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第三話 この子のために力を使う ~決起、そしてエピローグ


 ある夜、私はこっそりと大魔王城を訪れて、その知らせをディーノに伝えた。

 ディーノは驚いて飛び上がった。


 そして私を抱きしめた。 


「男の子かな、女の子かな?、エレナはどっちがいい?」


 そう、子供ができた。

 前世が夫婦の大人の男女が人目を忍んでデートしてたら、そりゃ、まあ、そうなりますよね……。


 だが、大魔王と大聖女の子。

 人の世界でも魔の世界でも忌み嫌われる存在だろう……。

 この子が幸せになることは今の世ではあり得ない。


 ならば……。


 ディーノは優しく私のお腹を撫でながら言った。


「やるしかないな」

「ええ、そうね」


 二人の決意は一緒だった。


 この子が受け入れられる世界。

 人間と魔族が憎しみ合うのではなく共存できる世界を作る。


 今度は自分たちの幸せのため、この子のために力を使う。

 はむかう者は誰でも、聖でも魔でも世界すらぶっつぶす。


 それが正義か悪なのかは別に構わない。


 『来世でも共に戦おう!』、前世の誓いを守るときが来た。


 それから三ヶ月、安定期になって、つわりも落ち着いた頃を見計らって私達は動いた。


 もちろんその間に準備を整えた。




 まずは『魔の世界』。


 大魔王の配下には魔王が十二人。内九人は人間との和平に賛成、もしくは中立。

 残り三人が強硬派、人間滅ぶべし、を信じている。


 ディーノは強硬派の三人に従うか戦うかを選ばせた。

 彼らは戦いを選んだ。


 大魔王エラルドの力を知る彼らは手を組んで戦いを挑むべく、一人の魔王の城で彼を待ち受けていた。

 三対一なら勝機はある、そう考えていたようだ。



「お腹は大丈夫か?」


 ディーノが心配して鎧の上からお腹を撫でてくれた。

 鎧を補強し、魔法で防御力を最大に引き上げている。しかし、これ以上お腹が大きくなったら本当に動けなくなる。

 残された時間はそれほどない。



 魔王の城に入り、向かってくる者は片っ端から切って捨てた。


 そして、ディーノと手をつないで玉座の間に入っていき、魔王三人と向き合った。


「なぜ、大聖女がここに……!?」


 魔王三人は私をみて仰天した。

 三対一と思っていたら三対二、しかも一人は大聖女。


 先代の大魔王を一刀両断に斬り捨てたのが我が聖剣の本来の力である。


 さらに聖女としての力が以前より、確実に強くなっている。

 もしかするとお腹の子供は女の子で、力を貸してくれているのかとも思ってしまう。


 魔を倒すには聖の力の方が手っ取り早い。


 私はお腹に負担を掛けないように移動魔法で瞬時に二人の魔王に近付いて聖剣を振るう。

 一人は胴体を横に真っ二つ、もう一人は頭から縦に真っ二つに切り払った。


 二人の魔王の身体が上下、左右に分かれて崩れ落ちた。

 これで、一対二になった。


 残った魔王がディーノを憎悪の目でにらみつけた。


「キサマ……、魔の戦いに聖の力を巻き込んで配下の魔王を攻めるとは……、こんなことが許されると思うか!、掟に反……」


 ディーノは見えないほどの速さで魔王に向かっていき、すれ違いざまに水平に魔剣を振り払った。

 魔王の頭が首から切り離されて落ちていった。

 地面を転がる頭をディーノは踏みつけた。


「俺たちは誰の許しも請わぬ。幸福になるため、やるべきことをやる」



 次はいよいよ『人の世界』、聖都侵攻である。




『人魔統合軍』


 私達はそう名乗った。目指すのは人間と魔族が共存できる世界。


 軍団長は大魔王エラルドたるディーノ、副軍団長は大聖女カサンドラたる私。


 聖都を進軍する姿は異様だった。


 頭に二本の長い角があり、四つ足で歩く巨大な魔獣の背中に台座を組み、白銀に輝く聖なる鎧に身を包む大聖女と黒一色の大魔王が手をつないで白と黒の長いマントをなびかせて立つ。

 ちゃんと風魔法でマントが美しくなびくように演出している。


 その後ろに数百の異形の魔物が続いていく。


「勝手に暴れないように、おとなしいの連れてきたから」


 心配そうに魔物を見る私にディーノが笑顔で声を掛けてくれた。


 一つ目の巨人などかわいい方で、巨大な腕のあるナメクジ、頭が三つあるヘビ人間、触手だけがニョロニョロ動いている何か,などなど、見るだけで背筋が寒くなる不気味な生物の群れが、確かにお行儀良く列を乱さず行進している……。

 家から隠れて見ている子供達のトラウマにならないことを祈るしかない。


 魔物の右には私に賛同してくれた討魔騎士団、左には国家正規軍の一部すら列をなす。

 大神官の政治は予想以上に評判が悪かったようだ。


 正規軍の思惑は正直怪しいが今は使える戦力は全て使う。

 彼らがいるだけで戦いの正当性を多少はアピールできる。

 私達に逆らう時が来ればその時にぶっつぶすだけだ。


 聖教会の象徴たる大聖女が大魔王と手をつなぎ、魔物や騎士、正規軍を引き連れている様子に、民衆は何が起こっているのか理解できず、ただ家の中から眺めるだけだった。


 こんな軍団に誰がいったい戦いを挑むだろう?

 誰からも抵抗を受けることなく、大神官の立てこもる大聖堂に到着した。


 警護の兵も大聖女が大魔王と手をつないで歩く姿に、どう対応していいかわからず、ただぼう然と見送るだけだった。



 私とディーノは手をつないで大神官の前に立った。


「大聖女、これはいったいどういうことだ!」


「大神官、私達の幸福にお前はジャマだ、さっさと消え去れば命までは取らぬ」


 と言ってはみたが、止めきれぬ殺気を感じ取ったのか、大神官の身体が法力の術による絶対防御の光の玉に包まれた。


「どうじゃ!、これでお前はワシに手出しはできん。もうじきワシの直下の軍が到着する、お前らなど蹴散らしてくれるわ!」


 負ける気はしないし、ジャマをするならぶっつぶすまで。

 だが、こんなバカの命令で戦う者の命を奪うのは正直、気が引ける。

 光の玉に聖剣で斬りつけてみるが、カキーンと跳ね返された

 聖の力を聖の力で打ち破るのは難しいかも知れない。


「クソ聖女、やっぱり、大魔王とできとったんじゃな!、汚らわしい、この淫売婦、売女、あばずれ、ビッチ!」


 こいつ、これでも聖職かという罵詈雑言を私に浴びせてきた。

 人間と人間のやりとりとして、ジッと見ていたディーノが怒りの表情を浮かべた。


「大魔王の妻に無礼であろう。消えろ」


 ディーノが手の平を大神官にかざすと、光の球体が徐々に下から黒色に浸食され大神官を包み込んでいく。


「な、なんだ……?」


 慌てふためく大神官を包み込んだ黒い球体はフッと消えた。

 あとにはなにも残っていない。


「エレナが『命は取らない』っていうから、生きたまま世界のどっかに飛ばしといたよ。どこに行ったかは俺にもわからないけど、どっかで生きてるだろ」


 ディーノは私の言葉を大事にしてくれたようだが、飛ばされた先が海だったらどうなるんだろう……。

 運次第か、聖なるご加護がありますように。

 大神官の日頃の行いを考えると、たぶんご加護はないなと思ってしまう。



 トップを失えば組織はもろい。誰が好き好んで大魔王、大聖女、異形の軍団、さらには仲間だった者と戦いたいだろうか。


 大聖女と大魔王の手に手を取った戦いはこれであっけなく終わった。


 この日を最後に、大聖女と大魔王は姿を消すことにした。


 人間と魔族の共存。

 それを乱す者には制裁を加えるために再び現れる。

 それだけを言い残して。


 言いつけさえ守ってくれれば、政治に興味は無い。

 勝手にやってくれれば良い。


 だって、私達はこれから忙しくなるのだから。




エピローグ


 そして数ヶ月が過ぎた。


 私達は自分たちの幸福のために戦っていたのだが、結果として、人間と魔族の世界は過去に例がないほど平和になっていた。


 お互いを尊重し、商売を中心に人の行き来も増えている。

 聖都で魔族の姿を見ることも珍しくなくなっていた。


 世界を救った勇者夫婦を大聖女と大魔王、敵同士として生まれ変わらせた神の意図は、こういことだったのかとも思ってしまう。




 生まれたのは予想通りの女の子、そして男の子の双子だった。


 前世で失わせてしまった命を加えてくれたのかもしれないと思うと涙が出てくる。



「エレナー、おむつ無いんだけど」

「まだ干したまんま。私が取ってくるから、ディーノはお尻ふくお湯わかして」


 二人の赤ちゃんの世話は想像以上に大変で毎日があわただしい。

 大魔王の父親ぶりもだいぶ板についてきた。


 ディーノの城は日当たりが悪いので、郊外に家を建て、二人で暮らしている。

 近所の人たちは私達が誰かは知らず、ごく普通の若夫婦として接してくれる。

 それも心地よい。



 離乳食には新鮮な野菜を使いたいと庭に小さな畑も作り始めた。


「大聖女の魔法に畑を耕す魔法ってなかった?」


 そう言いながら汗をかいてクワを振るう大魔王の姿は微笑ましい。

 戦いのないスローライフを満喫している。

 これも平和のおかげ。


 私の家族、特に母が時々来てはいろいろと助けてくれる。

 家族には、戦いの後にディーノを紹介し、全てを話して結婚と妊娠の報告をした。

 もちろん驚き、心配された。


「赤ちゃんに角があったら、お産の時、痛くないかしら……」


 両親が一番心配したことだった。さすが大聖女を産み育てた両親、心配のしどころが違う。

 ディーノから、角は思春期になってようやく生え始めます、と聞いてホッと安心していた。



 双子の赤ちゃんがお腹をすかすのはたいてい同時。


 二人そろって、お腹すいたーと言っているだろう泣き声の合唱。

 面倒なので上半身の服を脱いで、一人ずつ乳首をくわえさせて抱きかかえる。

 ディーノは私が寒くならないように毛布で私と赤ちゃんをくるんで、私ごと抱きしめて赤ちゃんを支える。優しい父親の目で懸命にお乳を吸う赤ちゃんたちの様子を見ている。

 彼のぬくもりが毛布越しに伝わってくる……。


 前世では成しえなかった親子での幸福を心から味わっている。


 そして願わずにはいられない。


 この子達が幸せに育っていける平和な世の中が続きますように。


 大聖女や大魔王が復活しなければならないような世の中になりませんようにと……。


 



最後まで読んでいただきありがとうございました。

ぜひ評価よろしくお願いいたします。

今後の参考にさせていただきたいと思います。

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