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喋ったら、死ぬかも知れない。だから俺は、喋りまくる。  作者: 中田翔子
突破口

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14/51

時をかけるそば屋。かけそば。

夜もすがら。

男女二人羽織。

めくるめくお約束の数々。


なんてことはなく、稽古は真面目そのものであった。


「ひー、ふー、みー、よー、いつ、むー、なな、やー、いま何刻でい。そうねだいたいね〜なんつってな。それじゃあ進まねえからもう一度、いま何刻でいと聞くと、まだ早い〜なんつうもんだから、なめてんじゃねえぞ。たかが蕎麦屋のくせに三つ星気取りか。え?お前んとこは何つ星か言ってみろ。へえ、うちは、オールスターズです」


「すごーい。これが落語なのね」


「いんや。これを親父に見せたら、時そばとサ○ンへの冒涜だって言ってコテンパンやったね」


「面白いのに」


「まあとりあえずスタンダードな時そばやってみたら? 」


「やるって言ってもどうすれば」


確かにそうだ。

落語を教えてくれと言われて二つ返事で承諾はしたものの、当然アケビ自身誰かに教えたことはない。

父親につけてもらったようなスパルタ稽古は望まれていないと言うことだけはわかるのだが。


「じゃあ会話の練習だけでもしてみるか」


「会話の練習? 」


「じゃあ最初は俺がそば屋をやるから、そば屋を騙す男やってみな」


「わかった」


「十六文になります」


「ああわかったわかった。小銭は間違えるといけないから、ひとつずつ数えるね」


一生懸命台詞を言うタオ。

寝間着を着たタオ。

少し汗ばんだタオ。


「ひい、ふう、みい、よう……」


タオの数え方は吐息が混じっていて、どことなくセクシーな感じがする。


「いつ、むう、なな、やあ。あれ、いまどこまで言った? 」


「8まで言ったよ」


「そうだったそうだった。ここのつ、とお……」


「まってまって。それやと定価やから。メーカー希望小売価格やから。払てまうから」


「あれ? なんで? 」


「とりあえず8までちゃんと数えて」


「わかった。ひい、ふう、みい……」


やはりタオの数え方にはエロスが混じっている。エロス混じりの。エロス含有の。


「よう、いつ、どこで、だれと、どのように……」


「5W1Hとかいらんねん」


「ごめん癖で」


「どんな癖やねん」


「ひい、ふう、みい、よう、いつ、むう、なな、やあ。いまなん刻だい? 」


「ここのつ」


「いまドキっとしたでしょ」


「し、してないわ」


「略して、いま何ドキだい? 」


「42ドキ〜。とか言うかっ。0ドキやわ」

と言った瞬間、襖の開く音がした。

95ドキドキした。


「はいはいアケビくぅん」


「びっくりしたあゴトウさん」


「お前何してんだよ」


「え、落語を教えて……」


「いつ? どこで? だれと? どのように? 」


「うわ出たこれかさっきの」


「さっきイヴちゃん帰ってきてさあ、あれれと思ったのよ。こんな夜遅くに。え? いまなん刻でい? 」


「なんかわからんけど、すんませんでした」


そしてゴトウさんの背後から、イヴがひょっこり入ってきた。

イヴの顔はいつもの無表情よりも、少し、曇っていた。

同じ曇り空でも、雲が暗い色をしている。そんな感じがした。


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