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上級悪魔の日常

ー上級悪魔ベルゼの館ー


「ベルゼ様、お食事の準備が出来ました。」

雪のような色白の肌で、長い黒髪をもつ長身の女が言う。

「そうか、報告感謝する。リリー。」


リリー。彼女こそベルゼに仕える悪魔であり、妖美さを醸し出すその容貌は見る者を魅了し、堕落させる。また彼女はサキュヴァスの階級を冠しており、ベルゼが人間の堕落した魂を食として好むのに対し、リリーは人間の精気を食する。つまりは、人間が抑える性欲を活性化させ、それを搾り取る。搾り取られた人間はリリーに魅せられた快楽以外では満足できず、喪失感により自殺する。そうしてリリーは死んだ人間の肉体さえも自身の尾である蛇に食わせ更に強化する。


リリーに案内されるがまま、自室をでたベルゼはいつも食事をしている食堂へ向かう。基本的に悪魔は食事のとき、人間のように礼式に則り上品に食べることはない。下級や中級の悪魔であるならば、獲物を捕らえた所でそのまま食すことが常であり、その食事方法も手掴みで人間の臓物や魂を喰らい、下品に平らげる。それはまるで魔獣のようであり、それも含めて人型をしている悪魔が人間とは見ても見つかないと言われる所以の一つである。しかし、上級悪魔の中には食事を人間の様式を模倣して行う者がごく僅かながら存在する、色欲の悪魔アスモ、強欲の悪魔マモン、そして暴食の悪魔ベルゼである。「暴食」という二つ名を冠しながら、その食事スタイルは他二人とも大きくことなり、さながら人間の上級貴族の様である。であるからこそ、本来決して必要のないはずの悪魔の屋敷に「食堂」が設置されているのである。


赤いカーペットの敷かれた長い廊下をしばらく歩くと、高級感のある暗めの茶色で塗装され、ドアノブや蝶番にまで黄金を使った細部までこだわられた上質で巨大な扉が目の前に現れる。この扉が、食堂への入り口である。ベルゼを先導していたリリーが扉を両手でグワンと開き「御主人様入室!」と大きな声をあげた。その声を聞くや否や、既に食堂に居た使用人の悪魔が頭を下げながら、主人の入室を迎える。


頭を下げている自身の配下の成した列の横を通りながら、ベルゼは一番奥の最も上質な席についた。この席はベルゼ専用の椅子である。稀に悪魔、といっても先述したアスモやマモンを呼ぶときでさえ、この椅子だけは必ずベルゼが座り、その対岸に彼専用の椅子に比べるとほんの少し品質の悪い椅子を用意し、アスモやマモンを座らせるのだ。これはベルゼのプライドが高いゆえの行為というわけではなく、悪魔の性質によるものであり、自分の支配領域であれば、たとえそれが自分よりも高位の客人であっても、その領域の主人がその領域の一番良い所に座るというものに起因している。であるから、アスモの支配領域に行けばアスモが、マモンの支配領域に行けばマモンが、一番良い所に座り、ベルゼもその状況になんの疑問も思わずワンランク下の席につくのだ。


「ベルゼ様、お待たせいたしました。」

そばに控えるリリーがそう言うと、ベルゼの前には次々と皿が運ばれてきた。


トマトスープ、パン、バター...と運ばれていくうちに銀の蓋を被った料理が運ばれてきた。これこそ、今日のメインディッシュであろう。暴食の二つ名を冠する美食家ベルゼは心を躍らせていた。人間の肉か、それとも人間の臓物その中でも特に美味しい部位である心臓か、はたまた大好物である人間の魂か、ベルゼはリリーが銀の蓋を開ける刹那を無限に感じた。




「本日のメインディッシュは、ナルッポの丸焼きでございます。」




???????????????????????????



「えっと...、あの、リリー..??」

「...」

「リ、リリーさん?」

「...っ...も...」

「えっと...」


「「「申し訳ございません!!!!」」」


そう叫ぶや否やリリーは深々と頭を下げた。


「『暴食』の名を冠する上級悪魔ベルゼ様にこのような、庶民の料理をお出しするなど万死に値することであります!!!本当に申し訳ございません!!!!今すぐ、私が自殺し、私の肉を今夜のメインディッシュとして召し上がってくださいませ!!!!」


リリーはそう言いながら、自決しようとテーブルの上にあった銀のナイフを首に付きつけようとした。銀のナイフは悪魔の共通の弱点であり、食事用のナイフであっても自信を消滅させるには充分であった。


「馬鹿なことはよしなさい。」

ベルゼはすかさずリリーの背後にまわり、そのナイフを手で掴み止めた。ナイフの刃はベルゼの手の中にくるまれ、ベルゼの手からは血がにじみ出ていた。


「ベ、ベルゼ様...!血が...!血が出ております...!」

「あぁ、出ているな。」

リリーの混乱とは真逆にも、ベルゼは至って冷静沈着そのものであった。


「はっ、早くっ!ナイフを放してくださいませ!」

「いいや、放さない。」

「なっ!」

「リリー、お前がその愚かな行為を辞めようとしない限り、放さないよ。」


そう言ってベルゼは更にリリーに顔を近づける。はっきり言ってベルゼは容姿端麗の、まさに超絶イケメンといえる人物である。それでいて、頭脳明晰、上級悪魔であるから勿論圧倒的な力を有している。その強さは悪魔の王サタンと並ぶともされていた。全悪魔にとってまさに羨望の的である。そんな人物が自分の近くにいるのだから、リリーは顔を真っ赤に染め上げた。その瞬間、リリーのナイフを握る力が緩んだ。すかさずベルゼはリリーからナイフを取り上げた。


「リリー、我々ベルゼ派悪魔の理念は覚えているのだろう?」

「も、勿論でございます!!!理念は『合理性の追求』、ある時は熱心になって、ある時は狡猾になって、それもすべて合理性のため...。」

「そうだな。じゃあ、リリー。お前の今の行動は合理性にかなっているのか?」

「はっ、はいっ!!私の体を供物にしてベルゼ様の食欲を満たすことが最善で合理的であると判断いたしました!」

「そうか。」

「...っはい。」

「不合格だ。」

「っ...。な、なぜですか...。」

「私は暴食の悪魔ベルゼだ。その名の通り、食事こそ私の至福であり、大切なものだ」

「っなら...!!」」

「ただし、一番大切なものではない。」

「...!!」


「私が一番大切なもの、それはなリリー、お前たちのような仲間だよ。仲間を失うくらいなら、私の食欲などどうでもいい。リリー、お前が私の欲求のために犠牲になることなど求めてはいないし、なによりその二つを比べた時、『合理的』ではないのだ。だからな、もうこのようなことは辞めてくれ。」

ベルゼはそういうと、リリーの頭を優しくなでた。


「ベルゼ様ぁ...。。。。」

その主人の優しさにリリーは号泣した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「それで...、どうして今日のメインディッシュがナルッポなのだ?」

泣き止み、いつもの姿に戻ったリリーにベルゼが問う。


「実は...、『彼ら』の躍進により人間の供給が少ないのです。」

「あぁ...あの子たちの...。」


「それでナルッポというわけです。『彼ら』のおかげでナルッポだけは簡単に入手できますから...。」

「クフフ...おもしろい...。」

「ベルゼ様...?」

「リリーよ!!これより私は私のための欲求を満たすため、『合理的』に食欲を満たしてみせる!そうだな、人間のそれも悪しき心に飲まれた人間の魂を喰らいつくそうではないか!」



そういうと、ベルゼはリリーの手を取り言った。




「時は満ちた。これより私は人間界に向かう。」

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