行け、角田艦隊
架空戦記創作大会2020秋参加作品。お題は3。ミッドウェー海戦で南雲機動部隊の空母を6隻とする架空戦記になります。あれ、厳密には南雲部隊じゃないかも(笑)。
二式艦爆。
あの世界線では艦偵じゃ無くて艦爆。天山は護エンジン装備型。
烈風? さすがに無理です。あっちの世界線で多少は技術が進んでると仮定しても。
「南雲機動部隊、全滅」
A!が無機質な声で伝えてくる。
赤城、加賀、蒼龍がまず不意打ちで打たれ、最後まで奮戦した飛龍も炎に包まれて撃沈寸前だ。対する敵は空母三隻が健在、このままだと潜水艦がホーネットを討ってくれるが、空母四隻の代金としては、少々、高すぎるだろう。
「ここまでは史実通りだな」
男はうそぶいて手前のコンソールを操作した。軽い電子音がスイッチを入れる度に反応を返してる来る。
「さて、日本には勝って貰わんと」
画面が別の機動部隊を映した。別の海域にいる日本軍部隊であるが、まだミッドウェーの大敗北の事は知らない様子である。
「歴史介入になるな、たが……」
◆ ◆ ◆
数日前から第二機動部隊はおかしかった。
現在位置が全く不明なのである。無線も空電ばかり応答ガ無く、視界ももやが掛かっている様なミルク色の霧に包まれ、偵察用の艦載機すら発進出来ない。
「此処は何処なのだ」
「コンパスは直ったのか」
司令官は艦橋内の喧噪を耳にしつつ、ただ目を瞑っていた。
最初の内は、何とか事態を打開せんと様々手なを打ったが、全てが徒労に終わった今は、こうして事態が動くのを待つのが吉と判断し、こうした待ちの戦法に入ったのである。
「晴れた!」
誰かの声が響いた。司令が瞼を開くと、そこには「万歳」を叫んで歓喜を表現する人々がが見えた。あれだけ視界を塞いでいた霧が、綺麗さっぱり消えている。
「コンパスも正常に戻りました」
「しかし、ここは何処でしょう。北太平洋とも思えませんが」
第二機動部隊はアリューシャン作戦を実行中で、予定ならダッチハーバーを攻撃する予定だった。 しかし、ここ数日間の異常現象で、攻撃は愚か、自艦隊の位置すら不明な状況で、作戦スケジュールは大幅な修正を余儀なくされていた。
「時間は夕刻だな」
「前方に煤煙!」
報告があって近づいた第二機動部隊の皆は口をポカンと開けた。見慣れた艦、自軍の空母が燃えているのだ。
「ありゃ、第一機動艦隊だ」
確かに主攻撃部隊だ。アリューシャン作戦はこのミッドウェー作戦を支援する支攻撃だった筈で、となると艦隊は、北太平洋から遥かに離れた南方にいると言う事か。
「静かにしろ!」
司令が騒ぐ皆を沈めた。何がどうなっているのかは知らないが、味方が壊滅した状況で、今、軽空母が二隻のみとは言うものの、稼働する戦力があるのだ。
「向こうの旗艦になっている船と連絡を取れ、それと飛行隊の発進準備急げ」
ともあれ状況を知る必要があった。目に見えている限り、第一機動部隊には無傷の空母は残っていない様子である。となると、にっくき米軍に刃を突き立てるのはこの隼鷹と瑞鳳しかないではないか。
◆ ◆ ◆
第二機動部隊は、余り物の空母で編成されたばかりの新米艦隊だ。
空母隼鷹は大型客船を改装したばかりの改装艦だし、乗組員も新たに編成されたひよっこ集団だ。瑞鳳も給油艦の改装艦だが、乗組員は日華事変以来、第一線で活躍していたベテラン勢を空母、龍驤から引き抜いた連中なので頼りにはなる。
艦載機も採用されたばかりの新型だ。
ただ、元々、港湾攻撃用に陸用爆弾が搭載してあったので、対艦攻撃にはやや不安がある。
魚雷や徹甲弾もあるにはあるが、搭載機の半分は対艦装備で出撃不可能だし、もし、もう一度、反復攻撃になっても、当然、これらの予備は無い。
「当てられれば構わんわい」
豪放な角田司令は言い切った。
一応は爆発物なのだ。卵やボールを敵艦に当てるのとは違う筈だった。
第一機動部隊から報告を聞くと、直ちに第二機動部隊は出撃準備に移った。出撃準備を終えた零戦33型が轟々と爆音を響かせ、水冷発動機が特徴の二式艦爆が翼を振りつつ発進してゆく。
最後に天山が飛行甲板を離れると、乗組員一同は帽ふれの体勢で乾坤一擲の攻撃隊を見送った。
◆ ◆ ◆
謎のミッドウェー海戦。
昭和17に年に起こった事件である。光明の世から遥かに昔、もう80年も前になる不思議な大戦果、米軍の空母三隻を相手に日本海軍が戦った史実だ。
いや、史実と言えるのか。
空母エンタープライズ大破、ホーネット、ヨークタウン撃沈。だが、この時、攻撃を仕掛けた日本軍部隊はどこにも存在しないのだ。
何故なら、第二機動部隊と呼ばれる艦隊は遙か彼方の北太平洋に居たからだ。当然、艦隊はAL作戦に従事しており、ミッドウェーには参加していない。
ダッチハーバー攻撃で零戦が不時着して無傷で鹵獲されるエピソードなんかも発生している。では、ミッドウェーに参加した二隻の空母は何だったのか?
「そう言えば……」
当時、無電を担当していた通信兵がおかしな事を話した。
「角田中将の名が、《かくた》ではなく、《かくだ》だった様な」
又、彼らの使った艦載機が変だった事。空母が龍驤ではなく、翔鳳型であった事などが語られるが、ミッドウェーで戦果を上げた事だけは間違いない。
幻みたいに消え失せると言うおまけ付きだが、日本軍が勢力を拡大する貴重な時間を稼いでくれたのである。ただ、折角の戦果もエセックス級の大量建造で昭和19年には元に戻り、最終的には日本は敗戦してしまうのであるが。
光明21年(2020年)、軍事雑誌「角」1月号より転載。
◆ ◆ ◆
「何か言いたい事はあるかね」
次元審問官は冷ややかな瞳を犯人に向けた。
時空干渉の現行犯で逮捕された男は、別の世界で起こった結果に満足していた。。
「平成も、令和も訪れなかったぞ」
「時間軸が別の方向にねじ曲げられたからな。良く考えた物だよ。時間にはタッチせず、平行宇宙の存在を呼び寄せて戦うせるとはね」
確かに時間法には抵触しては居ない。未来や過去の同次元の物を呼んだのでは無く、似た様な平行世界の存在を呼び寄せ、歴史を改編したのだから。
まぁ、連中が金星零戦や、彗星や天山を実用化しているのはビックリだったが。
「この装置は没収だ。こいつは時間法に抵触している」
「産まれちまった時間軸をどうする気だ」
「放置だ。向こうにも時間監視局が存在しちまったらしい。消そうとしたらこっちの次元にも関わる」
つまり修正は不可能と言う訳か。下手に手を出したら、向こうの時間軸からの干渉でこっちの次元が破滅しかねない。
つまり、謎の第二機動部隊はまるでマリーセレスト号事件や、、バミューダのアベンジャー事件みたいに、向こうの世界で永遠の謎として語り継がれる訳だ。
「満足か、ギャグレー・角田」
「ああ、日本軍が勝つというカタルシスに溜飲が下がったよ」
「お前には記憶矯正が施されるだろう」
「はん、模範的な市民になれ、か」
38世紀、日本と言う国は存在しなかった。だが、自分の血に混じる微かな先祖の遺伝子を誇りに感じながら、テロリストとなった角田 は満足するのだった。
〈FIN〉
タイムスリップとは厳密には違うと思います。
やや、加筆しました。角田司令は実在のWW2までの人物を出しちゃ駄目との規定なので、平行世界の角田さんにスイッチ、無論、ギャグレーさんは角田の子孫です。