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2019/03/31(6)

6

 白旗がノックをして、扉を開け、三人が中に入った。

「失礼いたします。」

愛が白旗の次に入り、この後ろに正雪と光希が続く。

「僕たちが一番みたいだね。」

光希が扉を閉めて四人が部屋の中を見回す。

「ここが会議室ってか。」

「いろいろと僕たちが慣れ親しんでいる時限とはかけ離れていますね。」

部屋の中はだだっ広く、奥に大きな窓があって、床に絨毯が敷かれている。

あとは天井に美しい照明が吊るされていて、壁には著名な画家が描いたような絵が

飾られていた。

「さあ5分でセッティングをしますよ。先ほど説明したとおりに配置してください。」

「わかりました。」

「おー。」

「水晶さん、倉庫の場所わかる。」

「はい、なんとなくならわかります。」

愛が棚やウォーターサーバーが置かれていない壁の方へ進んでいく。正雪と光希がよく

わからない顔をしながら、愛について行った。

「会議室の壁のどこかに隠し扉のような場所があります。この部屋だったら、

ここですね。」

愛が立ち止まって、壁の小さな黒い丸に指を置いた。すると、丸の右にある小さい穴が

点滅して、電子音が流れた。

「開閉いたします。指を離してください。」

愛が黒い丸から指を離すと、壁がゆっくり動いて、70センチほど壁が動いた。

「自動ドアの壁バージョンだと思ってください。」

愛が二人に中へ入るよう促した。

「さあ、時間がありません。三人掛けのテーブルを4客出して正方形になるように部屋の

中心に出してください。壁側と扉側の3辺の机には椅子を一定の間隔を取って3客おいて、

窓側の辺の机には中央に1客椅子を置いてください。扉側と壁側の辺には机の外側に

二人掛けの机を置いて、その奥に椅子を1客ずつ置いてください。そこに、各学年の

主任の先生が座られます。」

「了解。」

「わかりました。」

三人でてきぱきと作業をしながら、愛が窓を見た。

「金子君、その椅子を置き終わったら、カーテンをしめましょう。この時間帯はこの

部屋に日が差すので、レースのカーテンはしめておいたほうがいいでしょう。」

「そうですね。」

椅子と机のセッティングを終えて愛が時計を見た。

「まだ時間はありますね。」

愛が部屋の扉を開けて、廊下のカートを見た。

「この花を飾るのですか。」

部屋の中にいた正雪と光希が愛の持ってきた花束を見た。

「それは。」

「新年度を祝う花束です。こういった顔合わせの時は部屋に飾るのが

しきたりなのですよ。」

愛が花瓶をもって部屋を見回した。

「この間取りだと。」

愛が壁に置かれた棚の上に薄いタオルを敷いてその上に花瓶を乗せた。

「それは感覚的なものですか。」

「いいえ、部屋の間取りや顔合わせのメンバー、誰がどこに座るかなど総合的に考えて

答えを出します。こういった席に出席することが多いので、知っているだけですよ。」

愛がもう一度時計を見た。

「そろそろ2年生の四季秀会の皆様が来られる時間です。」

愛が扉から見て正方形の右側の三人掛けの真ん中に座った。

「先輩が来るなら立って待ってないといけないんじゃないのか。」

「いえ、先輩たちがスリーノックをしたときに、自分たちの席で起立すればいいですよ。

わざわざ扉の外で待っていると、相手が気を使ってしまうこともありますし、逆に

着席していれば菊高君の言ったように先輩に不快な思いをさせてしまうこともあります。

ならば、自分たちの席のところで扉側を見た後、丁寧に挨拶したほうがいいというのが

成功学園の考え方です。」

二人が頷きながら愛の両サイドに座り、白旗が愛たちの後ろに座った。

 部屋にかけられた時計が、12時50分ちょうどをさしたとき、扉がノックされた。

「失礼いたします。」

愛がぱっと立ち上がり、それにつられて正雪と光希が立ち上がる。

「こんにちは。」

部屋に入ってきたのは三人の学生と一人の教師。

(高等部2年の学年主任は「百八」先生か。これで3年連続ね。去年あんなに

大変だったのに、よく今年も続けたわね。シルバーズは「花岼計」と「承雨貴湯」か。

花岼は昨年の238期生高等部1年生徒会副会長で承雨は238期生高等部1年の女子

バスケット部の部長だったわね。そして主席は「美東米」か。昨年のシルバーズが主席に

昇格したわけだ。たしか小学部から成功学園に在学しているはず。この三人の中で、私と

一番面識があるのは米か。少しめんどうね。)

愛はこの四人をあっという間に誰か把握したが、正雪と光希はそんなこと一切知らない。

「皆さんが239期生の主席とシルバーズの方かしら。」

米の声は上品でとても控えめだった。

「はい、後程改めて自己紹介をさせていただきますが、主席の水晶と申します。

シルバーズは金子と菊高でございます。」

水晶の礼に合わせて、正雪と光希が2年生に一礼した。

「またあなたが主席なのね。私たちも後で自己紹介はするけれど、簡単に名乗って

おくわね。私は主席美東です。あとシルバーズの花岼と承雨よ。どうぞよろしく。」

米が歩き出し、それに二人がついていく。

「水晶さん、ごきげんよう。」

「ごきげんよう、百八先生。」

「昨年度は大変お世話になりました。今年度もどうぞよろしく。」

「こちらこそ大変お世話になりました。今年度もどうぞよろしくお願いいたします。」

米たちが席に座った後、愛たちも座りなおした。扉から見て右側の辺に1年生が座り、

左側の辺に2年生が座る。

「もうすぐ3年生の四季秀会の皆様が来るはずよ。」

米が壁にかけられた時計を見た。

「今回の会議の資料は預かっていないの。」

米が愛ではなく正雪を見た。

「はい、我々の手元にはまだございません。」

「そう。」

愛が一瞬正雪を見た。

(よく対応できましたね。さすがです。)

 12時55分、スリーノックが聞こえて、愛たちと米たちがそれぞれ起立した。

「失礼するよ。」

男性の声がして、扉が開き、部屋の中の全員が扉を見た。

「ごきげんよう、在校生諸君。」

(おまえか。)

扉の奥には三人の学生と一人の教師が立っていた。愛が真っ先に認識したのはその中心に

立つ男子学生だ。そのあと少しずつほかの学生や教員も意識に上ってくる。

(高等部3年主任、並びに高等部副部主事は「気四田」先生か。私のリサーチが

正しければ、かなりの堅物。シルバーズは「火西守」と「公明ジョージ」。二人とも

中学部からの在学で、今までにシルバーズの経験がある。そして主席は。)

愛が四人の中心に立ち、堂々としている男子学生を見た。

(「強歩鉄」か、めんどうね。この中で一番主席の地位に執着しているのは

間違いなく彼だわ。私の二つ上で幼稚部の時からずっと主席になることのみを目標に

し続けてきた彼がようやく主席の座についたんだ。そして、高等部学生最高責任者の

地位も自動的に手に入る高等部3年で主席になった。もともと傲慢で弱者を軽蔑する

考えを少なからず持っている彼が高等部の最高責任者になって大丈夫かしら。)

愛が頭の中で分析をしながら会釈をする。

「どうぞお席におかけください。」

「あー。」

鉄が扉側に一番近い辺の机についた。鉄が座った後、守とジョージが席につく。

(やっぱり3年生にもなると、いや財学歴が長いと、マナーや習慣が身について

いるわね。少しでも粗相をしようものなら、足元をすくわれるわ。)

愛が正雪と光希を見てから歩き出した。二人が愛に続く。

「本日の資料はまだいただいておりません。」

「部主事の先生がお持ちになるだろう。」

3年生が席に着いたのを確認してから、2年生が座り、愛が時計を見た。

(もうすぐ来るわね。)

それから、長い沈黙が続いた。時計で言えば、ほんの数分なのだが、誰も何も

言わないから沈黙を長く感じる。正雪と光希は部屋の空気を敏感に感じ取りながら、愛の

表情を察し、愛は2.3年生の四季秀会会員や学年主任のことを考えていた。

(あとは部主事が誰かですが。)

 1時2.3分になったころ、ようやく扉がノックされた。

「失礼するわ。」

愛たち全員が扉を見た。

(今年の高等部部主事は「木雷」先生か。まあよかったと言うべきかしら。)

木雷が扉を閉めて一同を見た。

全員起立して木雷を見ている。

「どうぞおかけになって。」

木雷が窓側の辺に用意された椅子に座った。

「木雷先生、配布物があったら、お預かりいたします。」

愛が木雷の斜め右に行き、正雪と光希がそれに続く。

「あー、そうね。これを回して。」

「かしこまりました。」

木雷から書類を受け取り、愛が3.4部ずつ正雪と光希に渡した。

「先輩方にお配りしてください。」

正雪と光希が書類を受け取って、2.3年生のところに行く;。

「失礼いたします。」

まずは主席、それからシルバーズ、最後に学年主任に書類を渡す。これは愛が午前中に

こうなることを想定して、二人に教えていたことだった。

「皆様お飲み物はいかがなさいますか。」

正雪と光希を横目で見ながら、愛が部屋にいる全員に問いかけた。

「持参しています。」

米が答えるとシルバーズの計と貴湯も頷いた。

「私はミルクティーをホットで。」

百八が愛を見る。

「コーヒーをいただけるかな。」

「わたくしはお水を。」

「わたくしは塩湯をいただければ。」

「緑茶をいただこう。」

3年生の主席とシルバーズ、百八、気四田が答えた後、木雷が愛を見た。

「「ロマンスコーヒー」をいただけるかしら。」

「確認いたします。プロジェクターの用意はいかがいたしますか。」

「よろしく頼むわ。」

「かしこまりました。」

愛が正雪と光希を見る。二人とも書類を配り終え、プロジェクターのほうへ

向かっていた。

「お任せしてもいいですか。」

「はい。」

正雪と光希の返事を聞いてから、愛が簡易のキッチンに向かった。

(プロジェクターの使い方を教えておいてよかったわ。さて、ロマンスコーヒーは

あるわね。)

愛が手際よく準備をしていく。目上の人の飲み物なら準備をするのが、成功学園の

習わしだ。

(百八先生のほっとミルクティーと気四田先生の緑茶は問題ないわね。強歩ようの

コーヒーはなんでもいいけど、たしか強歩はミルクがないといけなかったはず。

ミルクだけ出すのは間違っていた時、リスクが大きいからミルクと砂糖を両方出そう。

お水はグラスに入れて、確か火西はグラスの8割ぐらいまで入れればよかったはず。

公明の塩湯は塩があるかだけど。)

愛がキッチンの戸棚を見た。

(あった。でも。)

愛がジョージを見た。

「公明さん、塩湯のお塩ですが。」

「「ミグリッドノルト」じゃないとだめだよ。」

(聞いてよかった。)

愛がキッチンにあった塩を見る。

「申し訳ありません。この部屋には準備がないようです。」

「なら僕のを使うといい。申し訳ないが、今はどうしても塩湯が飲みたい気分なんだ。」

「かしこまりました。」

愛が正雪と光希を見る。プロジェクターの準備を手際よく終え、二人とも作業を

終えている。愛と目の合った正雪がジョージのところへ行って塩を預かった。

「お預かりいたします。」

(教えたとおりね。)

受け取り方も一歩間違えば激怒されかねない。

「菊高君、できたお飲み物を温かいうちにお配りしてください。」

「わかりました。」

菊高が飲み物を手際よく配っていく。

(金子君でもできるでしょうけど、菊高君のほうが安定しているように見えるわね。)

愛が塩湯を作りながら、時計を見た。

(そろそろ始めないと、5分おしだわ。)

愛が塩湯を作って、ジョージのところへ持って行く。

「お待たせいたしました。」

ジョージの右側に塩湯を置いて、そのあとミグリッドノルトを返す。

「ありがとういただくよ。」

愛が会釈をして、自分たちの席に向かう。

「お待たせいたしました。」

愛が木雷を見る。

「本日の議長は木雷先生でお間違いないでしょうか。」

「ええ、今日の議長は私です。」

木雷が席を立ち、続けて部屋にいる全員が起立した。

「それでは始めましょう。2019年度高等部四季秀会会員の初顔合わせを。」

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