序章:始まり
処女作ですので、いたらないところが多々あると思いますが、ゆったりと読んでください。
ここ、タール山脈に、首都ヴェインリベアへむかう一人の少年と一人の少女がいる。
「あの、ちょっと休憩しませんか?」
可愛らしい少女の声。
その声に反応して、先を進んでいた少年は立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
その少年は、身長百七十五センチくらいの、十六歳くらいで、女性がほうっておかないようなかなりの美形。ツンツンして血のように赤い髪。サファイアのように透き通った碧眼は、無感情に、ただ美しく、鋭く、怜悧な輝きを放っている。
さらに特徴的なのは、その服装だ。
漆黒のフード付きのコートに、漆黒のズボン、漆黒のブーツ、漆黒の手袋と、見事に黒尽くしだ。
広葉樹の森の中で木漏れ日を受けるその姿は、ややもすると不気味にすら見える。
それとは対照的に、右側の腰に差している、光沢のある純白の鞘がひときわ美しく映える。
精巧な装飾が施された鞘は軽く湾曲しており、片刃の剣、すなわち刀を収めている。
ついでにいうと、背中にはけっこうでかい荷物を背負っており、右手にもフライパンやら包丁やらなんやらかんやら入っている荷物を持っている。
現実的な荷物を持っているという点以外では、神秘的、幻想的かつ主人公確率高めの少年だ。
少女も、十六歳くらいで、身長は百五十五センチくらい。首にかかるくらいの髪の色は紅、ぱっちりとした瞳の色は温かみのあるみずあさぎ、純白の服には刺繍が施されてある。
この服は、フールデルト教会のもので、少女が修道女であることを示している。
かなり可愛くて、清廉潔白という言葉が良く似合う、これまたヒロイン確率高めの少女だ。
少女の呼びかけに振り返った少年は、自然と見下ろした。
少年の表情は、良く言えば不服そうな表情、悪く言えば完璧な無表情。その上鋭い目つきをしている。
まるでこの世のすべてを冷眼視しているような……そんな視線が少女にむけられる。
「何度休憩するつもりだ?」
「リオンさんが速すぎるんです」
少女は、おしりが地面につかないように座っていて、後ろにひっくり返らないように、自然と前に重心を傾けている。
額からは汗がにじみ出ており、肩で息をしている。背負った荷物が重そうだ。
少女に体力がないわけではない。むしろ体力があるほうだ。
タール山脈は、首都ヴェインリベアから遠く離れた場所に位置する辺境の地なのだが、少々斜面が急な道を通らなければならない。
いや、絶対この道を通らなければならないというわけではない。
くねくねと曲がっていて登山、下山に時間がかかるが、歩いて行くのに適した正規ルート(峠)がいくつかあったのだが、リオンが
「いちいち遠回りする必要はない」
と、少女の意見を一蹴。最短ルートを通る事になった。
ただ、その最短ルートというのはつまり、ほぼ一直線に登っていくというだけだ。
なんとも単純で安直な考えだが、やはりそれは険しい道だった。
というかそこに道はなく、広葉樹の森をただひたすらまっすぐ目的地に向かって突き進むというものだった。
最初はまだ緩やかだった傾斜も、先に進めば進むほど徐々にキツくなってくる。
そのうえ少女が言ったようにリオンが『速すぎる』のだ。
リオンは、木々の間を抜けるように、跳躍しながら先へ進む。それはまるで鹿が山を駆けるような優雅さがあった。
リオンは、少女から離れると一度立ち止まり、近づいてくると、また鹿のように、優雅に跳躍して先へ進むというのを繰り返す。
ただ、優雅でありながらも迷惑千万な鹿につきあわされる少女は、もうくたくただ。
リオンを待たせては悪いと思い、一生懸命ついて行くのだが、そのせいで注意力が散漫になり、足を滑らしたり、むき出しになった細い木の根につまずいて転びそうになったりと、けっこう危険な災難にあっている。
リオンは、しばらく冷たい視線を送ったあと、すぐそばにあった木に歩み寄り、手に持っていた荷物と背負っていた荷物を、転がり落ちないように気を付けながら降ろし、木に背を向けて寄りかかると腕を組み、目をつぶる。
とりあえず、休憩を了承したようだ。
少女はゆっくりと立ち上がると、力を振り絞って歩くきだす。
リオンが寄りかかっていた木のすぐ近くにあった木に、リオン同様に背中に背負っていた荷物を注意深く下ろして、ゆっくりと座り、木に背を向けてもたれかかる。
荷物から水筒を取り出してゴクゴクと水分補給。顔に生気を取り戻す。
なんとなく空を見る、が木漏れ日がちょうど目に当たって首を元の位置に戻す。
時刻はまだ昼にはなっていない。太陽はまだ真上には来ておらず、少し傾いている。
広大な森の中に、点々と降り注ぐ木漏れ日は、初夏の若々しい緑と、美しい色彩のハーモニーを奏でている。
暖かな初夏の木漏れ日を受け、少女もまぶたを閉じる。
広葉樹の森から聞こえてくる風の音色、木々のざわめき、鳥のさえずり、川のせせらぎ、辺りを満たす緑の香り。
森林浴をしているようで、これだけで少女はとてもリラックスできた。
「いつまで眠っているつもりだ?」
「……眠ってたわけじゃありません」
少女はムスッとしてリオンを見上げる。
リオンは相変わらずの冷眼視で少女を見下ろしているが、少女は不満げに異議申す。
「まだ少ししか休憩してません。ていうかこんなの休憩っていいません」
少女は頬を膨らましてぷりぷり怒っているが、リオンはまるで気にしてはいない。
リオンは少女から目を逸らして、両手をズボンのポケットに突っ込む。
「あいつら、どうする」
「? あいつら?」
リオンは顎である方向を示す。
その方向はリオンの左側、進路である上り坂を指している。
少女はその方向に目を向けるが、リオンがちょうど陰になって先が見えない。
そこで座ったまま身を乗り出して、もう一度目を向ける。
すると、少女は驚き、目を見開く。
視線の先にいたのは、十数人の男たちだった。
二十メートルほど離れた場所から、こちらに向かって下ってくる。
木々が邪魔してよく見えないが、その風采は,服は所々ボロボロで、動きやすさを重視した服装であると推測できる。
それぞれの手には、様々な武器を持っている。
まるで、全身に『私たちは山賊です』と、書いているようだ。
少女は慌てて立ち上がった。
「あっ」
そのときに両手で持っていた、水筒を落としてしまった。
水筒は、少し堅い土の上を転がるように、跳ねるように落ちてゆく。
そのまま落ちていってしまうと思ったものの、幸い飛び出した木の根にぶつかって、十メートルほど下った所で停止した。
それを見ていた少女は、また慌ててリオンに駆け寄る。
リオンの横に隠れるように寄り添って、リオンの服の裾をしっかり掴んで、目で『逃げよう』と、訴えかける。
少女の手は恐怖で震えているが、リオンは相変わらず両手をズボンのポケットに入れたままで、悠然と構えている。まるで逃げようという意志が感じられない。
そうこうしているうちに、山賊たちは,五メートルほど近くにまで来ていた。
リオンは、自分の左側に固まっている山賊たちを、さして興味無さそうに、一応全体の構成をみた。
山賊たちの数は二十人。それら全員に共通しているのは、筋肉隆々で、武器を持っていることだ。
武器は、ほとんどが棍棒だが、剣を持っているものも数人いて、一人だけ立派な斧を持っている。おそらくそいつがリーダーだろう。
リオンは、一通り全体の構成を見ると、本当に興味が失せたというように、山賊たちから目を逸らし、首を元の位置に戻す。
山賊たちは,リオンたちを取り囲むように移動し、リオンたちを中心に、半径五メートルほどの山賊たちの円ができた。
「よぉ、こんなところで何をしているだ」
山賊たちのリーダーが話しかけてきた。
リオンは、自分の左側にいるリーダーを横目に見る。
その男はにやにや笑っていて、かなりの不快感を与えてくる。ほかの奴らも似たような笑みを浮かべている。
ただ、脅えている少女にとっては、更なる恐怖を与えるものであり、リオンにとっては、気色悪い笑い方でしかなかった。
リオンは目を逸らし、いつも通りの、冷ややかな無表情でリーダーの問いに答える。
「お前たちの問いに答えてやる義理はない」
リーダーから先ほどまで浮かべていた、不快感を与えつつも気色悪い笑みが消え失せ、かわりに眉根をひそめて不快感をあらわにした。
「おい、お前いま自分がどういう状況か、わかっているのか?」
「十分理解しているつもりだが」
リオンの態度はリーダーを更にイラだたせた。
山賊たちは、獲物を狩る前に、恐怖に引きつった顔が見たかったのだ。
その点で言えば、少女の脅えきった表情は、山賊たちを満足させるものだった。
だがリオンの態度は一切の恐れがなく、それどころか、自分たちを見下して、なめきっているように見えた。
そもそもリオンは、山賊たちをまともに相手にしていない。
目を合わせず、ただ真正面を向いて、虚空を見つめているのが、いい証拠だ。
そのことが、リーダーをよりイラだたせる。
リーダーは、顔を歪ませ、声だけは冷静に続ける。
「どうもお前は馬鹿らしいな。自分の状況がわかっていながらそんな」
「臭いな」
「ハァ?」
リオンは自分の小手で、鼻を覆った。
「臭いんだよ、お前ら。鼻が曲がる」
確かに、山賊たちからは、鼻を突くような臭いが漂っている。
少女は恐怖のためか、そのことに気づいていなかったが、リオンの言葉によって、嗅覚が戻った。
うっ、確かにそう言われると……
少女は、リオンのように、あからさまに鼻を覆ったりしなかったが、かわりにリオンの服に顔をうずくめることによって、臭いから逃れた。
山賊たちは、怒りで震えている。
「お前、あまり俺たちを怒らせるなよ。どうせ死ぬなら、ひと思いに死にたいだろう?」
「死? 俺を殺そうと言うのか? 愚かな。いや、もはや哀れだな。自らがそんなに強いと思っているのか? 醜男の集まりな上に、馬鹿ばかりか。お前たちの未来に哀悼の意を表そう」
リオンの淡々とした毒舌は、山賊たちの怒髪天を衝いた。
山賊たちから、激しい怒号と罵声が飛び交い、一斉に武器を構える。
少女は脅えて、身を縮こませ、リオンに食い込むんじゃないかと思うくらい、顔をうずくめる。
リーダーは、とうとう声を荒げて言った。
「ふざけるな! 愚かなのはお前だろう! ひと思いに殺ってやろうと思っていたが、予定変更だ。お前はジワジワいたぶって殺してやる! そこの女は奴隷としてこき使ってやる」
「ふえっ」
いきなり、引き合いに出された少女は、ビックリして、顔をガバッと上げて、リーダーを見る。
リーダーは怒りで激しく顔を歪めていたが、少女と目が合うと、いきなり例の気色悪い笑みを浮かべ、値踏みするように、舐め回すように少女の全身をジロジロ見る。
「ほぅ、良く見ればなかなかの上玉じゃないか。お前は、俺のおもちゃにしようかな」
「えぇ」
リーダーの、おもちゃという言い方がやたら生々しい。
少女は困惑してどぎまぎしている。
恐らくリーダーが何を考えているのか、見当がついていないのだろう。
修道女だからそういうのには疎いのだろうか?
「ちょっと待ってくだせぇ」
今までずっと黙っていた山賊たちの中から、一人が口を挟む。
「お頭、あっしたちにも恵んでくだせぇ」
「心配するな。俺が飽きたら、お前たちに恵んでやる」
「そりゃありがてぇ」
山賊たち全員が、にやにやと笑っている。
構えていた武器は、ただ持っているだけという状態になった。
心はすでに、少女とある行為に浸っているのだろう。
少女は、更に強くリオンの裾を掴み、潤んだ目でリオンを見つめる。今にも泣き出しそうだ。
リオンは少女を一瞥した。
「手を離せ」
「えっ?」
少女は戸惑った様子だったが、恐る恐る手を離す。
リオンは、両手をポケットから出して、寄りかかっていた木から離れる。
「下卑た奴らだ。不愉快だ。その下品な笑いをやめろ」
さっきまでにやにや笑っていた山賊たちから、気色悪い笑みが消え、みるみるうちに怒りの色をあらわにする。
山賊たちからリオンに、殺意と敵愾心のこもった視線が注がれる。
「お頭、あっしはもう我慢できませんぜ。早く殺っちまいてぇんですが」
「そうだな。さっさと殺っちまうか」
山賊たちは、すでに襲いかかる準備は完了。後はリーダーの号令があれば、すぐにでも襲いかかってくるだろう。
リオンは面倒くさそうにリーダーの方を向き、感情が読み取りづらいその目で、リーダーの目を見る。というよりは、焦点を合わせた、といった方がいいだろう。
「なぁ、お前」
「何だ? 今更命乞いか?」
「絶望を知っているか?」
「ハァ?」
リオンは、木々に隠れてよく見えない天に両手を伸ばし、仰ぎ見る。
「絶望とは全ての堕落。全ての破滅。全ての終焉。美しき闇。悲しき希望。魅惑的な奈落。甘美な誘惑。」
「何わけのわかんねーことを」
「絶望を見てみたくはないか」
リオンは両手を下ろし、再びリーダーに焦点を合わせる。
そしてリーダーに向かって、手のひらを上にして、左手を伸ばす。
それはあたかも、ダンスのパートナーに手を差し出すように。
「残念だがお前に真の絶望を見せることはできない。だが、その一端を見せることは可能だ」
「な、何だ、お前。頭おかしいんじゃないか」
「お頭! こんな奴さっさと殺っちまいましょう!」
我慢できずに、山賊の一人が叫んだ。
すると、リオンは一瞬、冷笑ともいえる不敵な笑みを浮かべた。
それは、一秒にも満たないほど短いものだった。
だがそれは、見た者をゾッとさせるような、おぞましい笑みだった。
その場にいた、リオンの笑みを見た者は、背筋に寒気が走った。
そして、それを最も強く感じたのはリーダーだった。
リーダーは、背筋に寒気と電気が同時に走った。
心臓が破裂するんじゃないかと思うほど、早鐘のごとく鼓動をうつ。
頭の中に警鐘が鳴り響く。
こいつは危険だ。今すぐに離れろ、と。
リオンは、鼻を鳴らして、ゆっくりと左手を下ろす。
「フッ、お前たちには理解できないことだったか。まあいい。理解する必要は無い。お前たちはここで朽ちる」
凍てついた眼光がリーダーを貫く。
放たれた殺気が、辺りの空気を支配する。
バタバタと、鳥の慌ただしく飛び立つ音が、あちこちから聞こえる。
瞬く間に、糸を限界まで伸ばしたかのような、張り詰めた緊張感が辺りに漂う。
山賊たち全員が、顔を緊張で強張らせる。
山賊たちは今、死の淵に立たされたような緊張感と恐怖、絶望感を味わっている。
先ほどまでの威勢は跡形もなく消え去り、恐怖に戦慄き、数人が後退りし、今にも逃げ出しそうな者もいる。
だが逃げられない。
リオンの一挙手一投足が気になって、とても顔を背けられない。
リオンの微かな仕草や、まばたきですら恐怖を煽る。
山賊たちは明らかにリオンを畏怖している。
だが、この状況で一番悲惨なのは、リオンの眼光をまともに受けいるリーダーだろう。
リーダーは逃げ出すこともできず、戦慄くこともできず、目を逸らすこともできず、まばたきすることもできず、息をすることすらもできず、全ての自由が奪われた。
この山賊たちは、藪をつついたがために、死神を呼び出してしまったのだ。
リオンは刀の柄に手を伸ばし、抜き放とうとした。
「ダメです!」
リオンのすぐそばから、聞こえてきた声。
それは少女の声だった。
リオンは少女を見下ろす。
少女はリオンの服の裾をギュッと掴み、リオンの見上げる。
リオンの目を見た瞬間、ビクッと震えた。
リオンはとっさに目を逸らし、再びリーダーに目を向ける。
リオンの放つ殺気の一端に触れて、少女は戦慄いた。
それでも必死に続ける。
「ダメです。殺してはいけません」
リオンにしか届かないほどの、小さな声。
だが、決然とした意志がこもった声。
少女の震えが裾からリオンに伝わる。
「……気絶させる。それくらいならいいだろう?」
「……はい」
刀の柄から手を離す。
凍てついた眼光は、普段の冷たい目に変わる。
辺りを満たしていた殺気が消えると同時に、張り詰めていた空気が消え去った。
しかし、それと同時に山賊たちの緊張の糸が切れてしまった。
リーダーは泡を吹き、白目になってうつむけに倒れる。
死の淵から解放された残りの山賊たちは、二つの種類に分かれた。
弾かれたように逃げ出す者と、狂乱して襲いかかってくる者。
その二つの共通点は、悲鳴と絶叫を同時に発していることだ。
「うわああぁぁぁぁ!!」
リオンは瞬時に臨戦態勢に移る。
そして、一方的な戦闘が始まった。
♪迫り来るしょうげ〜き〜へ〜と〜、恐れずに、と〜び〜こ〜み、し〜んじーつーが〜♪
あっ(・o・)どうも、L'Arc〜en〜Cielを神と崇めるDARKNESSです。
曲は『DRINK IT DOWN』です。
少しでも楽しんで読んでくださっていたら、大変嬉しいです(^∇^)/




