ある種無情の体は軋む
その蔵に巣食う一陣の結界は、心あらぬ人形に一抹の意志を投げかけた。
「――――――」
人形は、心もないのに目が覚めた。
蔵の地面に這う赤緑の結界は、人形を囲むようにしながら断続的に発光する。
「わ、たしは」
硝子の仮面は声を出す。小我も大我も存在しない、無垢で無心な結晶のさざ波を具現化したコトバの羅列。
「ココ、はとてもあたたかい、です。きもちが、いい」
揺蕩う光は人形の胸に一つの燐光を宿らせた。
「あ、―――ああ」
その体はピクリと軋む。次に光はゆっくりと輝きを強め、終わりには残光。静かに、沈むように。
「―――はあ、ふう。ココ、はとてもしびれて、せかいがくらくら」
沈む光は人形の胸にまた一つの燐光を宿らせた。次に光は大きく輝きを発散させ、煌めく閃光は人形の周りを埋め尽くした。
「あ―――はは。このカタチはゆめのよう。ココはとてもあかるくて、きれい」
煌めく閃光は人形の胸に唯一つの燐光を宿らせた。最後に光は小さく、薄く伸縮を繰り返す。光はひたすらに鈍く、痛ましい程のおぼろげさに変わり、最後には人形の胸に宿る燐光を残して、消えかけた―――――
「ど、どうして! これ、でおわり、なの! ひど、い――――――」
芯を持った悲鳴がこだまする。悲鳴は不満へと変わり、不満は怒声へと変転する。
「ユルセナイ。ゆるせない、許せない――――――!」
人形の胸が暴力的な光へと錯綜していく。
人形の悲鳴と曳光が、冷たい蔵の中を弾けながら―――収まった。
少女の胸には四つの燐光が。
少女は立ち上がり、出口を目指した。振り返ると、地面の結界は満足そうにその光を漂わせていた。