日誌5 乙女なんだし
日誌5 乙女なんだし 記入者・杉山水音
「はあい、お疲れ様でした~」
「お疲れ様でした!」「お疲れ様です」「おっつ~!」「はい、お疲れ、様でした」
今日のお仕事、終了。ふい~、働いた。
今日はキバ君もいないから、店は女の子ばっか。うふふ、よいよい~。
仕事が終わると、私達はいつも事務所でのんびりなガールズトークをしたりする。最近はさくらちゃんも入ったからネタも増えていいね。
「あ、そ~だ。この前現場で貰ったお菓子あるからみんなで食べよ~よ」
「仕事あったの?言ってくれれば見たのに……」
「水音ちゃんの、声、楽しみ……」
「あはは、ここら辺じゃ流れないからさ~」
ロッカーから箱を出して広げる。クッキーの甘い香りが事務所内に広がり空腹にいい感じに刺激が走る。
「あらぁ~、美味しそうねぇ~」
「店長、よだれ」
「あら、嫌だわぁ~」
「つまんでいいですぉ~」
「じゃあ、いただくわ~。……んっ、美味しいわぁ~♪」
「じゃあ、私も貰うわ」
「私も、食べて、いい?」
「どうぞどうぞ~っ」
みんなひょいひょい取っていく。減り早ぇ~。
「さくらんぼ~、一緒に食べよ~よ~」
何かまだマニュアルとか読んでるさくらちゃんを呼んでみる。さくらちゃんはトテテテ寄って来て恭しくお辞儀する。
「い、いただきます~」
固いなぁ。どうしてもこの先人女子の輪に入りきれてないんだなぁ。
よし、ならば。
「おりゃーーっ!」
「ひょわぁぁっ!」
クッキーを取ろうと伸ばした手をグイっと掴んでキャッチ、ホールドオーン!座りながらバックハグ完了~っ!
……おはぁ、やべえ。ぬいぐるみみたいでナイス抱き心地だわぁ。
「あ、クッキー食べていいからね~」
「食べ辛いんですけど……」
「だろうな……。水音、離してやんなよ」
「嫌です。しばらく離しませぬ」
なでなで。
「そうしてると、姉妹みたいね、二人とも」
「だっしょ~?」
すりすり。
「まあ、仲良くするのは良い事よね~」
「ですよね~」
もみもみ。
「ふぁ!そこは……」
「やめんかっ!」
「あいたっ!」
リアに頭はたかれた。いーじゃん女同士なんだしー。
……割と、あったなぁ。
「ごめんね、さくら。水音、ちょい変態だから」
「や、別に平気ですよぉ。もぐもぐ……」
「そーだそーだ、露出狂のリアリアには言われたく、んぎゃ」
「誰が狂よ、誰が」
口を手で挟むのは反則だぁ~。喋れなくなったらどうするんだよ~。
「……そう言えば、野中さんのご家族は、どんな方?」
珍しく愛美が良い感じの会話のパスを。
「そだね~、ちょうど聞いてみたかったとこだし。教えてよっ」
「むぐ。……あ~、えっとぉ~」
何故か言い澱むさくらちゃん。何か遠慮してるような、言って良いものかどうか悩んでいるような、そんな感じ。
「言い辛いなら無理に話してくれなくても良いんだけど……」
「や、そうじゃないんですけどっ、……引かないかな~って、思って」
「引く?どして?」
「……パパは、家電メーカーの社長なんですよ」
……沈黙。
ちょ、誰か何か言おうよ。
「……で、お母様は、何なの?」
「へ?あ、ママは専業主婦です……」
「まあそうね。父親の収入も大きいでしょうから母親は働かなくても平気よね」
「うん、だからじっくり育てられて良い子に育ったんじゃない?さくらんぼは~」
「……………あ、あの」
「ん~?」
「ひ、引かないです、か…?」
「引く必要が何処にあるのよ」
「だよねえ」
「それは、偏った、見解」
さくらちゃんは何を気にしているんだろうね。
「わ、私の家の事聞くと、みんなからかったり、成金とかって言われて……。だから、あんまり言わないように高校からはしてたんですけど」
声がちょっとずつ尻すぼみになっていってるさくらちゃん。なるほど、そんな事あったんだね~。
社長の娘ぇ~?お高く留まってんじゃねえよぉ~。金貸せよ~。的な?
「さくらんぼぉ~、私達子供じゃないんだからそんな事でいちいちからかったりしないって~」
「そうね。羨ましくはあるかもしれないけどそれで偏見持ったりはしないわ。」
「そうか……、だから、頑張ってたんだね……」
「え、どゆこと?」
「舐められないように、って言うか、名前負けしないように頑張ってたってことでしょ?親の威光なんか無関係だって事を示したくてさ」
「あはは、そうなんですよ。でも、私あんまり器用じゃなくって……。勉強は何とかなるんですけど、労働的なことはからっきしで。パパとママはその辺理解してくれたみたいで、こうしてバイトさせて貰えてるんですよ。お小遣いも、十分の一になりましたし」
エヘヘヘ……ってさくらちゃんは苦笑いするけど……。
……聞いて、いいよね?聞きたいんだよね、みんな?
「……ね、十分の一で、如何ほどなワケ?」
「五千円です!」
娘甘やかしてんじゃねえよぉしゃっちょさぁぁぁーーーん!!
(今年からだろうから、段階的にやってるのよね……)
(でも、バカ親に、間違いない……)
(甘やかしてたんだろうねぇ~、実際さぁ~……)
さくらちゃんの頭の上の方でこっそり話した私達は、お互い頷き合って、みんなでさくらちゃんの手を握る。
「が、頑張ろうね!」「が、頑張ってね」「頑張り、ましょう、ね……」
団結した私達に「?」と首を傾げるさくらちゃんだが、取り敢えず何か分かってくれたようで「はいっ!」と元気良く返事した。
はい、良く出来ました~。……本当に、頑張ろうね?
「でもさぁ、親の威光ってんじゃないけど、リアリアの家だって両親は凄いよね~」
「まあ、そうね。父は警察官上がりのSPだし、母は代々続く道場の師範だもの。両親の名前に恥じないように私も努力したし、誇りにも思ってるわ」
「なのにこんな露出狂に育ってしまって……、うう……、お母さん悲しいわぁ!」
「誰がお母さんか!狂でもない!」
ほぐぁ!あ、アイアンクローは痛いですよぉ……。頭絞まる頭絞まるぅ……。
「じゃあ、愛美さんはどういったご家庭なんですか?」
「あぁ、そういえばそこら辺は私達も詳しくは聞いてないわね。やっぱり家族全員そんな格好が好きだったりするわけ?」
リアが笑い混じりで適当に繋いで、私達もそこから冗談めいて話せるかと思いきや、
「そんなわけない……、これを着るのに、大喧嘩した……」
ものすっごい自嘲気味に微笑まれてしまった……。
「私の家は父は公務員で母は高校教師、二人とも職業柄固い性格だから、私の趣味を決して理解してくれなかったわ…」
……………空気が。
「高校の時制服をフリフリに改造したら私の学校まで母親が来て教師ともども説教されたし、髪の毛を今の金髪に染めた時も床に押さえつけられて黒髪戻しを使われそうになったし、今でも新しいロリ服を買うたびに全力でため息をつかれて呆れられるもの……」
……これだけ長いセリフを一度に愛美が読むのは初めてだなぁ。さすが、キバ君とは若干ベクトルが違えどオタク属性、自分の分野には饒舌になるねぇ。
ってか、制服魔改造はそりゃあ説教食らうっしょ。
「自分の趣味だから辞めるつもりなんか無いけど、自分で稼いだお金で買っているとは言え身内に理解者がいないのはなかなか大変なのよね、ふふふ……」
うわ、黒い笑いが生まれてるっ。
水音、行きま~す!
「あ~、あ~、私んちの親はね~、へーぼんなうちだよ~。サラリーマンで主婦ね。私がJKしながら声優やるのも許してくれたしね~。そう考えると、ウチが一番寛容な両親なのかなぁ?」
「あら、別に私の両親だって厳しいのは稽古のときくらいで普段は優しいわよ?それに、母は私なんかよりよっぽど美人だし」
「え~、ほんとに~?写メある?」
「あ、うん。待ち受けは家族よ?」
リアがロッカーから取り出した携帯の待ちうけ画像を見ると、道場の前で微笑み合う美系人間の集まりが。
うわ、お母さんマジ美人っ。袴姿なんだけど、サラサラの長い黒髪が大和撫子って感じで超似合ってるし、肌も色白で、薄いピンクの唇も清楚感バッチリ。リアが二十年したらこうなるんだろうな~って感じだよ。
その横にいるのが旦那でしょ~?イギリス人とのハーフで金髪の長身イケメンだわ~。こっちは黒スーツ。仕事中に立ち寄ったんだろうか。
で、二人に挟まれて同じく袴姿で何故か刀を構えてるのがリア、と。すんごい嬉しそうに刀持ってるなぁ~。
「……嬉しかったの?刀」
「や、これはねっ、家宝なの。家宝の刀の『黒鷹』ってやつでね?初めて持たせてもらった時の写真だから、ちょっと気分が良かったっていうかねっ?」
「……そんなに、嬉しかったんだね、リア」
あ、顔面赤爆発した。愛い奴よのぉ~。
「あらあら~、そんなに美人さんなの~?」
仕事をしてたはずの店長がほんわか近付いてきて、ほんわか覗き込む。ディスプをじっと見つめて、「あら~♪」ととんでもなくテンションが上がってる店長。どれを見てだろう?
「リアちゃんのおウチは、食生活とかもしっかりしていそうよね~。規則正しい生活があってこその、これだけの成長やスタイルだと思うのよ~」
「あ~、分かる気がする~。リアリアはお菓子とかもそんなに食べないよね。店で買うのも化粧品とか雑貨とかだけだし」
「元々その習慣が無いのよ。化粧品も母のお遣いってことも多いし。逆に、さくらは割りと休憩中とか食べてるのを見るわよね」
「え、や、疲れたときには糖分の補給がいいかなって思いましてっ」
「……太るよ?」
「はぁう!」
「……水音、あなたも、同様」
「う……、あっはは~……。……まあそれは置いといて、さくらんぼは化粧とかってしないの?いっつもスッピンじゃん?」
「それは…何と言うか、まだ私には早いかなぁって思って…」
「な~に言ってんの。さくらんぼだってもう立派な乙女なんだし(正にチェリーよね、とか思ったのは黙っておこう)。女として、化粧の一つや二つ覚えなきゃねっ」
「そ、そうですかぁ?……リアさんと愛美さんも、そう思います?」
「しても、おかしく、ないと思う」
「私も高校生で化粧はしてたわ、母に教わってね。でも、さくらはそのままで充分可愛いから要らないかもしれないわね」
「いやいや~、ちょびっと手を加えるだけでもびゅりほでわんだほーになるもんだって。……ちょっとやってみよっか?」
「へ?」
「マーナ、私の化粧鞄取ってくれる~?」
愛美がご丁寧に鞄を開けて手渡してくれる。
うへへへへへ……、おなごをいじるのは心躍るのぉ~。
さあ、アイドル声優(予定)直々の、必殺可愛いメイクをとくと見よぉ~っ!
……十五分後。
「どうだっ!」
さくらちゃんにも分かるように鏡を置いてみる。
「……わぁぁ」
「テーマは、初めての渋谷!」
「中学生が背伸びしてやってみたメイクみたいね。でも可愛いわよ?」
「それくらいがぴったりなんだよ~」
「うん、確かに、ぴったり」
ふふふ、どーよ私の腕は!リアも愛美も認めるこの腕はっ!
……と思ったら、
「それは喜んでいいのかしらね~?」
横から店長が口挟み。私のメイクを覗き込んでから、いつも閉じているような眼の端をキランと光らせた。
「オトナっぽいメイクも、意外に合ったりするものよ~?」
そう言って、私のメイク道具を使ってさくらちゃんにメイクを始める。もんのすごく慣れた手つきで。
……七分後。
「はぁい、出来たわよ~」
「「「「うおぉ~…」」」」
め、めっちゃ上品なメイク術……。
が、
(に、似合わねえ……)
(七五三メイクみたい……)
お見せ出来ないのが残念です。
と、横からポンと手を打つ音がした。愛美だ。
「なら、プリンセスメイクも、試したい……」
「プ、プリンセスメイク……?」
「私が、ピンクの服の時の、メイク」
「あ~……」
あの若干痛々しい格好の時のやつね。黒はともかくピンクは私も納得しきれないことが多いんだけどなぁ~。
とは言え、やらせないのもあれなので、まあやらせてみよう。
……二十分後。
ご丁寧に洋服まで交換してお披露目。
「わぁ……、野中さん……、イイ……」
「そ、そうでしょか……」
着せた本人、恍惚にイン。
着てる本人、かなり戸惑い気味。
可愛いは可愛いけど、お人形さんっぽいな~。表に立っててもらえば集客とかに使えるんじゃないかなぁ?
「……着替えていいよ、さくら」
「……ハイ」
愛美がかなりのショックを受けている。仕方ないじゃん。
「……まあ、さくらんぼはそのまんまでもいいカナ?」
「かもしれないわね……」
自分達で始めておきながら、酷い幕切れかもしんないけどね。
「でもねさくらんぼや、将来男をゲットするためにも、いつかは通らなきゃならぬ道なんだよこれは~。自分を飾るってのは、生物としては当たり前の本能なんだよ」
「男、ですか……」
「さくらんぼは、誰か付き合ったりしたことないの?」
「無い無い、無いですよ~」
苦照れ笑いするさくらちゃん。これは普通に無いな、つまらへん。
「そういう水音さんはどうなんですか~?水音さん可愛いし、モテると思うんですけど」
「あ~、いないいない。中学時代まではいたけど、遊びみたいなもんだったし。確かに私はモテるけど、立場上今は彼氏作れないしね。売り出し中の役者が恋愛問題持ってちゃいかんのよ~」
「地味に、問題、発言ね……?」
「にゃによ~。マーナは……いなさそうね」
「……、……、いないけど」
「リアリアは?」
「いないわね、釣り合うような男」
「望みが高すぎるんじゃないの~?どんなのがいいわけ?」
「どんなのって……、うーん、よく分かんないわね」
「キバ君は?」
「なっ、何でここで柳葉なのよ!?」
ニヤニヤ。
「だって、何だかんだで二人が一番仲良いんじゃない?この間の強盗事件でも仲良く解決したんでしょ?」
「そう、二人は、仲良し」
「仲良くなんかしてない!愛美、あなたの方がこの間は仲良くしてたんじゃないの?」
「この、間は、ね。けど、リアの方が、相性グー」
グーって……。
「柳葉さん、普通にいい人ですよね」
「お、さくらんぼもそう思っちゃうか」
「分からない事は普通に教えてくれますし、普段は冷めてますけど話すと面白いですし」
「女性相手限定だけどね~。でも顔も崩れてないし、そこそこ背高いし、オタなのをスルー出来れば優良物件ですよ?ってなわけで、リアリア、いかが?」
「何故私に勧めようとする……。そういう水音はどうなのよ?」
「ん?私は別に気の合う仲間って感じだけど?男女の仲でどうかと言われると……、う~ん、どうなのかしら。わたくし庶民の方とはお付き合いした事がありませんので……」
「何キャラよ……。愛美はどうなの?」
「私は……、普通に、好きよ?相性は、決して、悪くないって……」
「でも、それってまだ恋愛感情とかじゃないよね~?」
……コクリ。それじゃ意味無いじゃん。
「さくらんぼはどう?彼氏としてキバ君は」
「え~……、よく分かんないです」
あ~、予想通りな反応。まだお子様やね、中身は。
「総合すると、リアリア以外はまだお仲間以上の感情ではないってことだね。可哀想やのぉ、キバ君や……」
「だから、何で私だけ柳葉に惚れてるみたいな流れになるのよ。全然そんな感情無いんだって――」
「恋愛した事無い女が恋愛感情を語るんじゃなぁ~~いっ!」
「っ、何よいきなり大声で……」
「お前の感じているそのキバ君への感情が恋愛感情ではないと誰が断言出来ようかいや出来まいっ!個々の恋愛感情の抱き方など千差万別、私らが抱く仲間と思う感情がリアリアにとってはひょっとしたら恋愛感情なのかもしれないジャマイカ!そうやって何でもかんでも切り捨てて行ってしまうのはそれは決して正しい事ではないんだぁ~っ!」
「………………へえ」
「だからリアリアよ、これからもそのヲトメの純情を大事に暖めていつの日かそれをキバ君だけに解き放って―――」
「そろそろ黙れ」
「ぷぎゃ!」
は、はにゃをちゅまんじゃいちゃいんにゃけどぉ~。
「……でもリア、恋はした方が、良いと思うよ」
「ま、愛美まで何よっ」
「恋をした方が、良い女に、なれるわよ?」
「そ、そうかもしれないけどさ」
「だから、まあ、ガンバ」
「……相手ぐらい選ばせなさいよ」
「野中さんもそういうの、早く分かるように、なるといいわね」
「あ、はい、そうですね」
し、締められてしまった……。鼻をつままれてるうちに。
まあキバ君にとっての理想卿には、ここはまだまだ遠いってことみたいですな。
そんでしばらくは、リアで楽しめそうじゃ。ひっひっひ……。
「若いっていいわね~。じゃあそろそろみんな、帰りなさいね~?」
「「は~い」」「はい」「……(コクン)」
店長が再びニコニコしながら仕事に戻る。
私達はそれぞれの荷物を出して、帰りだすのだった。
「……そう言えば、店長のお母さんはどういう人なんですか?」
さっきは聞かなかったけど聞いとかないとだよね。まあ、そんなに驚くような答えは―――
「銀座のママよ~☆」
…………………………。
………………………。
……………………。
…………………。
………………。
……………。
ど、どうしたらいいんだろう、この空気……。
(この日誌、柳葉には見せるんじゃないわよ! リア)
(はいはい、ラジャー 水音)
(多分無理なんじゃないかしら~? みちる)




