思い込み、思い詰め
ーー関所。
イヴが何か書類のようなものに、何やら記号のようなものをさらさらと記述すると、その紙をポストのようなものに投函した。
それを見届けた関守は、関所の奥へと入っていった。
あれ。
ーータオの解説。
「イヴに課せられた極秘ミッションは、この村に言葉を提供する生贄を連れて帰ることだったの。関守は村長に買収されて黙認していた。だから生贄のあんたがこの村に来たことは、私たちしか知らないの」
あれ。
俺は。俺たちはなんちゅう思い込みをしておったのだ。
この村に秘密裏に入れられた。
つまり、勘当されたとはいえ、まだ東海都に籍があるではないか。
それを俺は平然と村人面をして、へらへらとこのところ過ごしてしまっていた。
もはや、生まれも育ちもこの村だったんじゃないかというような居心地の良さに安心しきっていた。あほ丸出しである。
皆んなも言うてくれたらよかったのに。
気づいてなかったんなら同罪やけど。
もし1人でも気づいてる奴がおったとしたら、俺は勇者なのに、勇者にも関わらず、策を労せ策を……と必死に手をこまねいていたただのチキンではないか。なんたる恥。恥さらし。末代まで恥。
気づいた時には、思い込みによって追い詰められていたのだ。
「ど、どうしたのよアケビ」
「タオ……はさすがに気づいてないか」
「なにが? なにがよ」
「いや、何でもない。気づいてても恥ずかしいし、気づいてなかったんならそのままでいてくれ」
アケビはそう言い残し、八百屋を飛び出した。
そのまま、関所を抜けた。
「イヴ様、このままで良いのですか」
サチは言う。サチは、イヴの付き人として、行動をともにしていた。
「……」
イヴは、高座に上がる時以外は、頑なに口を開こうとはしない。それを分かってなお発されたサチの言葉は、独り言に近かった。
イヴは気づかぬうちに、無言で思い詰める日々に追い込まれていたのだった。




