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47 一旦解散とします

「体温も平熱ですし、顔色もよろしいですからご自宅に戻られて問題ないでしょう」


 大晦日だというのにわざわざホテルまで往診に来てくれた医師は、貴文の首元に当てた小型の測定器を確認しながらそう言った。


「体温って、首で測るものなんですか?」


 貴文は、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。体温計とは、わきの下に挟んで測るものではないのだろうか?


「ああ、そうですね。非接触タイプのものは額か首筋なんですよ。でも、額って少し頭を動かしただけで風を受けるでしょ?その点首筋なら太い血管も通っているから深部体温が測れて正確なんです」


 なんて医師から説明を受ければ、素直に信じてしまうというものだ。貴文がもう少し機械に興味を持つ男子であったなら、自分に当てられた測定器の出した数値を見たがったかもしれなかった。だが、幸いなことに貴文はこの年にして大変素直な性格の持ち主だったため、「平熱」という医師の言葉を素直に受け入れてしまったのだ。ついでに言えば、「平熱って何度ですか?」と質問するところである。

 もちろん医師が測定したのは貴文の体温などではない。オメガのフェロモンの数値だ。体温はついでに測定されてはいるが、もともと風邪をひいたわけではなく、ましてインフルエンザに罹ったわけでもないため、体温については問題視されてなどいなかった。


「貴文さん、服はどうしますか?」


 義隆が遠慮しがちに聞いてきたので、貴文は首を傾げた。服ならここに来た時に着てきたものを着て帰ればいいではないか。そう思った次の瞬間、


「あああ、そうだよ、俺パジャマだったじゃん」


 来たときは地下駐車場から一気にこの部屋まで来たから気にならなかったが、あれこれホテルの内部を知ってしまった今となっては着古したグレーのスエット上下ではあまりにも場違いである。


「いらしたときに着てらしたお召し物はこちらになります」


 しれっと秘書の田中がきっちりとクリーニングに出されたスエット上下をだしてきた。渡されたその一番上には見紛うことない真っ白なパンツがあった。


「ひっ……んぎゃあぁぁぁぁぁぁ」

 

 慌ててそのすべてを抱きかかえて体の下に隠した。


「え、なに?俺のパンツ、パンツ……パンツ、が」


 人生二度目のパンツがクリーニングされるを経験させられた貴文なのであった。

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