12話 憧れの帝国騎士団
「お疲れ様でした、リネット」
戦いが終わった私を、アレンは拍手をしながら笑顔で迎えた。
「腕は鈍っていないようですね」
「魔法の勉強はずっと続けていましたから」
花嫁修業の傍ら、卒業後も魔力のコントロールや詠唱の練習、魔法書を漁ったりして魔法の勉強を続けていた。
「アレン殿下……!? どうしてリネットと……」
本来は私のために用意されていた救護班が慌てたようにクリフ様の体を癒していたが、クリフ様は私とアレンが顔見知りなのが不思議で仕方ないのでしょう、治療を受けながらも疑問を口にした。
「俺とリネットはトルターン学校のクラスメイトです」
「トルターン学校……!? リネットが!?」
そこで驚く意味が分からない。私はちゃんとクリフ様にもお伝えしましたよ。お父様といいクリフ様といい、本当に私のことに興味無いんですね。
「敵の力量を見極められないと致命的ですよ、クリフ」
「も、申し訳ありません、アレン殿下」
アレンとクリフは同じ帝国騎士団の仲間で、アレンは魔法使いの隊長とはいえ上司に当たる。アレンの指摘に、クリフは素直に非を認めた。
「そして、リネットは今、俺の婚約者です」
「――は?」
やっぱりウルからは何も聞いてないのね。
鳩が豆鉄砲を食らったように間抜けな顔をしたクリフ様は、交互に、私とアレンを見た。
「婚約……? リネットがアレン殿下と……」
「今後、正式に婚約を発表することになると思うので、その時はしっかりとクリフからもお祝いの言葉を頂きますね」
「か、かしこまりました」
クリフ様にとってアレンは、ラングシャル帝国の第三皇子であり、将来は帝国騎士団の上に立つことも決まっている雲の上の存在。
そう答えるしかないのか、クリフ様は力なく頷いた。
◇◇◇
結果、私は見事、帝国騎士団への入隊が決まった。しかも魔法使い歴代二位の好成績。だけど私は素直に喜べなかった。
「またアレンに勝てなかった……!」
魔法使い一位の成績は、言わずもがなアレンだった。学生時代の万年二位の記憶が蘇ったみたいで悔しい! 筆記試験、一問間違えなければ!
「残念でしたね」
「次は勝ちます」
「楽しみにしていますよ」
結果を報告に来たアレンの涼しい顔がムカつく!
「現状に満足せずに上を目指すところがリネットらしいですね」
過去、帝国騎士団への入隊試験で試験官である帝国騎士を倒した魔法使いはアレンと私だけらしく、私の入隊は騎士団の間でちょっとした騒ぎになったらしい。
「満足なんて出来るわけないじゃないですか、アレンに勝てていないんですから」
「これだけ負けても懲りないなんて、流石は、俺が好きになっただけあります」
「ば、馬鹿にしてるんですか!?」
「まさか、惚れ直しています」
が、学生時代はこんなこと一切言わなかったのに! 心の中ではずっとこんな風に思ってたの!?
「帝国騎士団に入りたかったんでしょう? 夢が叶って良かったですね」
「! どうして……」
私、口に出して言ったこと無いのに……
「貴女を見ていれば分かります」
「……」
クリフ様と結婚して、家に入ることに不満を持っていたわけじゃない。あの頃の私は、クリフ様を支えると決めていた――だけど心のどこかで、外で働くことに憧れを持っていて、憧れの帝国騎士団で働いてみたかった、目指してみたかった。
『結婚したら、リネットにはノートリダム伯爵家の運営を任せる』
『……はい、分かりました、クリフ様』
最初から私に拒否権は無かった。
不満は無かった、だけど、ほんの少しでも、私の気持ちを聞いて欲しかった。
(アレンは……私のことを、ちゃんと見てくれてるのね)
妹に婚約者を奪われ、婚約破棄されて悲しい。悲しいはずなのに……どんどん、悲しみが薄れていく。
「では改めて、帝国騎士団への入隊おめでとうございます、リネット。帝国騎士団は貴女を歓迎しますよ」
「……はい、ありがとうございます」
私のことが好きで、大切にされているのが伝わる。
こんな風に好意を寄せられるのも、大切にされることにも慣れていなくて、くすぐったい。でも決して不快じゃなくて、以前よりもずっと――幸せな気がした。




