憂鬱。
悪魔。それは神へ叛逆した裏切り者。人々を唆し、悪事に手を染めさせる者。
悪魔と契約したものは、心を奪われ、外道へと堕ちる。
そんな忌むべき存在。それが悪魔。
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「「「ひぇははははは!!!バッカみてぇなツラ!!!!情けぇなぁ??オマエみてぇなデブでブサイクで惨めなブタ、早く死んだ方が喜ばれるんじゃねぇの???」」」
今はもう誰も使っていない旧校舎の体育倉庫で、複数人のゲスに囲まれ、罵詈雑言を浴びせられる。メガネは割れ、ワイシャツは引きちぎられ、身体には油性マジックで「ブタ」と大きく書かれていた。頬は殴られたことで大きく腫れ、少しでも表情筋を動かすと酷く痛む。
毎日がこんな様子だ。サンドバッグにされ、オモチャにされ、俺には全く人権など残されていない。
このゲス共は、俺に毎回金を要求してくる。しかし、俺は絶対にそれを出さない。出せない理由がある。絶対に、絶対に、いくら殴られようとも、いくら辱めを受けようとも、これだけは俺は絶対に応じなかった。
それに…。
「おい!!オマエら何をしてる!!!!」
「っち、また今日も来やがったよ柳瀬のやつ。」
「いっつも、いっつも良いところで来やがって。」
「オマエら、また今日もこんなことをしてるのか!!!」
「うるせぇな、俺たちが何をしようと俺たちの勝手だろ!」
「そうだ!優等生様はとっとと引っ込んだろ!」
「オマエら…。あまり調子に乗るなよ…。」
柳瀬はそういうと、1人のゲスの腹にストレートを入れた。これは相当入っただろう、ゲスの顔は青ざめ、さっきまでの威勢はつゆと消えた。
「いってぇな!!覚えときやがれ、クソッ!」
そう言い残すと、ゲス共は体育倉庫から出て行った。
「大丈夫、山本くん?」
「あ、あぁ。どうもありがとう。」
柳瀬は俺の手を握り、顔の血をハンカチで拭いた。
「また、アイツらにやられたんだね。」
「そうだな、全くあのバカどもにはウンザリするぜ。」
「でも、山本くん。無事でよかった。」
俺が女であったら、絶対にこの目の前の男にときめいていただろう。俺が虐めに屈しない理由は、まさにコイツの存在がある。
柳瀬陽太。頭脳明晰でスポーツ万能な生徒会長である彼は、いつも誰かを救ってる。勉強がわからない子がいれば、勉強を分かりやすく教えるし、部活の助っ人もお手の物だ。更に、生徒会長として教師からの信頼も高い。そんな性格の彼であるからこそ、彼の前では誰もが畏敬を抱き、彼もそれに応える。だから、こんな俺の事も救ってくれるのだ。
「立てる?山本くん。」
「あ、あぁ。ありがとな柳瀬。」
「何さ、僕と君の仲じゃないか!助けるのは当然さ。」
爽やかな表情は何よりも眩しかった。
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「あいつらがまだ潜んでるかもしれない。僕も一緒に帰ってもいいかな。」
「え、あ、あぁ。もちろんいいけど。」
「そっか、ありがとう!」
正直、どうして柳瀬がここまで俺に気を遣ってくれるのかはわからない。でも、助けてくれるのは確かで、感謝してもしきれない。
「あれ、山本くんの妹ちゃんじゃない?」
「ん、あぁそうだな。おーい!奏ー!!」
目の前の少女は声に反応し、こちらに気がつくと走ってきた。
「お兄ちゃん!お帰りなさい!今日は偶然だねー?放課後はどこに行ってたの???」
「あ、ま、まぁな。ちょっと用事があって…」
「山本くんは、生徒会の仕事を手伝ってくれていたんだ。だから、僕も一緒なんだよ。」
「あっ!だから生徒会長さんも一緒なんだ!!お兄ちゃん、偉い偉い!!」
妹は俺のたった1人の家族だ。3年前、両親が交通事故で死んでから、俺と奏だけが唯一の家族だった。だからこそ、守らなくてはいけないし、虐めにあっても金を易々と渡すことはしたくない。そもそも、妹に兄が虐めを受けていることを知ってほしくない。
だから、この柳瀬の発言にはホッとした。ありがたかった。
「それじゃ、僕は塾があるから、山本くん、妹ちゃん、またね!」
「うん!またね!!」
「じゃ、じゃあな。また明日。」
妹は守る。俺が絶対に守り抜いてやる。そう覚悟していた。
「くふっふふふ、妹ちゃんかわいいなぁ…。汚しがいがある。」