表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/57

1話 プロローグ

 



 メルランディア子爵家には、意地悪な姉がいる。


 妹の可愛さに嫉妬し、後妻の娘である妹に家族の邪魔者と罵倒を浴びせ、妹の持ち物を壊し、食事を捨て、見えないところで暴力を振るう意地悪な姉《リネット=メルランディア》。


「あんたなんて、家族の邪魔者なの! この家にはメルランディア子爵家の長女である私がいればいいんだから、消えてよ! 目障りなの!」


 そんな意地悪な姉に虐められながらも、健気に姉を慕う、可哀想な妹の《ウル》。


「ごめんなさい、ごめんなさい、お姉様……! でも私はお姉様と仲良くなりたい、本当の家族になりたいの……!」


「五月蠅い! 私はあんたみたいな出来損ないの妹、いらないわ!」


「きゃあ!」


 ある日、意地悪な姉はついに一線を超え、妹を階段から突き落とした。

 幸い命に別状はなく足を捻った程度だったが、これを見た両親は、流石にこのままにしておくわけにはいかないと、姉を勘当し修道院に送る決意をした。



 ◇◇◇


 遠く離れた場所にひっそりと立つ修道院。

 意地悪な姉と可哀想な妹を持つ両親は、司祭に向かい、涙ながらに家であった出来事を話した。


「私が悪いんです、私はあの子のことも、本当の娘のように接して来たつもりでした。なのに妹のウルにあんな酷いことをするだなんて……」


 涙を流し悲しむ母親を支えるように、父親は肩を抱いた。


「君は悪くないさ、君もウルも、姉のことを本当の家族のように接してくれていた。本当にありがとう。でももう限界だ。まさか妹を階段から突き落とすなんて……」


 このままでは意地悪な姉は、妹に取り返しのつかないことをしてしまう。


「私達は、姉を、リネットを家から勘当しようと思います。リネットを修道院に送りますので、どうか娘をよろしくお願いします」


 深く深く頭を下げ、娘のことを司祭にお願いする両親。


 修道院は、身寄りのない子供や行く宛のない人達を迎え入れる場所だった。中にはリネットのように親に勘当された者もいた。


「分かりました、ですが、一度修道院に入れば、一生をここで過ごすことになり、もう二度と会うことも出来なくなります。それでもよろしいですか?」


「はい、かまいません」

「もう限界なんです。あの子は、リネットはもう、私達の家族ではありません」


 涙を流し悲痛な表情を浮かべる両親の姿は、意地悪な姉から可哀想な妹を守るために、苦渋な決断をしたように見えた。


「分かりました、リネット嬢のことはお任せ下さい」


「ありがとうございます!」

「ああ、感謝しますわ。これで本当の家族だけで平和に暮らせます」


 肩の荷が降りたように喜ぶ両親。



 こうして、メルランディア子爵家からは意地悪な姉がいなくなり、平和が訪れた。


 意地悪な姉に虐められていた可哀想な妹ウルは、長年片思いし、実は両想いだった姉の婚約者である《クリフ》様と婚約を結び直し、優しい両親に祝福され、幸せに暮らしました、とさ。


 めでたしめでたし。



 ――――これが、私の、意地悪な姉リネットの物語。

 妹のウルに婚約者を奪われ、家を追い出され、修道院で残りの生涯を終える。


 か弱い妹を階段から突き落とすような酷い姉に相応しい結末だと、誰もが思うのでしょう。



 私は妹を虐めたことなんて、一度も無いのにね。



誤字脱字報告ありがとうございます。感謝します。

いいね、ブックマーク、評価、読んで下さる皆様、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ