表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

骸宝戦記録 学園編①

あらすじ:特殊な爪楊枝を操る少年、ウィロウはオノグラムという学園都市へ入学する。そして同級生のタングに絡まれ、二週間後に行われる実践での勝負を宣言される。

雲一つない快晴で爽やかな風も吹く今日は仮眠をするのに最適だ。オノグラムの一年生たちも授業を受けている最中に睡魔が襲い掛かる。しかしある二人は寝落ちしてしまう心配がないだろう。

「何百年前に起きた『激戦』で活躍し、オノグラムの創設者でもある人物は誰か分かる人。」

そう問いかけるのはボークと言う暗い緑色の髪で全身に古傷がある男性だ。一年生の講師であり、ウィロウにオノグラムへの入学を勧めた人物でもある。ボークの問いにウィロウが勢い良く手を挙げて答える。

「アクストです。」

「正解だ。では彼が発見した骸宝の二つの特徴について分かる人。」

ボークの次の問いにウィロウも一瞬考える。その隙にタングが手を挙げて答える。

「何かしら能力を保有していることと、基本的に破壊が不可能であることです。」

「正解だ。以降の項目は各自明日までに予習するように、今日の授業はここまで。」

授業が終わり、ボークが教室を去ったあとすぐにタングがウィロウに駆け寄る。

「どーだウィロウ、俺のほうが今日の授業で多く回答したぜ!」

「うっせぇ!正解したのは俺のほうが多かったじゃねぇか!」

「お前だって同じくらい間違えたじゃん!何なら俺のほうが少ないぞ!」

「いいや、俺のほうが少ないもんね!大体お前は…」

「ちょっと二人とも、お…落ち着いて!」

幼児のようにいがみ合う二人をガインスが怖気づきながら仲裁する光景はもはや日常茶飯事だ。

タングとウィロウが初めて会った日以降、タングは筋トレの回数やら湯船につかっていた時間やら本を読んだ回数でウィロウに勝負を挑んできた。最初は面倒くさがって断っていたウィロウも段々タングに対抗するようになり、今では毎日何かで勝負をするようになっていた。

「ウィロウったら、すっかりタングのペースに乗せられちゃって。」

とフリーナが半分呆れてつぶやいた。もうすぐで一年生全員と教員で模擬戦闘を行う実践が始まる。教員に勝つためにはチームワークも必要になってくるだろう。ウィロウもタングも単体ならフリーナたちとは協力するだろうが、あの二人がセットで果たして協力するだろうか。

「不安だなぁ~」

フリーナの呟きを聞いたメイが話しかける。

「まぁ、私も心配だが多分何とかなるだろう。」

「どうして?」

フリーナの疑問にメイが微笑んで答える。

「何となく、かな。」


フリーナやタングたちと初めて会った時からあっという間に時間が経ち実践前日の夜となった。ウィロウは自室で日課である就寝前のストレッチをしていた。オノグラムにきてから毎日走り込みや筋トレなどの鍛錬が長時間行われたことや、故郷の村よりも充実した食事が出たことでウィロウの体調も元に戻り、何なら倒れる前以上に動ける気がする。そのことから今回の実践も乗り越えられると感じるが、同時に不安も感じる。現時点でボークを含め半数以上の教員の骸宝が不明だからだ。ウィロウが村にいた時にボークは骸宝を見せてくれず、この二週間でもウィロウたちは教員たちが骸宝を使用した場面を直接見ていない。またタングとの勝負の件もある。もちろん勝負に負けたくはないが、それに拘って教員にやられてしまっては本末転倒だ。そう考えている内にウィロウは日課の分のストレッチを終えていたことに気づく。これ以上実践について考えることは止そう、とウィロウはベッドに横たわる。こういう時は睡眠時間を削ってまで考えない方がいい。それに自分は眠ることで気持ちや考えが整理されるパターンだ。そのような理由からウィロウはベッドの上でゆっくりと瞼を閉じた。


その日ウィロウは今まで見たことがない不思議な夢を見た。自身の肉体以外が一切ない暗闇の中にウィロウは居た。そしてどこからか声が聞こえた。

「君は明日のことを不安に感じているのかい。」

周りを見渡してもウィロウ以外誰もいない。しかも発言から声の主は明日実践があること、ウィロウが不安をもっていることも理解しているようだ。不思議に思いつつもウィロウは首を縦に振る。

「はい、どのような骸宝と対峙するのか分からなくて、それに同級生とどちらが先に相手を倒せるのかという勝負もしていて、それらのことが心配です。」

「なるほど、そういうことか…」

ウィロウの言葉に声はしばらく考え込んでいる。しばらくの沈黙が続いた後、声が話し始める。

「すまないが、同級生のことについては私の口からは何も言えない。その代わり前者の不安についてヒントを上げよう。どんな骸宝も結局は道具だ。置くことも、投げることもできる。」

声がそう言い終わった途端、暗闇に鐘が鳴り響く音が轟く。鐘の音がオノグラムでの起床の鐘であることに気づいた時には、ウィロウの意識は自室のベッドの上に戻っていた。結局、あの声との対話もほとんどできずヒントも完全に納得したわけではないが、不安は少し落ち着いた。確かにどんな骸宝を持っていても教員は人間だ。以前、自分を撃ったインプの男のように相手が骸宝を持っていても攻撃が無駄になることはない。ならばみんなの足を引っ張らない程度でタングと全力で競争しよう。攻撃をすることで相手の攻撃や弱点がわかるかもしれないのだから。そう考えてウィロウはベッドから起き上がり、外に出る支度を始めた。


実践はオノグラムで3か月に一度行われる模擬戦闘である。生徒たちとランダムで選ばれた教員一名が戦闘を行い、生徒全員もしくは教員に降参を宣言させるか戦闘不能にさせれば勝利となる。また実践の会場となる屋外訓練場は地形の凹凸(おうとつ)や障害物が多いことに加えて、生徒に相手の教員名と骸宝は知らされていないため、生徒たちには判断力と対応力が求められる。

そのような実践に向け、ウィロウ達一年生は控室で最終確認を行っていた。

「ではまず、みんなの骸宝について大雑把な性能を確認しておきたい。」

と話を進めるのは灰色の髪の少女、メイだ。普段冷静で頭の切れる彼女は作戦の指揮の時は頼りになり、普段はメイと愚痴を言い合っているタングも余計なことを言わず真剣に聞いている。また実践で不測の事態に対応できるように全員の骸宝について改めて確認を取ることは重要なことだ。最初にメイが巨大な刀身の刀を見せて説明する。

「私の骸宝はこの刀だ。能力で私の意思で重力関係なくこれを振り回すことができる。もちろん解除も可能だ。」

次にガインスが白色の目が付いた黒いサイコロを見せて話す。

「えと…僕の骸宝はこのサイコロです。サイコロを振って出た目の数だけ空間から弾丸を発射できます。銃弾は僕の後ろの空間から発射されます。」

続けてタングが右手の金属の指輪を見せて説明する。

「俺の骸宝はこの指輪だ。付けると身体能力が滅茶苦茶上がる。発動中は皮膚に文様が現れてその部分がめちゃくちゃ痛くなるが、解除すれば発動中に受けた傷の痛覚も含めて痛みが消え去ってちまう。」

その後ウィロウの番になり、みんなに爪楊枝を見せながら説明する。

「俺の骸宝はこの爪楊枝だ。太さと長さを自由に変えることができる。」

そして最後に、フリーナが50㎝くらいの人形を見せる。

「私の骸宝はこの人形です。私の意思で自由に操れることができます。また人形が攻撃されることで私自身の怪我の治りが早まります。」

骸宝の確認を終え、作戦についての確認を行った後屋外訓練場へ向かうよう指示が入る。

「おい、ウィロウ」

訓練場に向かうため控室から出る直前、タングがウィロウに話しかける。

「待ちに待ったこの機会だ。全力勝負と行こうじゃねぇか。」

タングの不敵な笑みと共に発したその言葉ににウィロウも笑って返す。

「あぁ、俺も負ける気はないんでね。」

そしてウィロウとタングはこぶしを軽くぶつけ合った。

「全く、二人とも勝手に戦闘不能になったら分かっているよな。」

と呆れながらも念を押すようなメイの言葉に

「ま、まぁ、そこはしっかりするから大丈夫だ。」

とほんの少し動揺したウィロウと、

「大丈夫、大丈夫。俺が教員倒せば問題ねぇからよぉ。」

と楽観的なタングの声を残して5人は控室を出た。


その頃、演習室へと続く教員専用の地下通路を一人の教員が通っていた。暗い緑色の髪に体中に傷跡がある男、ボークだ。わざわざ彼が専用の通路を使用したのは実践の直前まで生徒たちに自分の骸宝を見せないようにするためだ。ウィロウの住んでいた村にさえ持って行かなかった骸宝は窮屈そうにその巨体を動かし、ボークの後をゆっくりと這って行った。

こんにちは。千藁田蛍です。いよいよ実践が始まります。ボークの骸宝の正体は何なのか、ウィロウたちはどうなってしまうのか。また今回は出せなかったインプについても少しですが次回以降出していこうと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ