13 ここでようやくお約束の人
「間に合わなかったのか?」
夕方、制服姿の義隆が道路に立っていた。目立たないように車と田中は別の場所に待機させている。
「就業時間は5時半までで、そこから着替えて退社するはずなのに」
腕時計で時間を確認すれば、5時45分だった。5時半には間に合わなかったが、退社時刻には十分間に合ったはずだ。それなのに、誰も出てこない。不審に思っていると、義隆のスマホが鳴った。着信ではなくメッセージが届いたらしい。
急いでスマホの画面を確認すれば、送り人は島野であった。つい一週間ほど前に紹介されたばかりのベータの従僕だ。義隆と年が離れすぎているため、他社で普通に働いていたらしい。それが、今回のことがあり急遽義隆の従僕に抜擢されたのだ。
「なっ、そんなことがっ」
島野からのメッセージを読んで義隆は大いにあわてた。島野が示した方を見れば、確かに大きな通路があって、それがそのまま駅へと直結していた。
義隆は道を慌てて走り、駅へと向かった。確かにあの駅は出入口が一階と二階にあった。2階の出入り口を使うのは、確かにあの大きな歩道を使う人々で、キチンと確認していれば、貴文の会社に歩道が続いていることに気がついただろう。
急いで階段を駆け上がり、改札口の前でゆっくりと視線を動かせば、同期の島野と一緒に歩いてくる貴文の姿があった。島野は義隆の姿が見当たらなかったからこそ直ぐにメッセージを送ってきたのだろう。そうして走る義隆の姿を歩道から確認しつつ、貴文の歩く速度を上手い具合にコントロールしたと思われる。
おかげで義隆は息が上がっている所を貴文に見られることがなかった。アルファらしく堂々とした態度でゆっくりと貴文に近づくと、にっこりと微笑んで声をかけた。
「お疲れ様です。杉山さん」
シワひとつない学生服を身にまとったどう見てもハイスペックアルファに声をかけられて、貴文は驚いて足を止めた。周りには当然会社の同僚たちもいるし、近隣の会社に勤める人たちもいる。
誰もが普段見なれないハイスペックアルファに目を奪われていた。時間帯から言って大抵の会社の終業時刻であり、その為に歩道には人が大勢いた。もちろん帰宅を急ぐ人は義隆を避けてさっさと改札を抜けていくが、見慣れない学生服のハイスペックアルファが気になって立ち止まる人も結構いた。
そんな中、自分も注目を集めているのだと気がついた貴文は、隣に立つ島野を見た。目が合うと島野はなんだか曖昧な笑い方をして、チラチラと回りを気にしているのがわかった。
「お疲れ様、義隆くん……どうしたの、かな?」
朝に18だと言われたから、例え名門一之瀬の名を持つとは言えど、ここは男は度胸だとくん付けで呼んでみる貴文なのであった。