オペラ探偵 毛利さくらの美学 第三話「ラ・ボエーム」 第二回
日本で唯一の市立オペラハウスである、桜園シティオペラハウス。
プッチーニの名作オペラ「ラ・ボエーム」の初日、直前リハーサルの最中に起きてしまった事故。
舞台裏の魔術師達もなす術を失った時、意外な人物が思い切った解決策を提案します。
「ラ・ボエーム」、初日の幕が上がります。
「ラ・ボエーム」開演前 直前リハーサル 舞台上
頭上で起きた大きな音と悲鳴に、奈落にいた私がギョッと顔を上げた時、さっきまで隣でパリのカフェのテーブル片付けてた磯谷先輩は、もう舞台上に通じる階段を駆け上がっていた。慌てて後を追いかけて、上手袖に飛び出すと、ビジネススーツの白川先輩が呆然と舞台上を見つめていた。周りにいるのは19世紀末のパリの衣装をつけた合唱や児童合唱の出演者で、そこに純現代風にビジネススーツの白川先輩が立ってるのがすごく違和感があるなぁ、なんて、全然関係ないことを考えた。非常事態が起きると、人間変なことを考えるもんだよなぁ。
舞台上に集まった群衆の真ん中に、2幕に出てくるパリの街灯がぶっ倒れている。それを引き起こしている舞台方の側から、パリの街娘姿の香奈が立ち上がった。両腕に女の子を抱えている。「どいて!」と叫ぶなり、上手袖から猛然と楽屋に向かって駆け出していく。抱えている女の子だって中学生くらいの結構大きな子なのに、軽々と運び去っていく姿が男前過ぎて、ちょっと見とれる。いかん、また余計なこと考えてる。
「お姉ちゃん!」と泣き声上げながら追いかけていく女の子の背中を見送って、そっちを追いかけようか、と歩み出すと、「有沢!」と磯谷先輩が声を上げた。半分悲鳴のような声。慌てて舞台の中央、さっき街灯が倒れていた場所に駆け寄ると、磯谷先輩が呆然とセットの壁際に置かれた絵を見つめていた。絵、ではない、絵であったもの。
「『野外コンサート』が」磯谷先輩が呟いた。「やられた。」
磯谷先輩と私がいる舞台上は、1幕のボヘミアン達が暮らす屋根裏部屋のセットだ。当日午前中、本番直前の返し稽古で、3幕、2幕、4幕、1幕、と抜き稽古をやる段取り。それであれば最後は1幕の舞台セットの状態で開演をむかえられる。2幕の抜き稽古がおわり、小休憩の間に、4幕、つまり屋根裏部屋のセットに場面転換の作業中だった。
「合唱の人が街灯の電源コードに足引っかけちゃったらしいです」舞台上にいたマルチェッロさんが言った。「街灯が倒れかかる所に児童合唱の子がいて、なんか、かばおうとして一人怪我しちゃったみたいで。」
「有沢、角材持ってきて!」磯谷先輩が尖った声で言いながら、絵の残骸をかき集め始めた。「はい!」と舞台袖に駆け出しながら、急に涙出そうになる。磯谷先輩は、あの破壊された絵を、ガムテと角材で開演までに修復する気だ。街灯の先端に、木枠ごとグシャグシャに破壊されてしまったあの絵。
華やかな色が夢のような『野外コンサート』の絵を。
時間がない。舞台袖に集積してある角材の中から、丁度いいサイズのものを選んで振り返ると、磯谷先輩が舞台袖に、絵の残骸を抱えて駆け込んでくる。舞台上は4幕への転換がほぼ完了している。千葉さんが下手の操作卓からこっちに走ってくる。
「抜き稽古始めるぞ。そっちは任せたからな」言うなり、下手に駆け戻る。磯谷先輩が絵の残骸を広げ、角材を裏に当て始めた。なぐりを腰から引き抜く。「有沢、あんた、子供の様子見てきてくれるかい?」
「はい」頷いて立ち上がった。間に合うか。いや、間に合わせるんだ。現実には存在しない夢の世界を舞台上に作り上げるのが私たちの仕事だ。壊れたものだって、すぐに元通りに直してみせる。
私たちは、舞台裏の魔術師だ。
私は楽屋に向かって駆け出した。「4幕抜き稽古始めます!」千葉さんの声がホールに響いた。
「ラ・ボエーム」開演前 直前リハーサル 演出卓
「結奈は歩けそうにないんで」香奈が演出卓の真ん中に座った幹代先生に向かって言った。「妹の珠里に隊列の先頭やらせます。家で姉妹で練習してたんで、段取り完璧入ってるんです。」
「結奈ちゃん、ソロは歌えるの?」幹代先生が言うと、香奈は頷いた。「私がおんぶして入場します。いけると思います。」
幹代先生は一瞬、香奈の顔をじっと見つめたけど、それ以上何も言わずに、舞台上に視線を飛ばした。舞台上に、磯谷先輩が応急措置した『野外コンサート』の絵が置かれている。緑と青とピンクの鮮やかな色彩の中で、オーケストラが楽しげに演奏している絵。侘しい屋根裏部屋の中で、そこだけが、若いボヘミアン達の未来を寿いでいるような明るさで、それが今回のコラボ企画の一つの目玉でもあった。はずだった。
今、舞台上に置かれているのは、何だか「夢の残骸」のように見える惨めな絵だ。破壊されたカンヴァス枠を裏から角材で補強し、絵の裏からガムテで、カンヴァス布の破れた場所を補強してあるのだけど、一旦引き裂かれてしまった無数の傷跡が、客席の中央にある演出卓からもはっきり見える。磯谷先輩の精一杯の魔法でも、ここまでだったか。
「あの絵は諦めるしかないな」幹代先生が呟いた。「磯谷さんに、ありがとうって伝えてくれる?よくやってくれたって。」
悔しいけど、仕方ない。明日以降なら、オリジナルの絵の画像データを拡大してポスター印刷したもので代替できるだろうけど、流石に開場まで1時間切っている今の時点では難しい。私は頷いて、舞台裏の関係者控室でへたり込んでいる磯谷先輩にどう伝えようか、一瞬考え込んだ。その時、舞台上から声が響いた。
「幹代ちゃん!」
会場の隅々まで響き渡る、オペラ歌手のような輝きのある声。ステージの真ん中で、濃いブルーの色合いのパンツスーツの女性が傲然と立っている。ブルーのスーツの襟には花束を思わせる七色のジュエリーに輝くブローチが飾られていて、スーツの下のブラウスの襟を飾るフレアに細かい銀糸の刺繍が舞台照明を反射してキラキラ光っている。シンプルなシルエットなのに、ただ立っているだけで漂うゴージャス感。舞台袖にいる白川先輩が、何だかオロオロとこちらを窺っている。
「これ使いなさい!」と、ステージの中央に立った圧倒的なオーラを纏った女性が、自分の足元からひょいと絵を掲げてみせた。幅130センチくらいあるかなりのサイズの絵なのに、この人が持つと随分小さく見える。そして、その額の中に溢れる鮮やかな色彩。
「華江、本気?」幹代先生が立ち上がって叫ぶ。なんだろう、客席の幹代先生とタイマン張ってる感じ。下手に2人の間に立つと、バチバチ弾ける火花で一瞬で灰にされそうだ。
「いいのよ。私の絵だから。」
言うなり、舞台上の女性はクルッと踵を返し、セットに置かれた磯谷先輩の必死の修復作品を片手でひょいとどかした。舞台袖からバネじかけの人形みたいに飛んできた白川先輩の手にそれを渡すと、自分が持ってきた絵を同じ場所に置く。
「幹代先生、ひょっとして、あの絵って」私はやっと事情を理解し始めた。
「ロビーに展示する絵持ってきやがった」幹代先生が珍しくあまり品のない言葉遣いになる。顔に浮かんでいる苦笑い。「みなみちゃん、ちょっとロビーの様子見てきてくれる?展示コーナーどうする気なんだ、あの女。」
舞台上を見ると、紛れもない、毛利さくらのママ、桜園音楽大学理事長、毛利華江その人が、自分が置いた絵を少し離れて見ていた。そして、ちょっとセンター寄りに場所を移す。「幹代ちゃん、この場所でいい?」そう言って、自分は少し袖の方に移動する。
「カンペキだよ」幹代先生が、演出卓に座り直して、マイク越しに言った。舞台上に置かれた鮮やかな色彩が、数センチ動いただけで光を増したように見えた。
ロビーに出ると、空っぽの展示ケースの前の床に毛利が這いつくばっているのが見えた。人の形をした巨大な花のよう。「何してるの?」
振り返った毛利の目がピンクの可愛いボンネットの下で血走っている。「そこのポスタル取って!」
足元に転がっているピンクのポスタル取って手渡す。毛利が這いつくばっている床の上には模造紙が広げてあって、その真ん中に「野外コンサート」のカラー写真が貼ってある。その写真の上に、毛利の手書き文字で大きく、
「本日、特別展示!舞台上にご注目下さい!」の文字が踊っている。なるほど、これを展示ケースに貼り出す気だな。
「理事長から頼まれたの?」私が聞くと、肩から流れ落ちる黒髪をかき上げて頷いた。「悪い、髪ゴム持ってる?」
私は自分の髪をまとめている髪ゴムを外した。毛利の華やかな衣装にはあまりに似つかわしくない普通の黒の髪ゴムだけど、仕方ない。毛利がポスタル持ってる右手側に髪がこぼれ落ちないように、左側に髪を集める。透きとおるような白いうなじの少し下で髪をまとめてあげた。その間も、毛利はずっと手を動かしている。「ママから急にLINE来てさ。『野外コンサート』を舞台に上げることになったから、展示コーナー何とかしろって。なんだかよく分からないお知らせ文だけ送り付けてさ。無茶苦茶だよなぁ。」
「美術館側は承知してるのかな」私が言うと、「白川先輩恫喝したんでしょ」と言う。自分の母親を反社会勢力の人みたいに言うなぁ。「毛利コレクションは、美術館に寄贈したわけじゃないのよ。管理のために長期貸与してるっていう整理になってて、まだ所有権はウチにあるの。だからどう使おうが自由だし、何があっても誰も責任は問われないって理屈ね。」
「舞台上で白川先輩オロオロしてたよ」って言うと、大きな文字の周りにお洒落な飾りを描いていた毛利の手が一瞬止まった。「白川先輩、舞台側にいるの?」
「午前中からいたね」私は言った。「事故の時にも舞台にいたし。」
「さくらさん、開場30分前です!」受付からスタッフの声がして、毛利の手が猛然と模造紙の上を走り始めた。「じゃ、私は舞台に戻るよ」って言ったら、振り返りもせず、左手のサムアップだけの返事。こっちは毛利に任せて、私は持ち場に戻らねば。
「ラ・ボエーム」第一幕
でもね、雪が溶ける時が来たら、
初めての太陽は私のものなの!
四月が最初にキスをするのは私なのよ!
鉢植えの薔薇も芽吹きだす。
一枚一枚の葉を覗いてみる。
花の香りは本当に優しいの!
でも、私が作る花には、ああ!香りがないのよ。
貧しいけれど、夢に溢れた若者たちが共に暮らす屋根裏部屋。仲間たちが街に繰り出した後、一人残って文章を書き綴る詩人のロドルフォを訪ねてくるのは、お針子のミミだ。つましい暮らしの中で、近づく春の予感に高鳴る胸の鼓動を歌うミミ。ロドルフォじゃなくっても、このミミに恋しない男なんかいないだろう。そして二人の傍らには、画家のマルチェッロが描いたのだろう輝かしい色彩の絵が置かれている。ミミの目に浮かぶ春のパリのよう。でも、その花の絵には香りがないんだなぁ。
舞台袖には、2幕に登場するパリの群衆役の合唱陣が次第に集まってくる。パリの少女の姿をした小夜が側に寄ってきた。「あれ、展示されるはずだった絵なんだって?」と囁いてくる。頷くと、「綺麗な絵だよねぇ」と言うなり、急にポロポロ涙をこぼし始めた。な、何事だ?
「だって、ミミがかわいそうじゃん。春の日差しは私のものって歌ってさ。あの絵みたいに綺麗な春が来る前に、病気で死んじゃうんだよ。ロドルフォと春を過ごすこともできずにさぁ。ひどくない?」と言って、また涙をポロポロこぼす。あんた、どこまで心がキレイなんだ。
「小夜、また泣いてんの?」と、香奈がやってきた。「怪我した子、大丈夫?」と囁くと、しっかり頷く。「大丈夫。私がしっかり支えて歌わせて見せるさ。私の筋肉を信じなさい」と、力こぶを作って見せた。
「それより、白川先輩、あっちの椅子で頭抱えてたけど、大丈夫?」と、香奈が言う。まぁ頭痛くもなるわな。120年前に描かれた価値ある絵が、その他の大道具と一緒に歌い手さんの足元に無造作に置かれてるんだから。ボヘミアン達が家主のベノアさんを追い出すシーンとか、握りしめた両手の指の関節真っ白だったもんなぁ。
「香奈先生」小さな子が香奈のそばにきて囁いた。「どうした?」と香奈がしゃがみ込むと、耳元で何か囁く。香奈が、ちょっと厳しい表情になって、上手袖の奥に歩き出した。ロドルフォを呼ぶボヘミアン達の合唱が聞こえる。
モミュス、モミュス、
我らが詩人が詩を見つけたようだぜ!
香奈が戻ってきた。小さな女の子の手を引いている。俯いていて、顔がよく見えない。パリの子供の衣装をつけた、児童合唱の子だな。
「珠里、見てごらん」香奈が座り込んで、女の子を後ろからぎゅっと抱きしめながら言う。「舞台の上に照明が当たってきれいでしょう。次の幕ではもっときれいになる。ここがパリの街になる。そこで、珠里がみんなの先頭に立って歩くんだ。」
「ムリ」女の子が半ベソかきながら言う。
「結奈姉ちゃん、練習の時、カッコよかった?」香奈が言う。
女の子は頷いた。
「みんなに褒められてたか?」香奈が言う。こっくり、また頷く。
「珠里だって、上手にできるのにって、悔しくなかった?」
女の子は固まっている。香奈が女の子を抱く力を強める。
「珠里の方が上手にできるよって、思わなかったかい?結奈姉ちゃんばっかり褒められるの、悔しいって思わなかった?
「珠里、あんたの方が上手にできるかもしれない。結奈姉ちゃんも、ママもパパも、珠里すごいなぁって言ってくれるかもしれない。」香奈は女の子の頭をキュッと撫でる。「あんたを守った結奈姉ちゃんがくれたせっかくのチャンスだ。珠里ならできる。結奈姉ちゃんをびっくりさせてやろう。お姉ちゃんが悔しがるくらい、上手にやってやろう。」
「香奈は子供乗せるの上手だなぁ」駆け出していく後ろ姿見送って、私が言うと、「あの子はね」と香奈が言った。「お姉ちゃんへの対抗心とか、負けん気強いから、そこを刺激してやると途端に気合入るのさ。いい子だよ。
「子供はいいよ。分かりやすくて」香奈は言う。「私、学校の先生って天職だと思うんだよなぁ。どこの学校でもいいから、なんとか潜り込めないかなぁ。」
そうか。突然気がついた。香奈は別に、オペラ歌手になれないから先生になろうとしてるんじゃない。先生になりたくて、そのために必要なことを、オペラ舞台から学んでいるんだ。
私の大好きなオペラ舞台。この夢の舞台に関わる人は、みんなこの舞台を仕事にしたがってるって思い込んでた。そんなわけない。人がなりたいもの、将来の夢は様々だし、そこに優劣なんかない。自分がどこかで傲慢だったのかもって、ちょっと顔が赤くなった。
下手袖中で、ミミとロドルフォの二重唱が終わり、幕が静かに下がってくる。ため息をつくような短い間の後に、客席をゆっくりと拍手が包む。下手袖で磯谷先輩がスタンバイしているのが見える。さあ、舞台裏の魔法使いの出番だ。
「ラ・ボエーム」1幕〜2幕 幕間
千葉さんがセリの上に立つよりも一瞬早く、上手袖から脱兎のように飛び出した白川先輩が、野外コンサートの絵の側に駆け寄った。絵を抱え込むように持つと、千葉さんに向かって頷く。千葉さんが下手操作卓へ指示を出すと屋根裏部屋のセットがゆっくりと奈落へ沈んでいく。その前に、下手側の扉からミミが中を伺う踊り場のセットは、既に磯谷先輩の手で切り離され、下手袖の方に移動している。
奈落は千葉さんが行くのか、とちょっと不安になった。あの絵があるなら仕方ないか。本当なら、舞台上の転換仕切って欲しい所なんだけど。
磯谷先輩が、千葉さんの代わりに舞台転換を仕切る。屋根裏部屋のセットの裏、ホリゾント幕の間に仕込まれたパリの街角の大階段を、磯谷先輩と私と転換スタッフで、奈落に張り出すようにセットする。セットの下にタイヤが仕込まれているので4人くらいでも軽く動く。ストッパーを後方につけて、五寸釘をなぐり(トンカチ)で打ち付けて床に固定。オペラハウスの床にはこうやってセットを固定した釘の穴がいっぱいだ。それを見るたび、ちょっと切ない気分になるのは私だけかな。
舞台上手袖と下手袖から、そして舞台奥から、それぞれに舞台中央に向かって押し出してくるのは、カフェ・モミュスのセットや、階段の両側に迫り出してくる遠景の建物の書き割り。これだけ奥行きが出るのも遠近法のマジックだよなぁ。お騒がせの元凶になったパリの街灯を出しながら、2度と誰かが引っ掛けないように、電源コードを養生テープでセットの裏側に固定する。舞台上の構造物は全て転換しやすいように仮置きになっているけど、出演者の安全を守るために必要なことをしっかりやらねばならない。それを怠ったから、事故が起きた。
奈落からセリが上がってきて、カフェ・モミュスのテーブルや椅子がわんさと乗ってくる。千葉さんが両手に椅子を抱えて合流する。舞台上はもうすっかりカルチェラタンの通りだ。お客様が拍手してくれること間違いなし、もし拍手が出なかったら、拍手することも忘れるほどの出来栄えだったってことで。
楽屋に合唱のスタンバイ確認しに走った時、スマホに毛利のメッセージ見つけた。「悪い、忙しいと思うけど、できたら電話くれ」
「どうした?」楽屋の香奈にスタンバイ確認して、すぐ電話すると、「悪い、一つ確認したいんだ」と毛利が言う。
「午前中の抜き稽古の舞台に、白川先輩がいたんだね?」
「いたよ」私は答える。何が引っかかってるんだ?
「2幕の転換の時も?」毛利が言う。
「いたよ。千葉さんと一緒に奈落に降りてった。」
「奈落」と、毛利は繰り返した。「有沢。一幕を客席から見てて、確信したことがある。多分間違いなく、今回の公演の裏で、全然別の企みが進行している」毛利が言った。企み?
「そして多分、その企みの1番の被害者は白川先輩だ」毛利が苦々しげに言う。「白川先輩をいじめた悪者を成敗せねば。」
「誰のことだよ」私が言うと、「我が母君である」と言った。何で急に時代劇?
この「オペラ探偵」シリーズに出てくる登場人物は、何かしらさくら学院の卒業生や関係者にルーツを持っていますが、唯一オリジナルの創作なのが、毛利さくらの母君、桜園音楽大学理事長、毛利華江さんでした。なんといっても毛利さくらの母君ですから、相当の存在感を持って周囲を圧倒して欲しい、ということで、かなり派手な登場シーンを用意しております。この母君の「企み」を見抜いた毛利さくら。「企み」の詳細は次回明かされます。お楽しみに。