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10話 クリフ=ノートリダム

 


「これからリネットには試験を受けて頂くわけですが、貴女は俺の推薦ということになっているので、特別枠で試験を受けることになります」


「……推薦?」


「ええ。本来、この時期は入隊募集をしていませんから、そうなりました」


「聞いていませんけど」


「今、言いました」


「待って下さい! 推薦だなんて、もし落ちたらアレンの顔に泥を塗ることになりませんか!?」


「そうですね、ですから、頑張って下さい」


「遠慮なく落ちろ、とか、言ってたのにですか!?」


「別に落ちても構いませんよ、それはそれで、貴女を慰めることが出来ますから」


 どういう意図? 感情? 全く意味が分からない!


「冗談ですよ、俺は、リネットなら間違いなく帝国騎士団に入隊出来ると思って推薦しました」


「……どうして?」


「リネットを信じていますから」


 信じる……私を? 自分でも受かると思ってない、信じていないのに。


「俺が貴女にどれくらい片思いしていたと思いますか? 俺は貴女をよく見て来ました。どれだけ俺に負けても腐ることなく努力して食らいついてきた貴女なら、この程度の試験問題ありません」


 最難関の帝国騎士団の試験を、この程度? 私を買い被り過ぎじゃない?


 でも――――


「分かりました、全力でアレンの信頼に応えてみせます」


 私を認めて信じてくれたことは、素直に嬉しかった。




 ◇◇◇



 試験自体は決して嫌いじゃない。やったらやった分成果が出るのは嬉しい。


 帝国騎士団の試験は、午前は筆記試験、午後からは実践形式の試験となる。

 アレンは騎士団の仕事に戻ったので、午前の筆記試験を終えた私は、午後からの試験に向けて次の会場となる騎士団の訓練場に向かうために一人で廊下を歩いていた。


「……リネット?」


 そうしたら、帝国騎士団の試験を受けるに当たっての懸念事項が、あちらから近付いてきた。


「クリフ様」


 ここは魔法使いの棟だから騎士のクリフ様とは会わなくてすむと思っていたのに、タイミングが悪いなぁ。きっと魔法使いの棟に用事でもあって足を運んだ途中だったのでしょう。

 元婚約者のクリフ様は、私の姿を見つけるや否や目を丸め、驚いた表情で私を怒鳴りつけた。


「何故、君がここにいる!? ここは帝国騎士団だぞ!?」


「知っていますけど」


「君が易々と足を踏み入れられるような場所じゃないんだ! さっさと出て行け!」


 婚約破棄して捨てた私が急にこんな場所に現れて驚く気持ちは分かりますが、もう少し確認して欲しいものです。


「きちんと許可は頂いています」


 そう言って、私は首にかけている入館証明書をクリフ様に見せた。


「偽物じゃないだろうな!?」


「普通に考えて、帝国騎士団に簡単に侵入出来ると思いますか?」


 出来たとしたら、私は有能過ぎるスパイになります。


 私の言葉に渋々ながら納得されたクリフ様は、それでも私への警戒を解かなかった。


「君は修道院に送られたんじゃなかったのか?」


 ……ああ、あの日、私に何が起きたか知らないのね。プライドの高いウルのことだから、姉の私に負けたと思われるのが嫌だったんでしょう。


「今日は帝国騎士団の試験を受けに来ました」


「――は? 君が?」


 帝国騎士団の入隊希望者が来ていることは知っていても相手が誰かまでは知らなかったのか、クリフ様はとても驚いていた。


「馬鹿な、リネットごときが神聖な騎士団に受かるはずがないだろう」


「どうして、そう思うんですか?」


「帝国騎士団は優れた人間だけが入ることを許されるものだ! 妹を虐め、家では何もせずに自堕落な生活を送っていた君には、誰の推薦か知らないが試験を受けることすらおこがましい! 辞退しろ!」


 自堕落な生活、ね。誰が私をそんな風に紹介したのか聞かなくても分かる。私の話を聞かず、ウルの話だけを鵜呑みにするクリフ様。

 本当の私のことなんて何一つ知らない、知ろうともしなかった元婚約者様。


「辞退しません、試験は受けます」

「なっ」


 クリフ様が帝国騎士団に所属していたことは当然知っていた。

 婚約破棄した元婚約者と同じ場所で働くことは気まずいし、お互いが好奇の目で見られるかもしれない。

 でも、クリフ様に遠慮して私が帝国騎士団への入隊を諦めるのは、馬鹿らしいと思った。どうして私が今更、貴方を理由で諦めないといけないの?


「恥をかくだけなのが分からないのか!?」


「クリフ様に私の何が分かるというのですか? 私は必ず合格してみせます」


 以前までの私は、クリフ様にこんな風に逆らったことは無かった。でも、今の私には、私を信じて背中を押してくれる婚約者がいる。絶対に譲らない。


「……好きにしろ!」


「ええ、好きにさせて頂きます」


 お互いに止まっていた歩みを進め、視線を合わさずに通り過ぎる。


 婚約者として定期的に面会をしていたつもりだったのに、クリフ様は私のことを何も見ていないし、知ろうともしていなかった。


(会話をしている気になっていたのは私だけ。信頼を築けていたと思っていたのも、私だけ)


 まだ少し悲しみは胸に残るけど、もう涙は流れない。前よりも悲しくないのは、きっと、アレンのおかげだ。



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