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17 それは嘘か運命か

「この車じゃマッサージができないな」


 後部座席で義隆は真剣に悩んだ。この車は義隆の通学用の車である。東京都下にある私立の高校に通うために用意された車だ。中等部のころから乗っているからそろそろ六年ほど乗っていることになる。


「義隆様。車内でマッサージは無理ですよ。道路交通法がありますので」


 田中が控えめに言ってきた。


「そのくらい知っている。けれど、あの医者がいうことが本当なら毎日マッサージをする必要があるんだ」


 義隆は難しい顔をして何やら考え込んだ。どうにかして何とかしてしまいたいのだ。義隆が貴文をマッサージしたい理由は簡単だ。貴文が入院した際に担当した医者がそんなことを言ってきたからである。

 そう、医者が貴文のレントゲン写真をみながら解説をしてきたから、義隆はどうしても実行しなくてはならなくなってしまったのだ。


――――――――――――


「ベータなのになぜ子宮があるんだ」


 やけにあっさりと説明をしてきた医師に少々イラつきながら義隆は聞いた。


「だから、それは血液検査の結果でしかないんですよ」


 そういいながらモニターの半分に何かの数値が並んだ検査結果を映してきた。


「これは血液検査の結果です。まあ、コレステロールの値とかは今回関係ないのでとばしますけど、重要なのはここです」


 マウスのカーソルで示されたのは第二次性の判定に使われる項目だった。


「このオメガ性を表す値、0じゃないでしょ?」


 確かにそこの値は0ではなかったが、オメガと判定できるほどの数値でもなかった。10以下ならないものと同じ扱いになる。


「彼はベータの両親で、姉もベータ。親族にもベータしかいない典型的なベータ家系です。でも、仮にもしこれが義隆様、あなたのような名家の生まれの子どもの血液検査だとしたら、徹底的に調べますよね?」

「……そうだな」


 義隆は返事をしながら内心深いため息をついた。そう、すべては生まれのせいなのだ。名家やその流れをくむ家に生まれたのなら、少しでもオメガの可能性があれば徹底的に調べるところだ。世界的な人口の比率から見てもオメガは圧倒的に少ない。それは人類が大昔にオメガを迫害しまっくたことに起因している。だが今では優秀なアルファを生み出せる希少な性として世界各国で保護されている。ベータからでもアルファは生まれるが、オメガから生まれるアルファと比べるとその才能は天と地ほどの違いがある。より優秀なアルファが国を動かさないと、国が亡ぶ事態を招きかねないとして、どこの国も政治家は軒並みアルファぞろいだ。企業も、経営者はほとんどがアルファだ。まれにベータの経営者もいる。つまり、そんなベータより劣ってしまうアルファを量産するよりは、優秀なアルファを生み出したいと、アルファがオメガを欲しているのが現状なのだ。


「名家ほどオメガを欲しますよね?だから少しでも可能性があれば徹底的に検査をして、可能性があればオメガとして開花するべく治療を施しますよね?でもね、ベータからしたら自分の子どももベータであって欲しいんですよ。オメガなんて厄介な性、冗談じゃなくいらないんです。だからオメガのフェロモン値が少しぐらいあっても再検査なんかしないんです」


 そう言って今度は後頭部あたりのレントゲンを見せてきた。


「ここが項のあたりです。番になるとき嚙みますよね?」

「ああ、そうだな」


 答えながらも義隆はそこに映し出されたおかしな靄に首を傾げた。


「ここ、くろくなってますでしょ。これが原因なんです。オメガの項のあたりからフェロモンが香りますよね?彼ね、そこの器官が詰まってるんですよ」

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