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骸宝戦記録 襲撃編①

実践から一か月後、ウィロウたちのいる学園都市オノグラムに虐殺を行う組織「インプ」の魔の手が忍び寄る。

ここ2,3日続いた大雨が止み久々に日差しが強い中、ウィロウ達一年生は午前の授業を終えて、食堂で昼食を食べ終えたところだ。食堂から出ようと動き出す中、ウィロウが考え事でもしているような表情をしている。

「だいじょうぶ?何か考えているみたいだけど。」

とフリーナが語り掛ける。

「あぁ、悪い。今日見た夢について考えていてな。」

「夢って、変な夢でも見たのか。」

ウィロウの回答に気になったタングが聞いてみる。

「なんか暗闇の中にいて、『気を付けてくれ』って声がしたんだ。その後すぐに目が覚めたから何のことか気になって。」

「ほ、ほんとに!何も起きないといいけど…」

「なーに、怖気づくほどでもねぇよ。それに何かあっても冷静に対処すればいいだけさ。」

怪談や予知夢など迷信が好きなガインスの心配にタングが明るく返す。

「確かにタングの言うとおりだな。」

とメイも微笑みながら話す。そうして歩くうちに井戸に飲み水を汲みに行くため、ウィロウとフリーナはタングたちと一旦別れる。

「でも午後の授業は難しいし鍛錬も厳しくなってきたからやだな~」

と屋外通路の途中で、彼女の骸宝である人形と一緒に歩いていたフリーナが愚痴をこぼす。教員との模擬戦闘である実践から一か月が経ちウィロウ達も力がついてきたが、その分授業や鍛錬のハードルも上がっている。

「確かに、でもそれさえ乗り切れば今日も終わりだから頑張らないとな。」

ウィロウがフリーナの愚痴に笑って答える。

「そうだね、家族のためにも頑張らないと!!」

とフリーナが腕を前に出し意気込んだポーズをした次の瞬間、少し離れた場所から爆発音のような音が聞こえた。その少し後に鐘の音がけたたましく響き渡る。これはオノグラムが攻撃を受けた際の合図だ。緊張が走る中、ウィロウたちのいる通路に担任のボークが駆けつける。

「こっちは無事か!?」

通路にいた職員や兵士のうち何人かは戸惑っているが、通路にいたウィロウたちに怪我はない。

「はい!大丈夫です!」

「よかった。早く避難を…」

とボークが話したその時、通路の柵が破壊され襲撃者であろう人物が次々となだれ込む。奇声を上げて襲撃を心から楽しむような連中の胸にはヤギの角と矢が交差したインプの紋章がある。

「先に避難しろ!!こいつらは俺が食い止める!」

とボークが大声で指示する。いつの間にか彼の骸宝である蛇もボークと敵を挟み撃ちするかのように通路の反対側にいる。しかしこの人数を捌ききれるだろうか。というウィロウの不安を感じ取ったかのようにボークがウィロウたちに微笑みながら叫ぶ。

「大丈夫だ!!先に行け!」

不安が完全に消えたわけではないが、ボークを信じてウィロウたちは急いで避難する。避難したことを確認したボークはインプの構成員たちに向かい武器を構え蛇と同時に突撃した。


四方八方から悲鳴や轟音が響く中、ウィロウたちは避難場所の一つである教員専用トンネルを目指して廊下を駆けていった。オノグラム内に複数あるトンネルは襲撃の際に生徒や非戦闘の避難場所となるが、オノグラムは設立以来ここまで侵略されたことはなくウィロウ達も使うのは初めてである。オノグラムを囲う堀や分厚い壁、警備をどうやって突破したのか疑問に思いながらも周りに警戒しつつ走っていたその時、ふと窓のほうを見たフリーナが目を見開いて立ち止まり、ウィロウに大声で伝える。

「ウィロウ!!外に…!!」

その瞬間、廊下にいたウィロウたち全員身体に凄まじい圧がかかる。肉体的な損傷はないが全身を動かすのに苦労するほどの重圧に全員の動きが止まり、フリーナの声も途切れる。なんとか体を動かそうとしたウィロウの瞳が窓の景色をとらえた瞬間、透明な巨人が殴ってきたかのように廊下の壁が崩れ、ウィロウたちは木の葉のように吹き飛ばされる。集団の最後尾にいたフリーナは壁に叩きつけられうずくまり、その近くのウィロウも吹き飛んだ瓦礫が右腕を軽く抉り全身を強打する。耳鳴りが起き意識が朦朧とするなか前方を見ると、攻撃が直撃した兵士や職員が屍となって転がっている。そして壁が崩れた場所からインプの構成員たち―ざっと15人位いるだろう―が武器を構え奇声を上げて襲い掛かってくる。ここで動かなければ殺される。身体に鞭を入れウィロウは骸宝の爪楊枝を取り出し敵に突っ込む。敵の短銃からの銃弾を爪楊枝の太さだけ変え盾にして防ぎ、槍やこん棒、レイピアのように様々な長さに変形して敵の肉体を貫き、叩き潰す。起き上がったフリーナもワンピースに忍ばせていた短銃や暗器を使って敵を倒し、彼女の人形も両手に装備したナイフで切り裂いていく。相手の斧や銃弾で怪我をできる限り避けながらその場にいた構成員を倒しきる。しかしまだ油断できない状況であった。

「ウィロウ!さっき窓にいた奴らがいない!!」

「あぁ分かってる!ほかの場所に行ったかそれとも…」

警戒している最中の2人に再び圧がかかり、会話が中断される。それと同時に二人の人物が現れ、一人がウィロウに向けて鉈を振りかざし、もう一人がフリーナに向けて銃を発砲する。圧がかかる中、それぞれ爪楊枝と人形が攻撃を受ける。ウィロウを襲ったのは同年代の青髪の少年で右手に鉈を、傷跡がある左手には羽根が金属でできた風車(かざぐるま)を持っている。フリーナを襲ったのは同年代の金髪の少女で、長年着込んだであろうマントを羽織り、短銃とともに小型のランタンを持っている。

「やるじゃないか。あいつの骸宝受けて動ける奴は中々いないからな。」

青髪の少年が口笛を鳴らし呟く。

「そりゃあどうも。」

ウィロウが笑みを浮かべて返すが冷汗が頬を伝う。激戦の後、骸宝の多くは行方不明となり確認されている骸宝全てがオノグラム内にあるわけでもないので、インプの人間が骸宝を持っていてもおかしくない。問題は骸宝を使用する敵が複数人いるだろうということだ。タングたちやボークは無事だろうか。同じことを考えたのかフリーナの瞳が少しだけ揺れる。

「ほかの人のことが心配かしら。」

ウィロウたちの不安を察知したのか少女が冷たくウィロウたちに話す。

「でもその人のところには行かせない。」

と少女の言葉と同時にランタンに灯がともる。廊下を崩壊させた攻撃が来るかと警戒し、ウィロウが爪楊枝を盾にしてフリーナの前に出て守る。それと同時に二人に圧がかかる。どうやら彼女の骸宝であるランタンは対象に圧をかける能力らしい。おそらく先程の廊下を破壊したのは少年の骸宝だろう。ならこの二人の連携は阻止しなければならない。圧は1.5秒程度で収まり、ウィロウは爪楊枝をこん棒のようにして少年に叩きつけ、廊下の穴から外に追い出す。

「フリーナ!!そっちは任せる!!」

ウィロウの叫び声に言葉はないが、フリーナは軽く頷き少女のほうに目を向ける。

「分断させられたか。まぁ先ずはあなたを殺しておきましょう。」

軽く舌打ちしつつ少女もフリーナに向けて銃を構え、ランタンに火を灯しながら話す。

「インプ幹部キャート。これがあなたの聞く最期の名前。」


少年を校舎の外に押し出したウィロウは校舎から離れるように少年と攻防を繰り広げる。少年の鉈もウィロウの爪楊枝も相手の身体に無数の傷を負わせるも、傷は互いに皮膚を切り裂く程度にとどまっている。そうして学園の周囲にある兵士や職員の住居に至るまで戦闘が続く中、突然少年がウィロウに左手に持った風車を向ける。それを見たウィロウはこれまでにない死の感触を感じ、反射に近い感覚で少年の左腕を蹴り上げる。その直後にウィロウから狙いが外れた風車の中心から轟音と共に暴風が一直線に吹く。多少離れていても小物が飛び気を付けないとふらついてしまうしまう威力の暴風は、直線上にあった複数の家屋の屋根や塔、そしてオノグラムを囲う城壁の一部までも一瞬にして消し飛び瓦礫となって降り注ぐ。

「二度も躱されるのか。やっぱ直接切ったほうがいいかな。」

わさわさと頭を搔きむしりながら困ったように話す少年にウィロウが話す。

「やっぱりその風車が骸宝のようだな。」

「おっ、せいか~い。こいつは俺らをどんな建物でも堂々と入れてくれる優れものだ。」

少年が吞気に答えたことでインプがどうやってオノグラム内に侵攻したのか推測できた。生憎(あいにく)ウィロウたちがいる場所からは正門の確認はできないが、おそらく少年の風車で門を破壊して侵入したのだろう。当然正門は兵士の詰め所などがあり厳重な警備が施されているが、先程の少女が持っているランタンの骸宝を使って兵士の動きを止めればまとめて吹き飛ばすことが可能だ。再び廊下のような連携を起こさせないためと、近くにインプの構成員がいるかもしれない状況にして風車の攻撃を抑制できるかもと思い、敵の分断を試みたが…

「それにしてもお前、近くに仲間がいるかもしれない中でこんな攻撃放ちやがって。おたくらインプはそんなことも考慮しないのか。」

ウィロウの言葉に男がフンと軽く笑いながら答える。

「別に気にするほどのことでもないさ。俺はただキャートが生きてくれればいい。それ以外が内臓をぶちまけていようが別にどうだっていい。」

キャートとはさっきの少女のことか、とウィロウが考える暇もなく少年が再び鉈で襲い掛かる。再び攻防が続くが少年の疲労を知らないかのような攻撃に、少しずつウィロウが押されていく。このままではいつかは致命傷を食らう。そう考えたウィロウは賭けに出ることにした。フリーナといた時や今のような鉈のみを使った攻撃から、おそらく少年の風車から出る暴風は一度打ったら再び打つのに時間がかかる。ならばその間に鉈を破壊すれば風車が暴風を放つまでは攻撃できないだろう。そして鉈を破壊する、ウィロウは少年との距離を一気に詰める。少年が右手に持つ鉈をウィロウの左わき腹に叩きつけようとする。相手が鉈を引っ込めないようにわき腹に触れそうになるまで引き付ける。鉈が接触する瞬間、左手の爪楊枝の長さを瞬時に伸ばすことで爪楊枝の先端が鉈の側面を強く突く。衝撃に耐えられず鉈は粉砕するも、刃は腹の肉に少し食い込みこれまで以上の痛みが突き上げる。しかし相手の風車はまだ暴風が打てないだろう。ウィロウは少年との距離を詰めたまま爪楊枝の長さを短くし、再び伸ばして少年の腹部を突き刺そうとする。勝てる、とウィロウが感じたその時、少年がウィロウの右肩に風車の羽を当てた。次の瞬間、金属でできた風車の羽が高速で回転しウィロウの皮膚を突き破る。そのまま少年はウィロウの左側の腰に向かって風車でウィロウの身体を切り裂く。肉が抉るように斬られ、あばら骨も削られたウィロウが今の状況を考える間もなく地面に倒れこむ。黒煙が混じった青空の中、冷たい道の上に倒れこんだウィロウを見て少年は淡々と告げた。

「多分お前が考えたように風車の暴風は打ったらしばらくは使えねぇさ。でも次の暴風までの間にたまったエネルギーを使って風車を回転できるのさ。鉈は近接攻撃がそれしかないって思わせる囮ってわけ。」

砕け散った鉈の柄を投げ捨て、血肉がこびりついた風車を持ったまま少年はウィロウに語り掛けた。

「冥土の土産とまではいかないが、お前を殺した男の名前を教えてやる。」

そして少年が口角を上げて答える。

「インプ幹部ウィネロ、それが俺の名前だ。」



こんにちは、千藁田蛍です。骸宝戦記録襲撃編①いかがでしたしょうか。遂にウィロウたちオノグラムの勢力とインプが衝突しました。今回出てきたウィロウ、フリーナ、ボーク。インプ幹部のキャートとウィネロ。そして今回は出てこなかったタング、メイ、ガインスの行方はどうなってしまうのか。どうぞご期待ください。

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