第一章:3 出会いは……
朝、フリージアは目が覚めた。
ベッドの上に仰向けになっていて、首だけ横に向けて、とろんとした目で部屋を見やる。
朝日が窓を通して降り注ぎ、部屋全体にはっきりとした陰影が浮かんでいる。
朝日の斜影角度を見る限り、ずいぶん朝早いということが予想できる。
フリージアは体を起こした。
とたん、体中に鈍痛が走り、小さく悲鳴を上げる。
なんてことない、ただの筋肉痛だ。
リオンの無茶苦茶な登山と下山につき合わされれば誰だってこうなる。
実は昨日まで確かに筋肉痛ではあった。
それはさほど気になるほどの痛みではなかったのだが、一晩ベッドでぐっすり眠って緊張の糸が切れたのか、現在は体中が悲鳴を上げている。
少しの間呻吟していたが、ゆっくりとできるだけ体が痛くならないように、ベッドから立ち上がる。
外の空気を吸おうとして、窓を開けにいく。
筋肉痛のせいでずいぶんぎこちない歩き方になっているものの、何とか窓の元までたどり着いた。
暖かな日の光に包まれながら窓を開けると、爽やかな風とともに、新鮮な朝のすがすがしい空気が流れ込んできた。
空は雲ひとつなく快晴で、鳥のさえずりが平和な朝の訪れを祝福しているようだ。
フリージアは、深く深呼吸をすると脳が一発で覚醒した(その前に、筋肉痛でずいぶん覚醒していたけど)。
ふと視線を下に向けると、そこにはリオンがいた。
裏庭で、虚空に向かって剣を振るリオン。
その動きに無駄が見られず、全方向に隙がない。
リオンの流れるような剣の舞は、剣に疎いフリージアが見ても、とても美しく見える。
リオンにばかり気を取られて気づくのが遅かったが、ずいぶん見物人がいる。
見物人は、ときおり拍手をしたり、声援を送ったりして楽しそうだ。
しかしリオンはそんなことには無関心に、ただ剣を振るっている。
しばらくリオンを眺めていたフリージアは、もっと間近で見ようと思い、顔を洗ってから部屋を出た。
筋肉痛のせいで四苦八苦しながら廊下を渡り、壁に手をつきながら階段を下りる。
ホールは二階の部屋と違って陽光があまり差し込んでおらず、少し薄暗い。
薄暗いホールの中に、テーブルを拭いているミレイアの姿が目に映った。
ミレイアもフリージアを見つけたが、彼女のつらそうな姿を見るやいなや顔色を変えて、雑巾を置いて駆け寄った。
フリージアは階段の三段目にいたので、自然と見上げながらミレイアは心底心配そうにたずねる。
「どうしたんだい? 具合でも悪いのかい? 薬とってこようか?」
フリージアは、ぜんぜん平気という風に微笑みながら言う。
「大丈夫です。ただの筋肉痛ですから」
「筋肉痛って、ただの筋肉痛でそんなになるのかい?」
「なりますよ。リオンさんと一緒にいれば誰だって」
フリージアは、意味深に言うと、タール山脈を越える道中を思い出して苦笑したあと、ため息を漏らす。
そんなフリージアを訝しげに見ていたミレイアは、心痛を察したようだ。
「何があったかわからないけど、大変な思いをしてきたんだね」
「わかってくれますか」
フリージアの瞳が潤んでいる。よほどリオンのペースにつき合わされたのがきつかったのだろう。
ミレイアは穏やかな微笑を浮かべた。
「あの子なら裏庭にいるよ。呼んでこようか?」
「いえ、大丈夫です。部屋から見ましたので、今から行くところです」
「そうかい。あの廊下を進んでいけば裏庭に出られるよ」
「わかりました」
フリージアは階段を下りて、ギクシャクしながら廊下を目指す。
ミレイアは、フリージアの後姿を心配そうに眺めていたが、何ができるわけでもなく、仕方なくテーブルを拭きに戻った。
規則正しく間隔をあけた燭台が壁に掛けられた廊下を渡って扉を開けると、リオンが裏庭の真ん中あたりで剣を振るっていた。
リオンからはまるで疲れたそぶりが見えず、汗ひとつ掻いていない。
フリージアは、扉を閉めると、扉のわきに移動した。
相変わらず美しい剣さばきに見入っていると、見物人の中から歓声とは違う声が聞こえた。
「なあ、あんた」
声の主を探すと、一人の青年がリオンに向かって歩いているのが目に付いた。
♪ぽ〜にょぽ〜にょぽにょ魚の子〜、青い海から、や〜てきた〜♪
この曲は……言うまでもありませんね(笑)
今回は字数が少なくてすいませんでした\(__ )