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喋ったら、死ぬかも知れない。だから俺は、喋りまくる。  作者: 中田翔子
突破口

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12/51

アケビがこの村に流れ着いてから2ヶ月が経った。

相変わらず村人たちは積極的に会話をすることはないが、八百屋での高座は毎日行われ、朝起きて朝食を摂って排便を済ませたら八百屋の前に集合するというのが皆の習慣となっていた。

夏休みのラジオ体操さながらである。

そのおかげもあって、村全体の活気は戻りつつあり、そのほとんどがシャッターを下ろしていた商店街が、またぽつぽつと営業を再開した。

要するにみな暇なのである。

労働に追われる最中は休みが欲しいと口癖のようにのたまうが、いざ働かなくてもいいことになると、何をして良いかさても分からずむずむずしてしまう。

結局人間は働きたいのだ。


「ところでアケビよう」

ゴトウさんが言う。

この2ヶ月間、見知らぬ男を娘と同じ部屋で寝かせる訳にはいかないと、ゴトウとアケビはこの部屋で、1つの布団を分け合っているのである。

ちなみに敷布団と枕はゴトウが有し、アケビには掛け布団が支給された。アケビはそれを敷布団代わりにして眠った。そもそも暑いのでそんなものは不要ではあったのだが。


「なんですか」


「この2ヶ月間お前を見てきたけどよ」


「寝顔も見たの? きゃー恥ずかしい」


「写メ撮っちゃったぞ。じゃなくて」


「なんですか」


「お前ほんとよく喋れるよな」

そう言われてアケビは、少し黙る。

確かにおかしいのだ。

言葉の蓄積が基礎体力となる以上、ある程度の貯金はあると自負してはいた。

しかし、ゴトウさんのように高座に上がっているのであれば別だが、普段ゴトウさんとタオと喋るくらいで、圧倒的に支出の方が多い。

つまりこの2ヶ月で相当量を吐き出しているはずなのだ。

にも関わらず、身体の異常はひとつもなく、むしろ生活の心配をしなくていい分、すこぶる調子は良い。

なんだこれ。

これが都会に疲れた人間が田舎暮らしで元気になるあれか。

野球を辞めて大好きな釣りに興じて元気になるあれか。


「なんでなんすかね」


「なんかちょっとした噂になってるらしいぞ」


「え、なんですか噂って」


「お前落語好きだろ」


「好きっていうか、まあ」


「そのおかげなんじゃないかって」


「え、どういうことですか」


「つまり、膨大な量の落語をインプットしてるから、病にたいして抗体があるんじゃないかって」


「なんじゃそのトンデモ理論」


「言葉に好かれてんじゃないかってことじゃないか」


「少なくとも好かれてはないですよ」


抗体。その存在を意識したことはないこともなかった。

しかし、落語をインプットしてるから抗体があるというのは、飛躍し過ぎというか、腑に落ちない。でも……。


「ゴトウさん、高座に上がった後、今日はいつもより調子いいなって日とかってあります? 」


「え? そうだなあ、客の歓声がでけえ時かな。あとは、あ、そうだ。なんかよ、上手いこと喋れた日は調子いいぜ。って当たり前か」


「そうっすね。それは当たり前や。上手いこと喋れたから調子いいってことなんやから」


「まあなんか、もし落語教えてくれって奴がいたら、無理しない程度に教えてやってくれや。お前もちったあ働きたいだろ」


「いや俺は……。考えときます」


ゴトウさんは部屋から出て行った。


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