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骸宝戦記録 入学編

何百年前、世界の崩壊を目論む「悪魔(あくま)」と名乗る勢力とそれに対抗する各国の連合軍が衝突する「激戦(げきせん)」が起きた。戦場となった山脈が残らなくなるほど激しい戦闘は両者多くの犠牲を出し、連合軍の勝利に終わった。その後、戦場の跡地からこの世の理を超えた道具や武器が複数見つかり、それらは骸宝(がいほう)と呼ばれている。


太陽の熱で空気がほのかに暖かい林道を一人の少年が歩いていた。3日間の旅で黄緑色の髪と黄土色の麻服は土埃で汚れ袋の食料も底を尽きたが、もうすぐ目的地に着くと考えると自然と足も軽くなる。林を抜けて視界が広がると同時に少年の目がそれをとらえた。巨大な堀と壁に囲まれた中には見たことのない数の建物があり、中心には大理石の建物が腰を据えている。ここが少年の目的地である骸宝の研究を行う学園都市、オノグラムに間違いない。興奮を抑えきれず少年、ウィロウはオノグラムの入口へと駆けだそうとした。

その時、背後から剣がウィロウに向けて振り下ろされた。ウィロウは間一髪のところで気配に気づき剣を躱す。振り返ってみると三人の男が立っており、全員が長剣と拳銃を装備している。左胸にあるヤギの角と矢が交わっている紋章は「悪魔」の意志を継ぎ虐殺を行う組織、インプのものだ。

「危なかった、拳銃のほうだったら間違いなく殺されていたな。」

冷や汗をかきつつ発したウィロウの言葉に

「別に拳銃でも良かったんだが、できるだけオノグラムの連中に気づかれたくなかったんでね。まぁ抵抗しなければ剣でも楽に逝かせてやるさ。」

と敵のリーダーらしき男が返し、それと同時に二人の男が切りかかってくる。ウィロウはそのような状態でも冷静にポケットから ()()()を取り出した。次の瞬間、爪楊枝がレイピアのように長く、太くなり片方の男の肩を貫通する。もう一方の男がそれに気を取られている隙に爪楊枝がさらに長くなり、側面で男の頭部を殴打する。2人が痛みにうなされ地面に倒れるなる中リーダーらしき男が動揺した声で

「お、お前その爪楊枝…が、骸宝なのか」

と発する。もちろんウィロウが使った爪楊枝は骸宝であるが、律儀に答える訳はない。一気にリーダーのもとに詰め寄る。その時銃弾がウィロウの腕にめり込んだ。肩を貫かれた方の男が発砲したのだ。一瞬だが確実に動きが止まったウィロウにリーダーの男は邪悪な笑みを浮かべて銃口をウィロウに向ける。そして二回銃声が響いた。ウィロウを打つ前にリーダーの男と銃を使った男の眉間に穴が開き地面に倒れた。自身の爪楊枝は骸宝であるため能力は保有しているがこの様な能力ではない。つまり他の誰かが引き金を引いたのだ。いったい誰が引き金を引いたのか、ウィロウは必死に考えるも旅の疲れと撃たれた痛みが一気に襲い掛かる。

「くそ…こんな…ところ、で…」

と毒づくが、これ以上考えることはできず、ウィロウはオノグラムの直前で気絶した。


どのくらい寝ていたのだろうか、唐突にそう思いウィロウは重い(まぶた)を持ち上げた。大理石の壁と日光を十分取り入れられるほどのガラス窓、活躍できる夜を待っている電球がぶら下がっている天井、そして自分が使っている柔らかなベッドとここは自分が倒れた屋外ではない。そうやって考えているうちに倒れる前の記憶が頭に流れ、敵が近くにいるのかと飛び起きあたりを見渡すも男たちの姿はない。骸宝である爪楊枝も無事だ。ふと腕の傷が気になって見てみるとすっかり撃たれた跡が消えている。おそらくここに運んできた人たちが治療をしてくれたのだろう、と考えていると

「あっ、先生、彼が目を覚ましました!」

「おぉ!わかった今そっちへ行く。」

と声が聞こえた。声がしたほうに体を向けると二人の人が近づいてきた。一人は自分と同じくらいの年齢の少女で水色の髪を長く伸ばし、白色のワンピースをしている。また少女の腕には50㎝くらいの人型の人形が抱かれている。もう一人は20代後半らしき女性で桃色の髪に糸目であり、白衣を身につけている。

「おはよう、体調のほうはどうだい?」

と女性がウィロウに声をかける。

「はい、体調は問題ありません。」

「そうかい、ならばよかった。」

ウィロウの答えに女性はカラカラ笑い話を続ける。

「ここはオノグラムの保健室だ。一週間前、君が撃たれそうなところを彼女が見つけて運んできたのさ。」

女性の話からするにあの時の銃弾は彼女が撃ったものだろう、そう思いながらウィロウは少女に感謝する。

「ありがとうございます!おかげで助かりました。」

「いえ、こちらこそもっと早くに応戦できず申し訳ありません。」

「謝らないでください、あなたのお陰で今自分が生きているのですから。」

ウィロウの言葉に少女が少し頬を赤らめる。その後少女があの、と声を発する。

「あなたはもしかして入学生の方ですか?」

「はい、入学生のウィロウです。」

そう、ウィロウが訪れたは目的はオノグラムに入学することだ。半年前、いつものように村で畑作業をしていたウィロウは偶然、爪楊枝を手にした。骸宝であった爪楊枝はウィロウの意思に合わせて長さや太さが変化し、イノシシを刺したり岩をたたき割ったりしても壊れなかった。そんな時オノグラムの教師が村を訪れた際、爪楊枝のことを知りウィロウにオノグラムの入学を許可した。他にはどのような骸宝を使う人がいるのか興味がわきウィロウは入学を決意したのだ。

「やっぱり!!入学生の方でしたか!私もここの一年生なんです。フリーナといいます!」

さっきよりもあやめ色の目を輝かせて明るく話すフリーナを見ると、ウィロウも自然と明るい気分になり笑顔で話した。

「フリーナさんですね。これからよろしくお願いします!」


オノグラム、「激戦」の後現れた骸宝の保管及び研究を目的として建てられた学園都市であり、確認されている骸宝の七割がオノグラムの関係者が所有している。そのせいかインプの標的でもあり、設立当初から幾度もインプとの交戦が起きている。そのような側面がある学園の廊下をウィロウとフリーナは歩いていた。保健室で自己紹介をしあった後、ウィロウはリハビリも兼ねて放課後に校舎をフリーナに案内してもらうように糸目の女性―レインスというらしい―に勧められ、フリーナと共に食堂や寮、図書館など巡り、今は他の一年生たちがいる教室へ向かっている途中だ。

「そういえばフリーナ。」

「ん、どうしたの?」

案内の最中にいつの間にかため口で話し合うようになったフリーナにウィロウが話しかける。

「一年生って何人位いるんだ。」

「えーっと、私とウィロウを含めて5人かな。もちろん全員骸宝を持っているよ。」

元々インプとの交戦で入学する人数が多くない、とウィロウは村で聞いていたが結構少ないんだなと意外に感じると同時に、うまく仲良くできるか不安に感じる。実際、ウィロウは倒れこんでいて今日は入学式から3日後であるのだ。不安を察したのかフリーナが話しかける。

「大丈夫だよ!もう君と私は友達でしょ。それにみんな基本的に悪い人じゃないよ。一人喧嘩っ早い奴ならいるけど。」

後半の言葉が若干気になるがフリーナの言葉に少し安心する。そうしている隙に目的の教室前についた。フリーナがドアノブに手をかけ教室の扉を開ける。

その瞬間ウィロウたちの前に何者かが飛び出してきた。オレンジ色の髪をオールバックにし、筋肉がしっかりと着いた体だ。右手の中指に金色の指輪つけている男が良く通る声で「ようやく起きたか!インプの野郎と戦ったウィロウ?ってやつめ!どっちが強いのか勝負だ!」

と叫ぶ。フリーナが言っていた喧嘩っ早いやつはこいつだと確信する。その時男の後方から

「だ、だめだよ。タング。」

と声が聞こえた横を見るとこげ茶色の髪で顔にそばかすがあり、丸眼鏡をかけた小柄な少年がいた。

「まだ起きたばっかだろうし、無理やり戦うっていうのも…」

「相変わらずお前は心配性だな、ガインス!ちょっと殴り合うだけだから問題ねぇって!それともハンデとしてお前が代わりに戦うか!」

「それは…、うぅ…」

タングとやらの言葉にガインスという少年は押されて何も言い返さなくなってしまった。

「タング、やめなさい!ウィロウも困惑しているでしょう!」

今度はフリーナも止めに入る。しかしタングは

「なぁに、問題ねぇよ。避ければ怪我しねぇからよぉ!!」

と言いウィロウに向かって跳んできた。これはまずい、とウィロウもフリーナに当たることを考慮し戦闘態勢に入る。その時ウィロウの横を何かが横切り、タングの頭上から何かが振り下ろして床にたたきつけた。それは普通のと比べても明らかに太く長い刀であり、タングは峰の方で殴られて気絶している。

「馬鹿め、全力を出せないときに殴りにかかるやつがいるか。」

と刀の柄を握る人が話す。それは灰色の長髪を後ろで結び、袴を着た緋色の鋭い目をした少女だった。

「すまない、馬鹿が迷惑をかけたな。」

と少女は低めの声で謝り、

「私はメイだ。今後ともよろしく頼む。」

と自己紹介をし、手を差し出す。

「あ、あぁ、ウィロウです。助けてくれてありがとうございます。」

目の前の光景にあっけにとられていたウィロウもメイの言葉で我に返って礼を言い、手を出して握手をする。

「なに、感謝されることでもないさ。」

とメイは微笑んだ。その後に眼鏡の少年がウィロウに近づく。

「あ、あの!自分はガインスといいます。さっきは止められなくてごめんなさい!」

「いや、止めようとしてくれてありがとうございます。」

謝るガインスにウィロウが礼を言う。その時教室内で雄叫びが響き渡る。直後、刀からタングが脱出しメイの目の前に立つ。

「メイてめぇ、余計な事しやがって。いったいどうゆうつもりだ。」

越えの低さから明らかに怒っているタングに対してメイは鼻を鳴らして答える。

「別に、ただ病み上がりで全力が出せない奴を殴って喜ぶ道化になるのを止めただけだが、何か問題でも。」

メイの返答にタングは短く舌打ちし、今度はウィロウに詰め寄る。

「おい、今メイが言っていたが、お前本当に今弱い状態なのか。」

確かに今の体調ではメイの言う通りあの時のような動きはできないだろう。タングの質問にウィロウは警戒しながらも頷く。そしてタングは若干落ち込んだ表情を見せるも、すぐに笑顔になりはっきりとした声で続けた。

「よし!じゃあしばらくはハンデだ。明日からお前のできる範囲で勝負を挑んでやる。そして二週間後の実践でどっちが強いのか決めようぜ!」

これは面倒なことになりそうだ、とウィロウは思ったが、タングの発言に疑問が生じる。

「なぁタング、その実践っていうのは何なんだ。」

タングは不敵な笑みを浮かべて答える。

「教えないよ~、と行きたいところだが、今回は大サービスだ。実践っていうのは一年生全員と教師で戦うのさ。もちろん俺らも教師も骸宝を使用して、だ。そこでどちらが先に教師を倒すのか競争と行こうじゃないか。」

太陽が西に沈み、緋色の光が教室に差し込む中、タングは一層強い笑みを浮かべた。

こんにちは、千藁田蛍です。骸宝戦記録 入学編を読んでくださりありがとうございます。ウィロウとオノグラムの一年生が登場しました。今後行われる実践の行方はどうなるのか、そしてインプの動向とさらなる目的について投稿ペースは完全に不定期ですが、明らかにしていきたいと思います。拙い文章ですがよろしくお願いします。

追記:ウィロウの言葉で「体調」が「体長」になっていたため訂正しました。申し訳ございません。

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