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さくらDRUG!   作者: 雪名ひかる
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日誌3 ……格好良さ台無し


    日誌3   ……格好良さ台無し     記入者・藤沢リア



 土曜日。

 土曜日のこの店は、普段とは少し空気が異なる。

 土曜日は基本的にお客さんが少なめだ。それ故に少々暇になる。


 ……だからと言って、こういう事をしていてもいい訳ではないんだが。

「ああ……、あたしはもう百年も前からあなたのと・り・こ。もうあなた無しでは生きて行けないわぁ~!」

「いけないよお姫様、あなたには将来を約束した許婚がいるじゃないですか!」

「親の決めた相手など…知りませんわぁ~!あたしには、あたしには……王子様しかいないのです!この雪降り積もるイギリスの彼方まで、あたしを連れて行ってくださいませぇ~!」

「お姫様ぁ~っ!ひしぃ~っ!」

「ぎゅぅぅ~!」

 ……どこから突っ込んだらいいのだろうか。まあ取り敢えず、

「……楽しいの?」

 活き活きしている二人にこう尋ねるのも無駄な気もするが。

 と思ったら、意外な答えが返ってくる。

「……普通だよね?」

「まあ、普通ですな」

 水音と柳葉君はきょとんとした顔で通じ合ったような意見を言う。普通って何よ普通って。

「いや、俺は水音さんがいきなりカ○ーのお姫さまを持って小芝居始めたから、カレ○の王子さまを持って付き合っただけで」

「それでやれちゃうキバちゃんも凄いけどね。まあ私はいつもの事っしょ?」

「にしたって、効果音まで口でやらなくてもいいじゃないの。微妙に生々しいわ、見てても変だし」

 さっきの、ひしぃ~っとか、ぎゅぅう~っとかも全部口でやってたのよねこの二人、それどころか二人自身は一歩も動いてない。カレールーのパックをちょっと動かしていたくらいで。

 以前は水音が単品でこんな事をしていたのだが、柳葉君が入ってきて意気投合したためにセットになってしまっている。困るわねぇ。

「にしたって、水音さん何か妙に上手いっすよね。やってて俺もつい入りこんでしまったと言いますか、引き込まれたといいますか……」

 頭を掻きながら言う柳葉君。彼の感想は至極当然のものである、何故ならば、

「水音は、現役の声優だものね」

「へ~、そうなんですか~~ってええ!?」

 お、いい反応だ。

「いや~、まだ売り出し中ではあるんだけどねっ!仕事もそんなにやれてないし、でもだからバイト来る時間もあるんだけどさ」

 水音は苦笑いして言うが、私から見ても一応水音の能力は高いと思う。話は聞き取りやすいし噛まないし、日頃交わされるトーク?もそれなりに面白い。表向きの性格も明るいしな。芝居の事はよく分からないが、店に来る男共には好評のようだ。

それに、本人はアイドル声優を目指しているとかで外見にもかなり力を入れている。髪の毛はふわっふわのウェーブだし、キツ過ぎない目元ぱっちりメイク、雑誌に乗っても問題ないくらいの可愛さをするようになった。既に特定のファンが付いて回っているとかいないとか。まあ、そこはどうでもいいが。

 しかしそんな水音曰く、まだ食べられない、らしい。厳しい業界のようだ。

 水音が声優さんだと知って柳葉君は本気で興奮したようで、あれこれ質問攻めを始める。過去に何かアニメに出たかとか、普段どんな事をしているかとか、知り合いの声優さんはいるかとか。いつもはそこらへんのファンに同じ質問をされても笑顔でスルーしているのだが、同僚という立場だからか普通に応えている。いいのか?

「……しっかし、地元の人間なのに本物の声優さんがバイトしてることを知らなかったのは悔しいっすね。こっちの世界の人間としては」

 こっちってどっちよ。

「あ~、でもね、知ってたらバイト採用されてなかったと思うよ?ほら、一応他のファンの人の目があるし、ミーハー心でバイト希望されても店長も困るだろうしね」

 それはそうだ。私としてもそんな理由で来られても困る。

まあ、それ以上にこの男の志望動機も誉められたものじゃなかったな。ただの女好きだこいつは。仕事はするからまだいいが。

「そうそう、一応この店のアナウンスとか一部の商品のCMとかに水音の声は使われてるんだ。あ、ほら、流れるぞ」

 私が天井を指差し、店内放送を聴くように促す。十五分ごとに流れる店用のCMだ。水音がそれに合わせるように口を動かす。

「本日は、さくらドラッグにお越し頂き、誠にありがとうございます。只今よりタイムサービスとして、藤沢リアによる握手会を1レジにて執り行―――」

「行うかぁーっ!そしていつ録ったぁーっ!」


 ……録音テープは即座に破壊させてもらった。客に無駄な説明もすることにもなって要らん手間のかかるイタズラだった、全く……。水音には後で説教だ。これ流した店長にも。

 ついでに、放送を聴いた瞬間1レジにすっ飛んで行きワクワクしながら手を差し出していた柳葉の野郎は、握手では済まさず手を思いっきり握り潰してやり客への説明に一役買っていただいた。思ったより馬鹿共の理解が早くて助かったな、柳葉よ。仕事は片手で頑張れ。

 話が反れた。そう、土曜日だ。土曜日というのは別に、決して、客が少ないだけの日ではない。客が少ないからって仕事はあるんだから遊んでいい訳じゃないからな。

 そうではなく、最初に言ったように、空気が異なるのだ。客層……もとい溜まる男共の顔ぶれも普段とは違う面々が要る(のが分かってしまうほど慣れてしまったな、この職場というか空気に)。

 と、一人の女性が店内に入って来た。

「らっしゃ……い、ませ」

 女好きの柳葉すらも一瞬止まったその女性は、店内でもの凄い浮きまくっていた。

 一言で言うならば……異常。ストレートの金髪ショートヘアに白と黒のヘッドドレス、更に店内なのに黒い日傘を差し、全身黒を基調としたフリフリの、ヒラヒラの、ふわふわの、ゴテゴテの、え~と…こういうのを何と言うんだったか……、

「……ゴスロリ?」

 あ~、そう、それだ。思い出させてくれてありがとう柳葉の呟き。

 この練馬区某所のそれなりの住宅街に位置するこの店において、この完璧たる…え~と、ゴスロリファッション?は、異質、異常、インモラルという「い」のオンパレードだ。正直、浮いているとしか言いようがない。ア○バでも乙女○―ドでもないからな、ここは。

 が、この女性は当たり前のようにここに来て、当たり前のように排斥されず、当たり前のように人の視線を集めても気にしない。そして、

「ああ、おはよう、ございます」

 当たり前のように私達に挨拶する。

柳葉以上の無表情顔、それ程大きくない声、ややミニな身長。三拍子揃った接客には向かなそうなこの女性こそが、

「おはよう、愛美」

「おっはよ~う、マーナ!」

 当店の女性従業員の一人、葵愛美である。ちなみに年上。しかしとてもそうは思えない子供っぽい顔なので私も呼び捨てだ。本人も気にしていないらしい。

 日傘を畳みながら、愛美はふとレジの方を振り返る。そして(暇なのか突っ立ってるだけの)柳葉をじっと見つめながら私達に尋ねる。

「あれが、新人の、バイト?」

 ちなみに愛美は大抵の発言を三言で終わらせる。文節と言ってもいいかもしれない。だから余計機械っぽいというか無機質に思える。外見はこんななのに。

「そだよ~、柳葉真志。通称キバちゃん!」

「キバ……、ライダー、派?」

 やはりそこに繋がるのか……。というかそれは通称じゃないぞ、水音、愛美。

「ちなみに、私は、プリキ○ア派」

 どーでもいい。まあ近くに東○撮影所があるから地元民としては無関係じゃないかもしれないけども。

「……柳葉!」

 客も少ないことだし、二人を引き合わせてもいいだろう。最早呼び捨ても厭わなくなった柳葉をレジから呼び出す。

「何すか、リアさん?」

 ……何だか知らないがちょっと嬉しそうな顔をしている柳葉。呼び捨てされて喜んでんじゃねえよ、親しくなったんじゃないから。面倒になっただけだから。

「愛美、改めて、これが柳葉真志だ。柳葉、この女性が、もう一人のアルバイトの葵愛美だ」

 身長差がそれなりにある二人は、互いに見上げ見下ろし互いの目を見る。

「……あ、まじっすか。始めましてです」

「うん、はじめ、まして……」

 言って、何故か黙りこくったまま二人はじっと顔を見続ける。見た目の衝撃に戸惑い気味の柳葉と、口数の少ない愛美。互いに次に何を言ったらいいのか分からないのだろうか。

 と、たっぷり見つめ合うこと十数秒。二人が同時に発した言葉が、

「「うん、あり、だな」」

 ……………何がよ。特に愛美の方。

 私が二人の発言に突っ込む前に柳葉が愛美に向かってこう聞いた。

「お住まいは池袋ですか」

「違う、」

 そりゃそうだろう。

「どちらかと言えば、中野」

 あれぇ~……!?

 って言うか、あんたの家ってここから十分くらいじゃない。訳分かんないわ。

 そう思ってたら、二人は固い握手を交わしていた。本当に何なのよ、初対面でしょあんた達。と言うより、柳葉はよく愛美の空気に一発で慣れたわね。私なんか最初は結構抵抗あったんだけどなぁ。

「じゃあ、私も、働く」

 愛美が柳葉に対して何か同類的なものを感じ、一ミリくらいの笑みを浮かべたらしいところで、愛美は事務所に着替えに言った。まあいつまでもこんな空気のままいられてもこっちが困るしね。

 一分くらいしたら、すんなり愛美は出てきた。その瞬間、店にいる男共からは静かなどよめきが起こる(本人に通じるのか、愛美目当ての連中は控えめな奴が多い)。そして、もう一人驚いている奴がいる。初見の柳葉だ。

「……愛美さんはあれでバイトするんすか?」

 柳葉がそう言うのも当然だ。

 何せ愛美は、着てきたゴスロリ服にエプロンを付けただけで出てきたのだから。えらいミスマッチ。

 ……まあ、そう思ってない奴らもこうしている訳なんだけども。

「ゴ……ゴスロリ服にエプロン……、これはこれで新しいジャンルなんだろうかっ。完全なゴスロリに黒一色の作業用エプロンという地味オブ地味の相反する衣装がマッチする事によってメイドとはまた違った萌えが……」

「頼むからそこら辺は口に出さずに心の中だけで思っていてくれまいか」

 私以外に今日は突っ込んでくれる人がいないらしい、店長は事務所内で仕事中だし。

「まあ……心の中から溢れるかもしれませんが善処するとして、あの格好で誰も文句は言わないんですか?」

「善処で済ますな。……愛美の服装には当然苦情もあったわけなんだが、愛美自身の強い要望があって黙認されているような状況なのよ。仕事も最低限出来るし」

「へ~。仕事は出来るんすね、あれで」

「……まあ、最低限は、な」

 胸を張って仕事の出来る女とは、やはり言いにくい。服の汚れを気にするから品出しや納品の作業も遅いし、愛想が皆無に等しいからレジ作業も向かないし、声も小さいし。ただそれでも問題そのものは無いので問題に出来ないのだ。

 言っておくが、やめて欲しいと思っているわけじゃないぞ。これでも長く付き合って来た仲間だからな。

「服の観点から言えばリアさんは文句言えないような気が――」

「黙れ」

 おお、今日はバックナックルの調子がいいな、いい具合に入った。やはり私の服は動き易くていいな。

 …しかしまあ、それでも、どうにかして欲しいと思う所は誰にだってあるだろう。この私にだってあるかもしれない。無いように心がけてはいるつもりだが。

「ふむ……。柳葉、私に何か不満はあるか?」

「……はい?」

 上ずった声で柳葉が聞き返す。

「私とお前はまだ付き合っている期間が短いが、それでも私に対して思うところもあると思う。私は本音で言ってくれる人の方が好きなんでな、是非お前からも私に対しての不満をここで聞いてみたいんだが…」

 真剣な表情で私が柳葉を見ると、何故だか柳葉は顔を赤くして少し困ったように唸っていた。

「ん~~~~~~~、んっふっふっふぅ~?」

 何故今語尾が嬉しそうに上がった?

「どうだ、何かあるか?」

「いや~そのままのリアさんが俺としてはとても好きですが、強いて言えばもう少しだけ俺を愛してくれれば何も言う事は――」

「何の話だっ」


 午後三時。雨が降る。

 この店では店の外にそれなりの量の品物を陳列しているため、急ぎ濡れる前にそれらを取り込まなければならない。洗濯物のようだなこう書くと。

 なので、昼間で仕事が終わり帰ってしまった水音を除く三人で慌てて外に出ようとするのだが、

「リア様、俺達に任せといてくださいっ!」

「愛美様の衣装を水に濡らすわけにゃいかないっすよ!」

「みんな行くぜぇ~っ!」

 ……という具合に、店にいる男共がこういう時は何だか勝手に動いて役に立つ。割と大勢いるんでむしろ邪魔にも思えてしまうのだが。

「いや~、これは楽出来ていいっすね~」

「お前は行けよ、男だろう」

 私の横で手を腰に当てて突っ立っている顔面に多少殴打の痕が残る柳葉に私は言う。

いや……、え~?って顔されても。

 しぶしぶ柳葉は男共に混じって外に行こうとする。が、何故か店の入り口で立ち止まり、ものすっごい偉そうにして出て行こうとする男達に向かって叫んだ。

「おいお前ら!余計な事するんじゃねぇ!」

 その叫びに男共は一斉に立ち止まり柳葉に向き直る。その目は鬱陶しい物を見るかのようだったが。

 そんな視線など全く介さず、柳葉は堂々と仁王立ち。その様は、雨が降っているのに後光でも差しているかのようで少し格好良いかもしれない。

「お前達は……お前達は、お前達はっ、雨に濡れたしっとり艶やかな美少女達を見たくはないのかぁ~っ!!」

「おお~っ!」

 ……格好良さ台無し。

「リアさんは烏の濡れ羽色に染まった長い黒髪っ、水を弾く張りのある肌っ、薄い服が濡れて透ける可憐な下着ぃぃっ!」

「おおお~っ!」

 ……鼻息荒いぞ、野郎共。

「愛美さんは水に濡れて輝く金髪、ふわふわなゴスロリ服が濡れて肌にくっつき現れる魅惑のボディラインっ、寒さに震える儚げな表情ぉっ!」

「おおおお~っ!」

 ……あ、愛美が一瞬びくって震えた。さすがに恐怖したか。

「崇め奉るのもいいが、それだけでは真の愛情とは言えない!時に試練を課し、それを乗り越えた瞬間の彼女たちの姿を見守るのも、我々に義務付けられた使命なのではないだろうか!だからこそ、今、俺は先頭に立って、二人と共に雨降りしきる中片付けに勤しもうと思うっ!!」

「うおおおおお~っ!」

 ……大歓声。店が異様な熱気で包まれる。

 この日、店の男共に疎まれていた存在だった柳葉真志が、その男共による柳葉コールにより遂に認められたのだった。私達はその瞬間に立会うことが出来、非常にこうえ―――

 ……んなわけねえ。逆に奇妙な連帯感に恐怖を覚えるわ、この男共は。

 とにかく、私からも、客に作業させるのも体面が悪いという事で男共を宥め、愛美を連れて外に出る。身の毛がよだった事を堂々と宣誓した柳葉にはついでに両方の脛を蹴っておく。お~お~、痛そうだ。

 雨は小雨よりも強いくらいの降りで、外の商品もそれなりの勢いで濡れていく。特に紙製品などは早々に乗せているカートにカバーをかけるなりしないといけないわけなのだが……、

「愛美、早くそっちにカバーかけて欲しいんだけど」

「う……、カバー、重い」

「……じゃあ、そっち側持って。」

「あ……、手、届かない」

「……じゃあこれは私がやるから、直置きしてある石鹸のかご、中に入れちゃってくれる?」

「ん……、ん~っ……。上がらない……」

「………え~、と、うん、ちょっとずつでいいから買い物かごを中に入れちゃってくだっさい!」

「え……。……うん、頑張るね」

 本当に頑張ってください……。

 愛美は基本、線の細い見た目通りに非力なタイプなので、狩り出した所で本当にそれ程役に立ってくれないのが実情ではある。しかしまあ無表情に頑張りを表してくれているので無碍にも出来ない。どうしたらいいのよこのジレンマ。っていうか、ビニールのカバーは一キロも無いでしょうに。

 だから、性格上色々問題はあろうとも、柳葉の男手は助かるのだ。今も洗剤が五十個以上乗ったカートを涼しい顔して動かしているし(洗剤一つが一キログラムとして、大体六十キログラムの物を動かしている事になる)。

「柳葉、大変じゃないのか、カート動かすの?」

「あ、いや、それ程は……?」

 やはり何でもないという風に柳葉は答える。

「それより、さっきはああ言ったっすけど、あんまり濡れるようなら俺が外の事やるんで。愛美さんとか特にひょろそうなんで気をつけないとダメっすね~」

 よろよろしながら歯ブラシのかごを運んでいる愛美を見ながら柳葉は私に呟く。一応気遣いの精神を持ち合わせていたんだな、こいつも。

 柳葉も、顔が崩れている訳でもないし、普段は涼しい顔してこうやって気遣いも出来るし、黙って仕事してればそれなりに頼りになる男にも思えるんだけどな。無理して女好きを前面に押し出さなくても不便しないような人間の筈だろうに、本当は。

 ただ……、

「それを私を雨の元に晒したまま話し込まなければもっと良かったんだけどな」

「え、何すか?」

「……何でもない。早くしまうわよ」

「はあ……?」

 勘違いしそうになるが、こいつはフェミニストではない。期待するだけ無駄だな。

 数分して外の商品を大体片付けた頃には、私も愛美も存分に濡れていた。図らずも(いや、図っていた面もあろうが)先程柳葉が言っていたような状態になってしまったわけだ。それはまあどうでもいいんだが、正直少し寒い。とにかく体を拭かないと風邪を引きかねないな。

「リア、これ、使って……?」

 私が寒そうにしていると、事務所から愛美がタオルを持ってきてくれていた。私は普通に喜んでそれを受け取ろうとするが、そのタオルに微かな違和感を感じて手を止める。

「……ねえ、愛美。これ……使ったのじゃない?」

「うん、彼の、使用済み」

「うおおおおおおぉぉぃ!」

 何を渡そうとしてるのよ!

「使うと、運気、上がるよ?」

「嘘を言うんじゃない!」

 顔を真っ赤にして怒る私に対して、愛美は変わらぬ濡れた白い無表情で、

「嘘、なんかじゃ、ない」

 私の目を真っ直ぐに見ながらそう言うのだった。こういうときの愛美はいつものボーっとした雰囲気を脱し、瞳の奥に宇宙があるかのように目を反らせなくなる。下からじっと見上げられ、私もついつい喉が詰まる。

「リアと、彼は、相性が良い」

「うぁ……、え、相性?」

「私の、感覚が、言ってる」

「感覚って……、ああ、いつものトランス?」

 愛美はコクンと頷く。

 愛美はいわゆる電波系というやつで、本人曰く「自分の中にいる別の何かから託宣を受ける」らしい。それを愛美含め私達はトランスしたと呼ぶ。ざっくり言えば、聞いてもいない占いの結果を言われるようなもので、しかしそれは近い未来に関係する事なのだとか。

 当初はそんな事を言われても欠片ほども信用していなかったのだが、あまりにもその内容が後に当たる事が多かったために、誰もが耳を貸す以上の関心を示すようになってしまっている。ファンの男共曰く「ミステリアスでしかも当たるから素敵すぐるw」だとか。

 ……が、今回は何をぬかすのか。柳葉の使用済みタオルを私に渡せなどという具体的な指令でも出したのか。出て来いその中身野郎。

「そうじゃない、相性が良いって、言っただけ」

 愛美は至って真面目に言う。

「……それでどうして使用済みのタオルを私に回すっていう結論になるのよ」

「大丈夫、最初に使ったのは、私」

「はいぃ!?」

「私の、使用済みと、思えばいい」

「……もう何が何やら」

「私達全員、彼と、相性バッチリ」

 グッと親指を立てて私に突き出してくる愛美だが、もう頭痛しかしてこない。

「彼に触れることで、私達にも、良い影響が出るから」

「だからそれでどうしてタオルを使い回さなきゃいけないのかって聞いてるじゃないのよ」

「……、……。何となく?」

 おい。

「使用済みって、興奮、しない?」

「するかっ!……ていうか、使用済みっていう言葉は何か嫌ね」

「嫌も、好きの、うち?」

「違うわよっ!」

 …もおつきあいきれません。常識で考えて他人の使った物なんか使えるわけが…、

「あれ、リアさ~ん。いつまでも濡れてるとさすがに風邪ひきますよ?エロい格好でいるのは歓迎ですけど~」

 ……ピキ。

「……ピキ?」

「ち、近寄るなぁこの不潔がぁ~っ!!」

「ふぐぉっ!」

 うああああぁっ、何かもうむしゃくしゃする~っ!仕事してやるぅ~っ!!

 むしろ業務日誌書くのもやめてやるぅ~っ!


 その後交わされた会話。

「……え~っと、柳葉君?リアちゃんは濡れたまま何処へ走り去っていったのかしら?」

「……俺、今回殴られんの理不尽じゃね?」

「……私の、悪ノリが過ぎた、なでなで。あ、私の濡らしたタオル、使う?」

「喜んで使わせていただきます」

「ふふ……」


「……相性は、嘘じゃ、ないけどね」



(私は相性ばっちりなの知ってるよ~。気が合うもんね~。 水音)

(いや~、みなさんと相性バッチリで嬉しいっすね~。ニヤニヤ。 真志)

(わ、笑いが怖いですよ、柳葉さん……。 さくら)

(みんな~、仲良くするのよ~? みちる)


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