第一章:1 退屈
自分自身思いもよらず、意外と早く更新出来ました。
さて、今回はリオン達とはまた違う人物に焦点をあてています。
ここはタール山脈の麓に位置するセインバーグ領地の、セインバーグ城。
その裏庭に、一人の青年がいる。
「なんか面しれ〜ことないかな〜」
退屈そうに、座り込んで壁にもたれている青年が呟いた。
青年は、二十歳前半くらいで、身長百八十センチは軽くあり、体躯も良い。
目を見張るような金色の髪は、肩と腰の中間くらいまである。
エメラルドのような緑色の瞳。
腰の左側に差した純銀製のロングソードが良く似合う。
青年は、とにかく全身から脱力感が漂い、退屈であることをアピールしている。
だからといって、それを見ている人間がいなければ何の意味もない。
まあ、見ている人間がいたとしても、青年の退屈を解消してくれるとは限らないが。
青年は、思いっきり欠伸をすると勢いよく立ち上がった。
「だああぁぁぁ、暇だ! 退屈だ! どうしてこうも平和なんだ!」
「うるさいぞ! 静かにしないか!」
突如として頭上から声が響いてきた。
壁の方を向いて見上げると、ちょうど自分の真上にある三階の窓から、顔を覗かせる中年の男がいた。
その男はボサボサ頭の茶髪で、いたずらっぽくニヤニヤ笑っている。
「んなこと言ったってよ。暇で暇で死にそうなんだよ。何か面白いことないのか?」
「ほほう、警備兵隊長どのが暇で死にそうなのか。この平和に感謝して、一緒に黙祷を捧げようじゃないか」
「……嫌みなこと言うなよブロード」
「そう思うなら少しは鍛錬でもしたらどうだ? お前の後ろに練兵場があるのは気のせいか?」
青年は後ろを振り返る。
朝早いためか、人気がなく閑散とした練兵場は、どこかもの悲しい雰囲気がある。
青年は苦笑して、再びブロードを見上げる。
「だって部下が誰一人鍛錬してないんだぜ。バカバカしくないか?」
「ほう、部下というのは上官の背中を見て育つものだと思っていたが、俺の間違いだったらしいな」
青年は、これ以上会話を続けると、自分が不利になる一方だと悟り、裏庭から離れる。
それを見ていたブロードが、慌てて叫ぶ。
「あっ! おい! どこへ行くつもりだ! ディブロ!」
「うっせーな。ちょっと散歩してくるだけだよ!」
それだけ言うと、さっさと歩いて行ってしまった。
――――――
ディブロは、セインバーグ領地の大通りをゆったりとした足取りで、歩いている。
ただ田舎領地のためか、大通りというよりだだっ広い道といったほうがいいのかもしれない。
大通りの両側には、ぽつりぽつりと家々が並んでいる。
爽やかな風がディブロの髪をなびかせ、朝の暖かな光が金髪を輝かせる。
しかしその顔は、どこか憂鬱そうに見える。
相変わらず揉め事もなく平和な領地に、不謹慎にも失望しながら歩を進める。
そもそもこんな朝早い時間に、揉め事があったりするはずがない。
通りすがりにすれ違う人物も少なく、牛乳を取りに行っていると思われる子供が通りかかったり、牛乳を抱えながら帰路に着く子供とすれ違ったりするくらいだ。
うつむき加減に嘆息をつきながら歩いていると、果物を売っている露店を見つけた。
先ほどまで嘆息をついていた人間とは思えないほど嬉々として、軽く足を弾ませながら、引き寄せられるように露店の前まで歩いていく。
「おっ、ディブロじゃないか。めずらしいな、こんな朝早くに」
露店の店主である中年の男性が、親しげに話しかけてきた。
「ああ、なんか目が覚めちまってな、暇だからぶらぶらしてんだ」
そう言いながら、赤々としたリンゴに手を伸ばし、上にぽーんと投げてはつかむ動作を繰り返しながらたずねる。
「これ、いくらだ?」
「銅貨三枚」
ディブロは懐から銅貨三枚取り出すと、店主に手渡す。
それを受け取った店主は微笑みながらハンカチを取り出した。
「リンゴ、拭くものが必要だろう?」
「さすが、気が利くね〜」
ハンカチを受け取ったディブロは、大雑把にリンゴを拭く。
ハンカチを店主に返すと一言「ありがとうな」と言って露店から離れ、再び大通りを歩き出す。
いつの間にか活気付いていた大通りを、リンゴをかじりながら歩いていると、人だかりが目に付いた。
人だかりは、<旅人の安らぎ>という宿の裏庭の路地に集まっている。
もしかしたら退屈しのぎになるかもしれないと思い、興味本位で近づく。
食べかけのリンゴを片手に持ちながら、人ごみを掻き分ける。
「あ〜ごめんよ。ちょっとどいてくれる? は〜い通りますよ。どいてどいて。あっ、足踏んじゃった? 悪い悪い。……よっと」
そんなこんなでようやく人ごみを脱出。
そして目に飛び込んできたのは、異常なほど真っ黒い少年が、ショートソードを振るって仮想の敵と戦っている姿だった。
腰の右側には、今まで見たことのない特徴的な剣が差してあり、腰の左側には、ショートソードを収めるための鞘が差してある。
血のように赤い髪。冷たく輝く青い瞳。無表情な顔。
それなりの群集に見られているのに、まったくというほど何の感情も見受けられない。
ただ淡々と、黙々と仮想の敵と戦っている。
無表情な少年を見ていと、鍛錬というよりは一種の機械的な作業のようにも見える。
だが、その剣を振るう姿はとても美しく、品位が漂っている。
それほどまでに洗練された、華麗な剣技だった。
少年は、その美貌で小さな女の子からおばさんまで虜にし、その剣技で小さな男の子からおじさんまで魅了した。
ディブロの耳に、様々な感嘆の声が聞こえてくる。
「すごいな。剣術に詳しいわけじゃないが、本当に美しいな。もしかしてどこかの貴族何じゃないか。お忍びで旅をしているとか」
「いや、お忍びだったらあんな目立つ格好しないだろ」
そんな言葉を聞いているうちに、胸のうちに沸き立つ闘争心を抑えられなくなってきた。
そもそもあんな剣技を見せ付けられて、黙っていられるわけがなかった。
警備兵隊長として、自分自身の栄誉のため、そして何よりも、戦士としての自覚が戦うことを望んでいる。
暇つぶしで散歩して良かったと心の底から思い、喜びに顔をほころばせる。
急いで食べかけのリンゴを食べると、残った芯をぽんっと捨てた。
そして少年に声をかける。
♪みあ〜げた〜なら〜、夜空を切りさ〜いて〜♪
ども、今回もL'Arc〜en〜Cielです。
曲は『NEXUS 4』です。
大好きなんです。
すいません\(__ )
いかがでしたか?
楽しんでくれたら幸いです。
多分、次で少女の名前が出ると思います(多分)。