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2019/03/31(8)

8

 木雷がカップを置いた。

「次に各学年の昨年の好評と今年度の運営方針の外観案を提示してもらいたいのですが、その前に終わらせるべきことを終わらせてしまいましょう。」

「とおっしゃいますと。」

鉄が木雷に尋ねた。

「237期生、238期生は2018年度239期生に多大なる支援を受けている。それは各世代が、経営破綻、内政破綻、過度なまでの風紀の乱れをおこしながらだ。その3件すべてを239期生四季秀会会員がホローしてくれたからこそ、今の237期生と238期生があると、我々学部主席会と幹部会は考えています。ですがそれは前年度の話になるわけです。2019年度が始まれば、このことは昨年度の話になる。その前に、きちんと239期生主席に礼を言っておくべきではないですか。ややこしい話はきちんと片付けるべきだ。きちんと片付けたうえで新たに始まる2019年度の話をしたいわ。」

木雷の言葉には容赦というものがない。

「もっと具体的な話をすれば、2018年度四季秀会風紀委員委員長が自らの退学も恐れず、幹部会に意見をしなければ、我々学部部主事会と幹部会は237期生と238期生を見放していたのだ。」

米たちと鉄たちが険しい顔をして、木雷を見ている。

(事前に話しておいてよかったわ。)

愛が部屋を全体的に見ながら思い出していた。

 シルバーズ教育をしていた時、この話題が出ることを推測していた愛は、正雪と光希に昨年高等部で起きた事件とそれに自分がどう関わったかについて話した。

「この後の高等部四季秀会初顔合わせできっと話題に出ることなので、お話しておきますね。」

愛が二人を見た。

「なんだよ。」

「成功学園では、各学年の生徒数が非情に多いため、各学年ごとに生徒会や予算、クラブなどが存在します。それを学部という単位でまとめその学部を学園が

まとめるのです。」

「ええ。」

正雪と光希が頷いた。

「つまり自分たちで学年の運営方針を決めたり、予算の使い道を決めたりするわけです。そんな中、私たちの1学年上の238期生が昨年経営破綻と、内政破綻をしたのです。どういうことかわかりますか。」

「経営破綻、つまり学年に割り当てられた予算の使い方を誤ったということですか。」

「金子君そのとおりです。内政破綻とは、生徒会や四季秀会会員の中で仲間割れが起き、学園を運営していくはずの組織が十分な機能を果たすことができなくなったということを指します。」

「それってやばいんじゃねえの。」

「菊高君そのとおりです。学園では経営破綻の申請がされた学年に、経営再建

マネージャーを付ける制度があります。それは、その学年のできるだけ近い学年の

主席から選ばれるのですが、それに私が選ばれました。」

「なぜですか。水晶さんは238期生の後輩に当たるでしょう。僕のイメージだと

そういったことは先輩にいきそうな気がするのですが。」

「私たちの2学年上に当たる237期生は別の問題を抱えていましたから、私に

なったんです。」

「237期生は何をやったんだ。」

「経営破綻と過度なまでの風紀の乱れを起こしていました。」

「経営破綻はわかりますが、過度なまでの風紀の乱れとはどういう意味ですか。」

「言葉のままの意味です。成功学園では校則と寮則の2種類を規則として定めています。

それに違反すると、内容によって異なる違反ポイントが課されていくのです。学年で

一定の違反ポイントをためてしまった場合は一定のハンデや指導を段階的に加えることに

なっているのです。237期生はたった2か月で、最も重い指導のランクマで行って

しまいました。」

「それまでにも何段階かステップがあったんだろ。それなのにどうして歯止めが

きかなかったんだ。」

「集団での規則違反が多く、あっという間にポイントが上がってしまったんです。」

「1回の規則違反掛ける複数人ということですか。」

「はい。」

「それで。」

「昨年私は四季秀会風紀委員の委員長をしていました。そのため、風紀委員委員長として

規則を守っていただくための完全指導に当たりました。」

「いろいろなホローを水晶さんがしていたということですね。」

「はい、238期生の経営再建マネージャーと、238期生の内政破綻申請によって私が

選ばれた一時的包括者としての仕事と、237期生の風紀完全教育をすべて私がやって

いました。」

「大変だったな。」

「まあここまで高等部が荒れること自体珍しかったので、比較のしようがないほどに

大変でしたが、これよりも大変なことが起きました。」

「まだ何かあったのですか。」

「この高等部の状況を芳しくないと思った幹部会と学部主事会が238期生から236期生が

在学する高等部に落第評価を与えようとしたのです。」

「落第ですか。」

「はい。成功学園では半年に一度各学部と学年に学部主事会と幹部会から評価が

与えられます。その評価に応じて、予算が増えたり、与えられる権利が

変動したりするのですが、落第はその評価の中で最も低いものです。この評価が

されれば、予算は凍結され、学年の運営はすべて学部部主事会に一任されます。成功

学園の長い歴史の中で、落第評価が与えられたことは未だかつてありませんでした。」

「当然といえば、当然じゃねえか。それだけひどい状態だったんだろ。」

「そうでしょうか。236期生は完全なとばっちりだと思いますが。」

正雪が光希を見る。

「236期生もいろいろと荒れていたのでとばっちりではありません。ただ、学園の生徒

全員が経営破綻や内政破綻、過度なまでの風紀の乱れに関与しているかと言われれば、

そうではなかったのです。そこで、学部全体に落第の評価を与えるという結論に私は

違和感を覚えました。生徒たちが将来大学への進学や就職をする中で学園史上初めての

落第評価を与えられた世代だと言われれば、とんでもないイメージダウンに

つながります。」

「たしかに。」

「それでどうしたのですか。」

「学年部主事会と幹部会に意見をして、落第評価の決定をくつがえさせました。」

「そんな簡単なことなのか。」

「いいや違うよ。」

黙って話を聞いていた白旗が口を開いた。

「成功学園内で学部主事会や幹部会はとんでもない権力を持つんだ。水晶さんだって、

一歩間違えれば退学処分になるところだったんだよ。本来、幹部会の決定に意見を唱える

ことなんてもってのほかなんだ。」

「水晶さんはわかっていたのでしょう。」

「はい。」

「わかっていたなら、なぜそうしたのですか。」

「私がなんらかの形で高等部に関わっていたからです。経営削減マネージャーとして、

ようやく作業が軌道に乗り始めたところでした。一時統括者として、新たに学年運営を

任せることのできそうな人材を見つけ出したところでした。風紀を守ることへの理解を

求めるための教育プランを立てて、ようやく実行に移せるところでした。ここまで

やらせておいて、落第評価を突きつけるというのはどうしても不服だったのです。

それに、落第評価を与えられることで、自分たちが落ちぶれていると思った生徒たちは

それ以上自分たちの力で現状を変えようとはしないでしょう。低い評価をその時の

状況だけで下すのは安易な考えです。」

「って幹部会に意見をして、スピーチをして、幹部会の意見をくつがえしたんだ。その

あとが大変だったみたいだけどね。」

「そうですね。毎年主席になっているので、ただでさえ顔を覚えられているのに、余計に

覚えられました。何より幹部会にたてついた生徒というふうに覚えられたので。」

愛が苦笑いを浮かべた。

「私が幹部会に申し立てをして、学部全体への落第評価を撤回させた後、学部部主事会と

幹部会は落第の評価を撤回する代わりに、個人への指導に切り替えました。これで

関係のない生徒はこれまでと何ら変わらない日常を過ごすことになったのですが、

現在このことを高評価している生徒と、低評価している生徒の二通りに

分かれているのです。」

「どうしてだよ。指導を受けるべき生徒が集中的に指導を受けて、関係のない生徒には

何もなかったんだろ。一番公平で話がまとまる形じゃないか。」

「僕もそう思いますが。」

「後輩が先輩の顔をつぶした。古株の主席が中学生の分際で高等部を動かしている。

高等部に大きな恩を売った中学生が、大きい顔をしているみたいな悪口が高等部の中で、

少なからず広がっているんだ。」

「もちろん真実とは異なります。私が自ら進んで行ったことは幹部会に意見した

ことだけで、後はすべて四季秀会会員や学部部主事会の先生方が決めたことです。

それでも人間ですから、妬みや嫉みはでてきます。それが形になった結果、このような

悪口が広がったのだと私は考えています。もし、こういった悪口に対して肯定的な

学生が、今年度四季秀会の中にいれば。」

「僕たちは動きにくくなりますね。」

「はい。」

部屋の中がしんとした。

「水晶が悪いことをしたんじゃないんだろ。だったら、俺らが気を使って小さくなる

必要はねえよ。」

光希が大きく頷いた。

「ええ同感です。私たちは胸を張っているべきです。」

白旗が正雪と光希を見て、愛に微笑みかけた。

「よかったね。」

「はい。」

愛が三人を見てほっと顔をほころばせた。

 木雷の言葉に最初に答えたのは米だった。

「おっしゃる通りです。」

米が起立して愛を見た。

「前年度は238期生の経営破綻にたいして、経営担当マネージャーとして財政を

立て直していただいたこと、また内政破綻にたいして一時的統括者になり、内政の

立て直しに尽力いただきましたこと、心より感謝申し上げます。今年度は

あのようなことが起きぬよう、努力いたします。」

米が愛に頭を下げた。愛はフォーカーフェイスのすまし顔のまま米を見た。

「とんでもありません。今年度は安定した1年になりますことを願っております。」

米が頭を上げて愛を見た後、木雷に視線を移した。

「いいでしょう。」

米が着席する。

「237期生主席、あなたは何も言わないおつもりですか。」

鉄が愛をじっと見てため息をついた。

「前年度の失態の謝罪は前年度の主席にさせるべきです。わたくしのうかがい知らない

ことですね。」

「原則として、前年度の引継ぎをした四季秀会主席は、前年度起きた案件の一切を

負うものである。ゆえに、現237期生高等部3年主席である強歩君が239期生高等部1年

主席にたいして感謝の言葉を述べることは当然のことだと思いますが。」

鉄はだまったまま何も言わない。

「何も言わないというのならそれでけっこう。しかし、今回のその態度で239期生主席が

どのような対応を今後237期生に対して行おうとも、私はその一切の責任を持ちません。

その覚悟は持っているように。」

「239期生主席は、年上の私に対して、無礼な行いをするような人物ではないと評価して

おります。」

鉄が愛を見た。

(どうしたものかな。)

愛がゆっくり目を開けて、鉄を見る。

(余裕の表情。浅はかなことね。私としては237期生のホローが一番

大変だったのですが。)

愛が頷いた。

「もちろんです。偉大な先輩である237期生高等部3年の諸先輩方に対して、無礼な

ふるまいなどけしていたしません。239期生主席として238期生高等部2年生の諸先輩方、

また237期生高等部3年の諸先輩方とは、今後とも友好的な関係で在り続けたいと

考えております。ですが。」

愛が一瞬黙った。

(釘はさしておいてもよさそうね。)

愛が微笑みを浮かべて鉄たちと米たちを見た。

「一つ申し上げさせていただきますと。」

愛が少し間をおいて話し続けた。

「わたくしが高等部に上がりましたからには、学部部主事会並びに幹部会の皆様に

落第などという評価をされぬよう、行動させていただきますので、そのおつもりで。」

愛が木雷を見た。

「それでいいのか。今回は立場上、237期生に対して謝罪をもとめることも

できますが。」

「とんでもありません。わたくしはなすべきことをなしたまでです。」

「そうか。」

「はい。」

「わかった。ではこの話はここまでとしよう。各学年の昨年の公表と今年度の運営方針に

関する外観案を提示してくれ。」

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