日誌2 大人の女性の凄さってのだねっ
日誌2 大人の女性の凄さってのだねっ 記入者・野中さくら
業務日誌って、日記みたいなのでいいのかな……?
えっと、今日はバイトのメンバーが豊富です。私視点から、紹介してみたいと思います。
「……ん?」
見上げないと目線が合わせられないくらい背の高いモデルのような、藤沢リアさん。話を店長から聞くに、イギリス人とのクォーターさんらしいです。実際こうして見ると、瞳の色が薄い水色で顔も端正で、でも髪は長い黒髪で、良いところを併せ持った、憧れちゃうくらい素敵な女の人です。
「あ、あの、おはようございます!」
「ああ、おはよう。野中さくらさん、だよね?」
うおお、声も透き通っていてカッコいいです。どこかの道場の女性師範代のような落ち着いた雰囲気が伝わってきます。
「藤沢リアです、よろしく。……って、こういう喋り方苦手だからフレンドリーに話すね。さくら、って呼ぶけど……いい?」
「は、はい。よろしくお願いします。……あの、一つ聞いてもいいですか?」
「いいけど、何?」
「……今、バイト中、ですよね」
「そうね、エプロンも着けてるし」
「ですよね……。で、その……その格好は……」
藤沢さんの容姿はとっても素敵なんだけど……、着てる服が実は凄いのです。
「いや~、エロいっすよね~、リアさんの格好!」
あ、柳葉さんだ。おはようございまーす。
「……出たわね、色欲魔」
リアさんがジト目で柳葉さんを見てる。しきよくま、って何かなぁ?クマさんの一種?
柳葉さんは柳葉さんで満面の笑みを浮かべながら藤沢さんと話し続ける。
「俺が色欲魔ならリアさんは露出狂っすよ。そんなヘソ出しキャミ&フトモモ見せまくりのミニでエプロン着けてバイトしてるなんて。正面から見たら下手したら裸エプ――」
あ、リアさんの迷いのない手刀の唐竹割りに柳葉さんがK.Oさせられた。でも、柳葉さんの言ったことも間違ってないんだよね。
リアさんの今の服装は、私から見てもかなりえっちいと言うか……、横から見ると確かに白のキャミソールと超ミニのデニムパンツを履いてるのが分かるんだけど、前からだとエプロンに隠れて見えないって言うか、名札の付いたエプロンを着てるだけに見えると言うか。周りのお客さんにもの凄く見られてるのが気にならないのかな?
「こういうラフな格好が好きなのよ。見られるのもスタイルを維持するモチベになるから気にしないわ。見たけりゃ見れば?って感じね。見られるって事は、見る価値があるって事だし」
藤沢さんはしれっとそう言うけど、そういう問題かなぁ……?あ、スタイルが良いのは本当なんだけどねっ?
「じ、じゃあ……俺がまじまじと観賞しても全く問題無いという事―――」
蘇った柳葉さんが全部言い切る前にリカさんが手に持ってた仕切り板で思いっきりはたいて黙らせちゃった。この前はあんなに頼もしかった柳葉さんが、今日はこんなに情けないのは何故なんだろう…?リカさんも柳葉さんには容赦無いなぁ。
でも、リカさんはその見た目のカッコ良さ(服装の事じゃなくて雰囲気ねっ)の通りに、凛々しくその後も仕事してた。お客さんへの対応は凄く丁寧だし(背筋ぴーんだし)、品出しも手早いし、まさに「憧れの女性」にぴったりな感じだ。
「でも、露出狂なんだよねっ♪」
「ふわぁっ!」
心の声に繋がって来た!
……じゃなくて、後ろから思いっきり誰かに抱きつかれた!あう、何か良い匂い。
「品行方正文武両道完璧主義自信満々、しかし露出気味が玉に瑕。それが、藤沢リア!彼女に憧れる男共は数知れず、しかし誰にも靡かないその姿勢は、まさにクールビューティ。いやらしい程に肌を露出しても決して批判の声一つ上がらないのは彼女が誰からも認められた美の結晶だから!藤沢リアこそ、さくらドラッグが日本に誇るナンバーワン美少女なのであったぁ~っ!」
私に抱きつきながら熱っぽくそんな事をアナウンサーみたいに語ってくれたのは、私よりちょっと背の高い女の人。リアさんがカッコいい女性ならこっちは可愛い女の子って感じの雰囲気がある。しかも良い匂い。
「え~、っと、杉山……さん?」
ちょっとだけ絞まりそうな喉を頑張って動かして私が聞くと、明るさ満点の笑顔でやっと私を解放してくれてから、
「あいさ~。杉山水音だよっ。よろしくね、さくらんぼっ」
「さ、さくらんぼ?」
「いやいや、さくらだからさくらんぼっ!良いあだ名じゃない?」
「……(本名より長くなってる)」
濃い目の茶髪のセミロングヘアに、Tシャツ、ジーンズというアクティブな格好で名乗った上にあだ名まで付けてくれたのが、杉山水音さん。顔も声も女の子らしい可愛い方です。
「いや~、しかしさくらんぼも思った以上にキュートで嬉しいわぁ~。ギュッとしてやるぞ~ぅ!」
そう言いながら、今度は正面から抱きついてくる杉山さん。ふぉ、結構力強いっ。し、絞まるぅ…。というより、胸大きいよぉ、杉山さん。
「水音、いつまでも遊んでないで仕事しなさいよ」
視界の外から呆れたみたいな声で藤沢さんが杉山さんを私から引っぺがした。うわぁ、杉山さんものすごく残念そう。
「む~、リアリアぁ、私の楽しみを奪わないでよぉ~」
「仕事中、人前、変態」
「変態とまで!?う~、リアリアだって露出狂の癖にぃ~、エロくて好きだけど」
「誰が狂よ。……本当に、見境無く女性に抱きつくのやめなさいよね。店に変な噂立ったらどうするのよ」
「大丈夫、それで話題を呼べるよ!」
よ、呼んじゃダメ~!
「それにねえ、私は何も見境無く女性に抱きついたりはしてないんだからね?可愛い、カッコいい、美しい女性限定でやってるんだよ!」
胸を張ってそう宣言する杉山さん。自慢出来る事かなぁ?
「だもんで……」
杉山さんはトテテテとどこかに走り去って、そして柳葉さんと戻ってきた。
「我らは『美少女愛し隊』を結成したのでした!」
シャキーン、とカッコよく戦隊モノみたいなポーズを決める二人。柳葉さんは無表情だけど何か誇らしそうだなぁ。柳葉さんと杉山さんはあっという間に意気投合したみたい、それはいいことだよね。…中身がちょっと危なくても。
二人の結託を見て頭を押さえてため息をついてる藤沢さんに、化粧品の箱を持った店長が心配そうに話しかけてきた。
「あらあら、リアちゃんどうしたの?風邪?」
「あ、いえ。……何でもありません」
暗い顔をしたままリアさんは売り場に戻っていった。
「……本当に大丈夫かしら」
「だ~いじょうぶですよ、て・ん・ちょお~っ」
今度は店長に飛びつく杉山さん。見境、無いよね…?でも店長は特に困ったりもしないで子供をあやすみたいに優しく頭を撫でたりしてる。大人だぁ。
「店長もほんわかしてて可愛いですよぉ~」
「あら、ありがとう。でもそろそろリアちゃんとレジに入ってね?ちょっとお客様増えてきたから」
は~い、って明るく返事してたにもかかわらずなかなか店長におぶさったまま離れない杉山さん。本当に女の人が好きな女の子なんだなぁ…、いい事かどうかは分からないけど。
すると、リアさんがさっきよりも更に暗い顔、というか嫌そうな顔をして足早に戻ってきて店長に言った。
「あの、店長……。あのお客さん、お願いします」
リアさんが指差した先には、可愛い幼稚園くらいの女の子を連れたご家族が。でも何でわざわざ店長を呼んだんだろう?
「ああ、はいはい。行ってくるわね」
杉山さんは今度は素直に降りて店長を行かせてあげていた。店長は女の子をなでなでしつつお話を聞いてる。
「あ、あの、何で藤沢さんわざわざ店長を呼んだんですか?」
未だにどこか回復してない藤沢さんはそれでも私に笑顔を見せようとしてくれる。
「……ああ、薬についての質問だったから。登録販売者ならともかく、私は資格とか無いから店長呼んだの。さくらも、薬の事とか聞かれたらすぐに店長呼んでね。自分で適当なこと言っちゃダメよ?」
あ、そうなんだ。……微妙に聞きたい事とは違う答えだったけど。
ちなみに登録販売者っていうのは、試験を受けて一部の薬を売れるようになる人の事らしいです。薬剤師さんの一歩手前って事かな?
「この店で登録販売者の資格持ってるのって、他にはマーナだけなんだよね」
杉山さんが補足してくれる。え~と、でも…
「マーナって、誰ですか?」
「葵愛美っていう、今日は来てないけど私ら三人の中で一番年上の女の子よ。…年上なのか怪しいけど」
藤沢さん、ボソって付け足した部分はどういう意味なんだろう?まあ、今度会えば分かるよね。
そんなこんなで、(やっと)仕事に戻ろうかって空気にみんながなったとき、お店の入り口からやけに大きな声が沢山聞こえてきた。ギョッとしてそっちの方を見ると、小学生くらいの元気な(だけだと表現には足りない気がする)男の子の集団が、走りながら騒ぎながら入ってくるところだった。近所で遊んだ帰りみたいな風だなぁ。
「あ~……。たまに来るんだよね、ちょっと騒がしいお子様達。ほら、ウチってお菓子とか飲み物とか結構安く売ってるからさ~。子供のお小遣いでも買えちゃうくらいのさ。立ち寄って有り余った元気で走り回ったりするんだよねぇ」
杉山さんが、今日初めて見せる呆れが混じった苦笑いでそう言った。確かにこのお店はかなり広いし、私もちょっと走り回りたくなっちゃう気持ちは分かったりもするんだよね。それでも、静かにしなきゃいけないって私は幼稚園の頃にはもう教わってたんだけどな。
店長はさっきのお客様にかかりきりだし、柳葉さんは……あ、嫌そうな顔してでも無視した。杉山さんはちょっと汗をかきながら(あれ、何で?)レジに行っちゃったし……、わ、私がじゃあ、あの子達にびしっと言ってあげなきゃいけないのかなっ?う、うお~っし、負けないぞぉ~っ。
……って、あれ?
「………………」
飲み物を出していた藤沢さんが男の子達に囲まれてる。男の子達は「姉ちゃんエロい~」とか「せくしぃだな~」とか色々藤沢さんをからかってるみたい。最近の子供は口が達者だから、私だったらああされちゃうと困っちゃうけど藤沢さんは表情一つ変えずにひたすら作業してる。本当に凛として動じない大人の女性なんだなぁ、すご―――
ズガアァァン!!
………………………………え。
「……うっさいんだよこのクソガキ共があああぁぁぁっっ!!!」
ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリッ!
……空気が揺れたよ?……店中の品物が震えたよ?……私、尻餅ついちゃったよ?七メートルは離れてるのに。
しかもさ…叫ぶ前に蹴ったよね?鉄製の棚、蹴ったよね?くの字になってるよ、棚。
この二つの衝撃で周りの子供たち腰抜かしてない?乱れた髪に隠れてここからじゃ藤沢さんの表情が見えないのがなお怖いんだけど…子供達泣きそうだよ。
「さっきからギャーギャーギャーギャー騒ぎやがって。ガキだから騒いでいいって法律はこの世の中には無いんだよぉっ!」
子供たちを高い位置から見下ろしながら藤沢さんが言う。今一番声が大きいのは藤沢さんだよね?
藤沢さんが叫んだ事でお店中の人がそっちの方に注目してる。みんなさすがに唖然としてるけど、店長や杉山さんはどこか笑顔だよ?柳葉さんは、普通にびっくりしてるけど。
「いいか、今この店にいる全員に告ぐ!無駄に騒ぐな!ガキを騒がせるな!でも普通の会話は幾らでもして良し!要するに、最低限のマナーはガキでも変人でも誰でも守れってこと!記憶したかっ!?これは、全てのお客様に平等に安心して買い物をしてもらうためのこの店の法律だぁっ!」
もの凄い演説をしたかのように堂々と言い放った藤沢さん。あれ、な、何か周りのお客さんたちが拍手とかし始めちゃってる!?あれ、柳葉さんも!?い、今のって感動するとこだったのかなぁ?割と普通の事言っただけだよね。
藤沢さんの周りで腰を抜かしていた子供達が、藤沢さんにまた睨まれてびくっとした。藤沢さんは完璧に子供達を全員見下して、ドスの効いた怖い声で小さく言った。
「今度騒いだら……、これだぞ?」
クイクイっと、さっき蹴り曲げた鉄製の棚を親指で指す。子供達がもう涙しながら必死に頷くのを見ると、藤沢さんはもう子供達に見向きもせず立ち去った。というか、こっち来た。
「ふ、藤沢さんっ……」
うあ、声震えてるよ、私。で、でも、仕方ないよねっ?今の今だよ?
「……さくら」
「は、はひっ!」
「……ゴメン、手伝って?」
「……ふぇ?」
藤沢さんは苦笑いを浮かべて、私にそう言った。
「……子供嫌い?」
バイト終了後、藤沢さんはそんな事を言った。
「そう。私、小学生以下の子供が大っ嫌いで……。ほら、子供って後先構わず大音量で騒ぎまくるじゃない?昔赤ちゃんに耳元で大泣きされて以来そういうのがダメになったのよ。キーンって来るから。…まあ、単純にマナーのなってないガキには普通にイライラするけど。そこら辺総合して、子供を見ると無性にイライラするようになったってわけ。それで、限界突破すると……」
「実力行使、と」
コクン、と藤沢さんは頷いた。その辛そうな顔を見るに実力行使の部分は気にしてるんだね…。
「やってから反省はするのよ。壊したもの直すのも手間だし……」
確かにあの後曲がった棚を強引に(力技で)戻してテープで補強したよね。散らばった商品を戻すのも大変だったかも。
「や、でも俺はいいと思いますけどね。ガキを調子に乗せちゃダメっすよ」
最後のゴミ捨てを終えて戻ってきた柳葉さんが横から入ってくる。杉山さんも一緒だ。美少女愛し隊の二人だね、もう仲良しだ。
「こっちとしてもああいうガキんちょがいると仕事し辛いっすしね。俺が言うと引くけど、リアさんが言うと説得力ありますし(物理的な意味で)。」
「リアリアはこの店の中で誰よりも強いからね~(物理的な意味で)。あれはあれで近所の奥様方には好評なんだよ、教育になるからって。あと一部のM属性の男性に。だから私達もむしろリアリアを子供に近付けたりしてるんだよね」
「え、近付けてんの?何よそのソフトな虐めは。……あとその一部の男共は消えればいい」
呆れ顔になってるけど、少し藤沢さんの雰囲気が和らいだ気がする。自分のやった事がそこまで悪く思われてないことが分かったからだよねっ。
「……でも~、怒鳴るのは良くないわよぉ~?」
……あ、店長、お疲れ様です。
店長のおかげで、柔らかくなっていた部屋の空気がまた一瞬にして重くなりましたよ?
「リアちゃんは、もうちょっと柔らかく接客出来ると良いわねぇ?丁寧だけどクール過ぎるところもあるし、お子様連れのお客様…というかお子様にも優しく接するように出来ると良いわね~」
「あ、はい……」
店長、バッサリ。せっかくみんなでフォローしてたのに。
「それと、水音ちゃんもね?」
「えっ、私!?」
今度は杉山さん。
「従業員同士ならまだしも、可愛いお客様が来たからって何でもかんでも抱きついちゃダメよ?まあ禁止はしないけど、少し抑えなさぁい」
「う。はぁい……」
それは同情できないよ、杉山さん……。いや、もじもじしながら私を見ても理解は出来ないよ!
「柳葉君も」
「げ、俺もっすか」
柳葉さんもあるんだ~、仕事出来るのに。
「綺麗な女性に優しくするのはいいけど、それ以外の人にも同じように接客してあげて欲しいのよね?男性客とか、お子様とか」
「…………………ふ~い」
すっごい嫌そうだ!それは本当にどうだろう!
「で、さくらちゃんは……」
「は、はいっ!」
私もあるの!?
「……早く仕事覚えてね?」
その通りだ!反論のしようがないよ!
全員が全員それぞれのダメなところを問答無用で言われて押し黙ったところに、でもすかさず店長は言う。
「あ、でも。私はリアちゃんのクールなところも、水音ちゃんの女の子好きなところも、さくらちゃんの一生懸命なところも、大好きよ?」
ほんわかした笑顔で、素敵に店長は微笑んだ。その笑顔で、私達はあっという間に癒された…気がする。これが、大人の女性の凄さってのだねっ。
「……あれ。店長、俺は?」
「え?」
「…………」
「………?………ああ!………普通ね~」
「大分待った割に答え普通!?」
「いや~、引かれてないだけよかったじゃん、ギバちゃん」
「そのあだ名畏れ多いんですけど!?」
「じゃあキバちゃん」
「仮面ラ○ダー!?」
「ダ○ルの方が私は好きだけどね!」
「俺はやっぱりク○ガっすね!」
「あら、龍○の方が燃える展開だと思うわ?」
「リア(リア)さんも乗れるの!?」
いつの間にか別の話題で盛り上がってる。うう、私はよく分かんないよ。
でも、こうやってわいわい楽しく話せるのって素敵だよね。私ももっとお仕事ちゃんと出来るようにして、もっと胸を張ってみんなの仲間だって言えるようにしたいなぁ。うん、頑張るぞっ!
「……みんな~?」
と、再び静かでほんわかした、重い声。全員の動きが、止まった。
「喋る前に、早くタイムカード切りなさ~い……?給料泥棒よぉ~?」
にこにこ、にこにこ。でもズゴゴゴゴ……。
事務仕事をしながら半分だけ振り向いて見せた店長の顔が、上半分だけ暗かった。黒かった。
「……この店の最強は、やっぱり店長よね」
リアさんの呟きに、みんなが同時に頷いた。
(あら~、最強って何かしらぁ~? みちる)
(ギクっ…… 従業員一同)