姉だと認識する。
「お父様、そんなこと言ったらお姉様が傷付いちゃうから止めてあげて。お姉様は、本当は優しい人なの。きっと、私がどんくさいからお姉様の機嫌を損ねちゃっているだけなの……私が、悪いの……」
だから私は、そんな意地悪な姉のことも庇う、心優しくて可哀想な妹を演じるの。
「まぁ、泣かないで、お可哀想に」
心配そうにハンカチを差し出す夫人。
ああ、こうして皆、私のことを心配してくれて、気持ちいい。
(本当、お姉様ってば、引き立て役になるから大好き)
お父様やお母様は最初から私の味方だったし、信じさせるのは簡単だった。お父様とお母様が後ろ盾になってくれれば、他の人達にも信じさせるのは簡単。だって単純に数で優位だもの。
一人の意見と三人の意見、どちらを信じるかは決まってる。
なのに――――
(どうしてアレン殿下は、信じてくれなかったのかしら)
私達よりも、姉を信じた。
それどころか、可愛い私じゃなくて、勉強しか取り柄が無い姉に婚約を申し込んだ。
(お姉様がある事無いこと吹き込んで、私のことを悪く言ったに決まってるわ)
じゃないと、私じゃなくてお姉様を選ぶはずがない。
家族の中で、リネットがアレン殿下に選ばれたのは、ただの気まぐれであり、本気ではないと結論付けた。きっとクリフ様に捨てられた時のように、いつか惨めに捨てられる。
(いつかアレン殿下も、私の魅力で奪ってあげるね、お姉様)
「まぁ、もうリネットは勘当しましたし、メルランディア子爵家とは無関係――」
「こんな所にいましたか、メルランディア子爵! 御息女のことを聞きましたよ!」
「コンダクト侯爵!」
今日のパーティーの主催者であるコンダクト侯爵が、笑顔でお父様に声を掛けた。
珍しい! パーティーに誘われはするけど、コンダクト侯爵がお父様に気さくに話しかけることなんて、今まで無かったのに。
コンダクト侯爵は力のある貴族だ。とは言っても、純粋な力ではなく、お金の方。コンダクト侯爵家は、商業で地位を確執した。
「いやぁ、素晴らしい! どうでしょう? 私には息子がいるのですが、御息女の結婚相手に選びませんか?」
「コ、コンダクト侯爵のですか!?」
お父様とコンダクト侯爵の会話に、胸が躍る。
コンダクト侯爵には息子が二人いる。どちらの息子かはまだ分からないけど、侯爵令息との結婚だなんて、下手をすればクリフ様よりも条件がいいから、捨てがたい!
クリフ様は帝国騎士団の騎士だし魅力的だけど、私には純粋な爵位の地位も魅力的なんだよね。
お父様も同じように悩んでいるようで、意見を求めるように、私に視線を向けた。
もう、こんなにモテモテで困っちゃうなぁ。
「ああ、そちらのウル嬢のことではありませんよ、ウル嬢はつい先日、ノートリダム伯爵と婚約したと話を聞いていますしね」
――は?
「ウルではないというと……まさか!」
「長女のリネット嬢のことです」
「っ!」
また、お姉様なの!?
「リネット嬢が帝国騎士団に入隊したと聞いて、是非、息子の嫁に欲しいと思いましてな」
「帝国騎士団!? リネットが!?」
「聞いたところによると、魔法使いで歴代二位の好成績で入隊試験を突破したと聞いています。素晴らしいです! 我がコンダクト侯爵家は商才には優れているのですが、剣技と魔法の才には恵まれておらず、優れた魔法使いであるリネット嬢が嫁に来て下されば大変助かります!」
お姉様が……優れた魔法使い? 私じゃなくて、お姉様がいいってこと? あんな冴えなくて、ずっと家で勉強ばっかりしていたようなお姉様が、私よりもいいってこと!?
「あれだけ優秀な娘を今まで隠しておくなんて、メルランディア子爵も人が悪いですね。で、いかがですか? 勿論、家を継ぐ方の息子との結婚を考えています。他にも何か要望がありましたら遠慮なく仰って下さい!」
「いや、えっと、それはですね……」
お父様はまだお姉様の勘当やアレン殿下とのことを誤魔化したりと話を続けていたけど、私の耳にはもう何も届かなかった。
「……お姉様のクセに……!」
意地悪な姉でいることがお姉様に相応しい生き方だったのに、何で、こんなことになるの!? 皇子様の婚約者も、帝国騎士団の魔法使いも、お姉様には相応しくない!
「絶対……許さない!」
お姉様には不幸がお似合いなの、意地悪な姉のままで、ずっと私の引き立て役として生きてよね!




